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鈍色の桜

 桜舞う季節、理不尽に両親を失った幼い子供の心が辛くて張り裂けそうになるも、自分よりも悲しそうに佇む異質な存在を元気付けるため琥珀色の飴を渡すのだった――。

 ひとつ屋根の下で暮らす前、過去に出会っていたひこいしとあけびの話。

 口裂け女に背伸びして恋をする少年(人間×人外)の物語りこれにておしまい。

 まただ。まただ。

 僕が愛している人が好きといった人が僕の前から消えていく。僕の一番大切な人達がお空の上に連れて行かれちゃう。どれだけ泣いても、どれだけ嫌だって叫んでも、お空の上にいる神様が連れて行っちゃう。


 ねえ。


 僕、なにか悪いことしたのかな。神様を怒らせるようなことしたのか、な。

 父さんと母さんの言うことちゃんと聞いていたのに。好きって、大好きって、大事で大切で、一番愛していたのに。駄目だったのかな…。

 僕は誰かを好きになっちゃいけないの?

 お願い神様教えてください。僕はこれからどうすればいいの? 一人ぼっちはいやなのに我慢しなきゃいけないの…?


 父さんと母さんが寝ている箱の中に忍び込んだら叔母さんに怒られた。

 だって僕一人いやだよ。叔母さん達だって僕のこと置いて行っちゃうの知ってるよ?

 僕をあの広いお家に一人残して遠い場所から見守ってるって、避けているの知ってるよ?

 僕が中学に上がるまで面倒みてくれるみたいだけど…。

 小学校卒業したら一人ぼっちなんだ…。学校には沢山友達いるけど、家に帰ったら真っ暗な部屋を一人で進んで、自分で明かり付けて、ご飯作って、食べて、寝ないといけない。


 わかった。わかったよ叔母さん。僕一人でなんでも出来るようになるから打たないで。

 父さんと母さんの位牌を捨てないで。

 良い子になるから、面倒掛らない子になるから。

 好きって、愛してるって、一番大切で大事だなんて言わないから。


 でも、心の中で思わせて。言わないから、思うだけは取らないで。




***





 桜の花弁舞上がる春の嵐。

 世界が桃色で覆われるが、笑う事を忘れてしまった子供の心を明るく染める事は出来なかった。何の感情も籠らない瞳が気だるげに左右に揺れる。

 不意に映り込んだ赤いシルエット。

 桃色の世界に紛れこむように、されど確り周囲から映えている色合いに子供の意識が向けられた。何の意味も無く近寄り声を掛けてみた。

 『どうしたの、お姉ちゃん。』

 後ろ姿でも分かる相手の美麗さに子供ながら勘付いていた。そして振り返れば予想通りの綺麗さで一人納得する。けれど折角の綺麗な目元だってのに白くて大きいマスクで顔を隠すのは勿体無いと胸中に零した。

 良く見れば泣いていた気がする。未だに此方を見て声を掛けない相手に物怖じせず、子供は自分のポケットを漁る。記憶が正しければ一個だけ残っていた筈のものを探す。

 『はい。これあげる。これ舐めるとね、ちょっとだけね心が軽くなるんだ。』

 小さな手からコロンと受け取った小さな包み紙。丸く転がる辺りをみれば飴玉だろう。飾り気のない包み紙に関係なく、沁み出る子供の優しさに漸く女性が声を掛けた。

 『ありがとうね。でもいいの? 私が貰っちゃっても、君の飴玉でしょう?』

 子供は首を静かに横に振るう。

 『いいの。僕よりお姉さんの方が辛そうだから、それ舐めて元気出して。』

 辛そうな笑みだった。

 けれど飴玉が無くなったのを悲しんだ笑みじゃない。もっと違う、心の奥に潜む何かを怯えているような、そんな笑顔に女性の眉が潜まった。しかし困らせては心配させてはいけないと落ち込んだ気分を振い、精一杯の笑顔を子供に向ける。

 『君から貰った飴玉、大事に舐めるからね。ありがとう、ありがとう…。』

 触れるだけだったが確かに頭を撫でてくれた感触はあった。もう一度、女性の顔を見ようと顔を上げれば急に吹き荒れる春の突風。思わず強く目を瞑る。

 淡い花弁が周囲を桜色に染め、漸く収まった頃には其処に女性の姿は無かった。辺りを見渡すが人影すら見付らない。あれは夢だったのだろうか、それとも勝手に作りだした幻?

 子供が訝しげに女性が見詰めていた大きな桜の木を見上げた。

 とても立派な木で、そこでやっと辺り一面が淡く鮮やかな桜色に侵食されているのに気がついた。

 何処から沸き立つのか分からない感情が子供の小さな胸を埋め尽くす。

 感動に浸る子供の遥か頭上高い所から見下ろす慈悲深い眼差し。勿論、子供が其れに気付く事もなければ知る由も無かった。

 自分より遥かに幼く小さな子供から貰った琥珀色の飴。

 それを包み紙から取り出し、口に入れた途端に広がる素朴な甘さに何故か胸が切なくなった。優しさが、心使いが嬉しくて仕方ない。滾々と溢れ出る涙を拭く事も忘れ、見下ろす子供が如何か幸福に溢れた道を歩むように、と。


 ゆるゆる軽くなっていく心を、胸を押え神に祈った。


 人が作った、化け物が初めて悲しい以外の感情を宿した瞬間であった。

 最後までお読みいただきありがとうございました。

 この作品は別の投稿サイトに投稿していた作品を加筆修正したものになります。はじめましての方は、はじめまして。この文章どこかで…って思った方引き続きよろしくお願いいたします。

 では、異種間恋愛が三度の飯より大好き担々狸の作品今後ともどうぞごひいきに。

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