年上の彼
***BL*** 8歳年上の彼は、スーツの似合う会社員でした。ハッピーエンドです。
僕は高校生。
彼は社会人。
彼は、女の人とアクセサリーを買っていた。
だから、この恋の終わりは近いと思う。
**********
バイト先で知り合った彼は、毎朝スーツでコーヒーを買う。
駐車場に車を停めて、ホットコーヒーを買って仕事に行くみたいだ。
スーツの似合う社会人。
高校生の僕には、凄く大人に見えた。
*****
早朝6時から7時半までコンビニのバイト。
曜日は月曜日から金曜日。
仕事内容はレジ。
こんな短時間でも雇ってくれるなんて、有難い。
コンビニに来るお客さんは多種多様。学生、会社員、工事現場で働く人、夜働いて朝帰る人、、、。
朝6時から7時半まで、たった一時間半なのに、お客さんは引っ切りなし。
半に上がって、駅まで5分。電車に乗って20分。それから歩いて学校に行く。
そして、このコンビニに毎朝来るのが僕の彼氏。
会社員でスーツ姿がカッコ良い。
彼氏と言っても、ホラ、僕はまだ高校生で朝のバイト。彼は、夜は毎日残業で、お互い中々時間が合わない。
SNSで繋がっているけど、デートした事も無いし、、、ね、、、。
本当に付き合っているかも分からないから、最近では不安だらけ、、、。
*****
毎朝来るお客さん、商品と一緒に白い紙を出して来た。
???
そっと開くとラブレター、、、困る。
、、、僕はただの高校生で、ラブレターを貰ってもどうしたら良いか分からない。
取り敢えず
「有難う御座います。542円です」
と金額を伝えた。
次の日もラブレター。
「付き合って下さい」
って買いてあった。
参ったな、、、。
「542円です」
にっこり笑う。
次の日も、、、。
「大好きです」
「542円になります」
店長に相談してもどうにもならず、諦めるしか無いと思っていた頃、ラブレターの彼が駅の改札にいた、、、。
ギョッとした。
だって、朝の改札じゃ無くて、学校が終わった夕方の改札だったから。
朝だったら、改札を抜けて、急いで電車に乗れば逃げられるのに、、、。
もし、このまま家まで着いて来られたら、、、。
改札を通った後で、僕は思わず家とは反対方向に逃げた。まだ、彼は僕に気付いていない。
僕は初めて恋人に電話をした。
でも、彼は仕事中だったらしく、電話に出なかった。
仕方が無く、家とは逆方向に行き、かなり遠回りをして帰った。
彼から電話があったのは、夜の10時過ぎだった。
「どうした?」
と言う、優しい声。
でも、時間が経ち過ぎていたし、夜も遅かったから、僕は
「間違えて発信したみたいです」
と言った。
「初めて電話してくれたのに、出られなくてごめん」
「大丈夫です。僕の方こそごめんなさい」
僕はいつまで経っても、他人行儀が抜けなかった。
翌日バイトに行くと、彼は何時も通りコーヒーを買った。
「おはよう」
「おはようこざいます」
たった一言交わしただけなのに、嬉しかった。
彼とは付き合っているとは言え、殆どSNSのやり取りだけだったから、、、。
その日も、あの人が手紙をくれた。
「読んで下さい」
と言われて、そっと開く。
一緒に駅まで行きましょう
と書いてあった。
「542円です」
いつものセリフ
「外で待ってます」
と言われてしまった。
僕は絶望した。
後5分で仕事が終わる。着替えてお店を出たら、彼が待っていると思うと怖かった。
制服の上着を着て、リュックを背負い、店を出る。
あの人は、自動ドアを出た喫煙場所にいた。
気付かないフリをして、駐車場を横切り駅に向かう。
彼が僕に気付いて近寄って来た。
っ!
腕を掴まれ、引き止められた。
イヤだっ!
でも、恐怖で声が出なかった。
その時、車の影から恋人が出て来て、僕を助けてくれた。
「彼に何か用ですか?」
低めの声に怒気を含め言った。
手紙の人は、怯えて逃げて行った。
恋人は僕の手を引き、自分の車に乗せてくれた。
「学校の近くまで送るよ」
そう言って、僕の手を握ってくれた。
「すみません、、、」
「昨日も本当は何かあったんじゃ無い?」
と言われて、僕の瞳から涙が溢れて溢れた。
「毎日手紙を貰うんです」
静かに話した。
「内容はたいしたモノじゃありません。一言位です」
彼は片手で僕の手を握りながら運転していた。
「昨日は夕方、駅で見掛けて、、、。でも、今思えば、それは偶然だったかも知れません。今日の手紙は「一緒に駅まで行きましょう」って書かれていました」
「店長に相談は?」
「しました。でも、何も出来なくて」
「駅まで送ろうか?」
「歩いて5分なのに?」
僕は笑ってしまった。
「心配なんだ。何も出来なくてごめん」
「大丈夫です。きっとあんな事があったから、明日からは来ないと思います」
「あ、最寄駅じゃ無くて、3駅先とかどうかな?流石に毎日学校までは無理だけど、それならアイツも着いて来れないし」
「もし、明日もあの人から手紙を貰ったら、お願いします」
恋人はにっこり笑ってくれた。
**********
秀に初めて会ったのは、随分前だった。去年の春先から新しいバイトで入り、可愛い子だと思った。
高校生になったばかりで、初々しい。
毎朝コーヒーを一杯買う俺に
「いってらっしゃい」
と言う様になり、多くは話さなかったけど、好きになるのに時間は掛からなかった。
24歳の俺が、16歳に惚れてどうする、、、。そう思いながらも、好きになってしまったんだ、仕方が無い。
勿論、告白する気など無かった。
毎朝コーヒーを買って挨拶する程度だ。
その日はたまたまコーヒーの機械の調子が悪く、彼に見て貰った。
「すいません」
と言いながら機械を直してくれた。
俺がコーヒーを淹れるのを見て、確認すると
「あの、、、ここのコーヒーって美味いんですか?」
と小さい声で聞いて来た。
「美味いよ」
と笑うと。
「俺、コーヒーの違いが分からなくて」
と恥ずかしそうに照れた。
「じゃ、今度、一緒にコーヒー飲みに行こうよ」
と言って、スマホを見せると
「良いんですか?」
と喜んだ。
連絡先を交換して、日曜日に喫茶店に行った。
コーヒー豆を目の前でゆっくり引いてくれる店だった。
それから少し仲良くなった。
SNSのメッセージはいつも俺から。
彼は、俺に遠慮しているのか、自分からは送らない。
一年間はあっという間に過ぎた。
特に進展も無く、親しい知り合いと言う感じだった。
その間、秀に彼女が出来た気配は無い。
告白は俺から、秀は嬉しそうに微笑んでくれた。
**********
「おはよう」
「おはようございます」
「アイツ、来た?」
「いえ、、、いつも僕が上がるちょっと前に来るので、、、」
蓮沼さんは時計を確認した。
「後、10分位か」
「多分、来ないと思います」
「それでもね、心配だから。車の中で待ってるよ」
「ありがとうございます」
**********
秀がはにかみながらお礼を言う。
可愛いと思った。
コーヒーを片手に車に戻る。
駐車場内に入って来た車の運転手。
自転車に乗っている人物。
徒歩の人。
駐車場内の車の中。
アイツだ。車で来ていたから気付かなかった。
俺は、見渡せる様に一番遠い位置に停めていた。
失敗した、一番近くに停めるべきだった。
車から降りて、秀を迎えに行こう。そう思って、コーヒーをホルダーに入れていると、秀が店から出て来た。
アイツが車から降りた。イヤな予感がする。
アイツは秀の腕を掴み、車に乗せようとした。
「秀っ!こっち!」
俺に気付き、アイツを振り払い、逃げ、走る。
俺は彼の側まで走り寄った。
手を繋ぎ、アイツに近寄る。
一瞬、秀の身体が強張った。
「いつも、コイツに手紙をくれますね」
と微笑んで言うと、アイツはオロオロとした。
アイツの前で名前を言いたく無かった。
「コイツ、恥ずかしがり屋だから言えない様ですみません。俺達、付き合ってるんで、ああ言った手紙は控えて頂けると助かります」
「すすすす、すみません、、、」
俺はアイツの耳元で
「諦めてくれますよね」
と低い声で囁いた。
「ひっ!」
と小さな声を出すと、慌てて車に乗り込んだ。
秀はまだ、少し怯えていた。
「学校まで送ろうか?」
俺の顔を見る彼は、不安そうだった。
*****
秀は助手席に乗ると
「すいません、、、」
と謝った。彼が悪い訳じゃ無いのに。
「あの、学校じゃ無くてその先の駅でお願いします」
「え?大丈夫?」
「蓮沼さんも仕事があるし」
「ありがとう、じゃあ、そこの駅で降ろすね」
「はい、ありがとうございます」
駅で降ろした秀は、やっぱり少し元気が無かった。明日は土曜日でバイトも無いし、少し休めると良いけど、、、。
**********
何だか今週は凄く疲れた。
あの人がもう来ないと良いんだけど、、、。
そう思いながら、ショッピングモールを歩く。
土曜日、父さんに誘われて二人で映画を見た。我が家は家族で映画を見に来る事がある。
今回は、母さんと姉さんは別行動。これから合流して食事の予定だった。
父さんと二人で歩いていたら、蓮沼さんがいた。
女性と二人、蓮沼さんはスーツで女性もフォーマルな装いだった。
蓮沼さんの手には紙袋。
ハッとして、お店を見たらジュエリーショップだった。
小さな小さな手提げの紙袋は、真っ白くてシルバーの文字が入っていた。上品なデザイン。きっとアクセサリーが入っている。
僕は遠くから二人を見た。嬉しそうに、和かに笑っている。
大人の二人は凄くお似合いで、僕は自分の洋服を見ると恥ずかしくなった。
「秀?こっちだよ」
父さんに呼ばれて、急いで振り向く。角を通り過ぎていた。慌てて戻り、父さんに追い付く。
蓮沼さん達は反対方向に歩いて行った。腕を組みながら、、、。
僕は蓮沼さんが気になって、話しに集中出来なかった。
あの女性は誰だろう。
土曜日にどうしてスーツなのかな?
二人で何を買ったの?
分かりもしないのに、頭の中はグルグルしていた。
家に帰っても、ずっと先刻の事が頭から離れない、スマホを触りながらどう聞いたら良いか分からなくて、画面ばかり見つめていた。
綺麗な人だった、、、。
どうして蓮沼さんは僕と付き合おうと思ったんだろう。僕のどこが好きなのかな、、、。
考えれば考える程分からなかった。
**********
「あ、、、」
あ?
「あ、おはようございます」
「秀、大丈夫?」
「だ、大丈夫です」
「?」
俺はいつものコーヒーを頼んだ。
「今日も送るよ」
と言うと
「あの、今日は大丈夫です!ちゃんと歩きます」
「秀?」
「流石に今日は来ないと思います」
「分かった。来ないのを確認したら会社に行くよ」
秀がホッとした顔をした。
そして、アイツは本当に来なかった。
秀が制服姿で店から出てくると、俺の車に向かって小さく頭を下げた。そして、そのまま駅に向かう。
俺もホッとしながら会社に向かった。
*****
翌日
「おはよう」
「おはようございます、、、」
声の感じが違う。
「疲れてる?」
「?」
気の所為かな?
いつものコーヒーを頼み、レジ横に置いてある小さなチョコレートを一つ買った。
秀の口元が綻ぶ。俺がチョコレートを買うなんて、、、と思ってるんだろう。
料金を支払い
「これでも食べて、元気になって」
とチョコレートを渡す。
「あ、ありがとうございます、、、」
戸惑った様な返事が可愛いなと思った。
**********
僕はどうしても、あの女性の事が聞けなかった。
ずっと気になって頭から離れないのに、日数が経つ程、今更聞いても、、、と考えてしまう。
かと言って、あの場で聞く訳にもいかなかったし、、、。僕はどうしたら良いか分からないままだった。
ずっと気にする内に、蓮沼さんからの連絡に返事をする度、言葉を選ぶ様になり、少しずつ返事が遅れる様になっていた。
そして、定期試験が始まった。
一週間前から、試験が始まるからとSNSを控え、試験中の三日間はバイトも休んだ。その後は土曜日と日曜日を挟んだから、蓮沼さんとは随分連絡を取っていない。
蓮沼さんと会うのが怖かった。
*****
月曜日、バイトに行くとあの女性と蓮沼さんが一緒に店に入って来た。
僕は接客中だったから、思わず目を逸らしてしまった。
いつも通りコーヒーを買う蓮沼さん。でも、その横には綺麗な女性がいた。
女性が隣にいるのに、僕に挨拶をした。
「おはよう」
「おはようございます」
こんな時間から女性と一緒なんて、、、。
泊まり?
そう思った途端に、心臓がドキドキして気分が悪くなりそうだった。
蓮沼さんと女性は話しをしながら、コーヒーメーカーでコーヒーを入れる。二人分。
そして、仲良く二人でお店を出ると自然な感じで蓮沼さんの車に乗り込んだ。
本当にお似合いだ、、、。
**********
「今のレジの子が、隆司の彼女?」
「可愛いだろ?手、出すなよ?」
「出さないわよ!」
今朝、姉が会社まで送れと言って来た。折角だから俺の恋人を見に行こう、と言うから連れて来た。
姉が大人しくしてくれて助かった、、、一応、秀の職場だから、付き合っている事は明言しない方が良いと思ってるんだ。
**********
テストの結果はまぁまぁだった。
試験が終わっても蓮沼さんからは連絡が無かった。
今までも別に毎日メッセージがあった訳では無い。仕事が忙しい日は連絡が無いし、出張が長い時は数日途絶えるのが当たり前だった。
でも、何と無く、このまま終わるのかな、、、って感じる。
彼女とお店に来た日、二人が車に乗り込むのを見て僕は淋しかった。
僕と蓮沼さんは不釣り合いだ。
蓮沼さんは大人の男の人で、僕は高校生。
別れましょう
そう一言メッセージを送れば良い。それで、この恋は終わる。
それなのに、その一言が中々打てなくて、、、。
**********
秀の誕生日が来る。
付き合って、すぐに聞いた。あれから半年経っている。俺が誕生日を聞いた事、忘れていたら良いのに。
出張から帰ったら、デートに誘う。
今までは、休日に会うのを避けていた。秀のバイト仲間や友達に、俺と一緒の所は見られたく無いだろうと思っていたから。
でも、誕生日位は一緒にいたい。
平日の夜も会えない。
会えるのは秀のバイトの時だけだ。
本当は連休に旅行でもして、1日一緒に過ごしたい。
だけど、秀は、まだ高校生だからな、、、我慢我慢。高校を卒業したら、二人で旅行に行こう。
*****
「おはよう」
「おはようございます」
久しぶりの秀、、、。大好きだ、、、。
「今度の土曜日、空いてる?」
「あ、、、家族と、、、」
「予定あった?」
「ごめんなさい」
「いや、いいんだ。もっと早く誘えば良かった。日曜日は?」
「空いてますけど、、、」
普段休日に会わないからな、、、。
「また、連絡するから空けておいて」
「、、、はい」
後ろに人が並んだ為、俺はコーヒーメーカーに移動した。
車に乗り、少し落ち込んだ。
秀の家族は仲が良かった。家族で秀の誕生日を祝うのは当たり前の事なんだろう、、、。
誕生日当日に一緒に過ごしたかったのに、残念だ。
**********
蓮沼さんが休日に会おうなんて珍しいな、初めてだ、、、。
折角誘ってくれたのに、家族と約束しちゃったから、、、。
別れ話かな、、、?
嫌な想像をしてしまい、蓮沼さんと会うのが怖くなって行く。
*****
少しの時間でも良いから、土曜日に会いたい。
そんなメッセージが来た。
昼過ぎなら、、、と思って、返事を書いていたら部屋をノックする音がした。
そっと扉が開き
「秀、ごめん。土曜日の夜、バイトが入っちゃった。お出掛け、昼間のランチでも良い?」
姉さんが申し訳無そうに顔を出す。
「大丈夫だよ。母さん達には話した?」
「これから」
「僕も友達と会うから気にしないで」
と言うと
「本当にごめんね、母さん達に話しておく」
と言った。
僕は書いていたメッセージを訂正して、「予定が前倒しになったので、土曜日、夜なら大丈夫です」と送信した。
**********
やった!秀の誕生日に会える!夜会えるなら、飯も食えるな。そう思いながら店を探す。
あんまり賑やかな店は嫌だった。でも、お洒落過ぎても秀は緊張するだろう。
かと言って、静か過ぎる店は人に会話を聞かれそうだし、、、。
俺は個室のある店を探した。
**********
待ち合わせは、秀のバイト先のコンビニ。
夕方6時、待ち合わせ。
「飯、食える?」
「はい、大丈夫です」
少し緊張していて可愛かった。
私服の秀も良いな、と思っていたら
「蓮沼さんの私服、カッコ良いですね」
と褒めてくれた。嬉しかった。
「今日は酒、飲みたいからタクシーで店に行くから」
と言って、呼んであったタクシーに乗り込む。
駅ビルの7階にある店までエスタレーターで登り、名前を告げて個室に案内して貰う。
料理は頼んであった、秀の嫌いな物は知っていたし、短い時間を有意義に過ごしたかった。
「何飲む?」
「じゃあ、水かお茶で、、、」
「ジュースじゃ無いんだ」
「これから食事ですよね?」
「そうだね」
食事中にジュースじゃないって良いな、、、。
「じゃ、俺はビールを頼むよ」
*****
秀より年上なのに、誕生日プレゼントを渡すのに緊張している。
渡すタイミングが分からない。
今?今か?料理が来る前に渡した方が良いのか?
なんて思っていたら、飲み物が来た。
自分でも馬鹿だなと思う。
ビールをゴクゴク飲んでしまった。
料理を運んで来た店員に追加のビールを頼む。
**********
「秀、、、」
名前を呼ぶと、静かに俺の顔を見てくれた。
「美味いか?」
と聞くと、フワッと笑い
「美味しいです」
それだけで、何だか嬉しくなる。
「もっと早くデートしたかった」
ジョッキを持ち上げながら言うと、秀の動きが止まった。
「蓮沼さんは仕事が忙しいから、、、」
ビールを飲みながら、彼の顔を見る。
「秀のバイト先の仲間や友達と会いたく無いかと思って、、、」
小さく首を傾げて
「そんな事、、、」
「でも、男同士だし、、、」
「僕、ずっと仕事が忙しいから土日は休みたいんだと思っていました」
、、、本当にそう思っていたのか、優しい嘘なのか分からなかった。
今日が誕生日なのに、「僕、誕生日なんです」の一言も無い、、、。遠慮しているのか、、、それとも、それ程俺の事好きじゃ無いのか、、、。
「今日、誕生日でしょ?」
あ、、、。サプライズだったのに、、、。
秀の視線が上がった。
「どうして知ってるんですか?」
やっぱり忘れている。
「付き合い始めた頃、一度だけ聞いた、、、」
ビールの泡が、、、。
「だから、今日、どうしても会いたかった」
そう言うと、秀は驚いた顔をした。
「、、、女性、、、」
「ん?」
「女性とアクセサリーを買っていました、、、」
「アクセサリー?」
「二人で、、、すごく幸せそうでした」
ポロボロボロッと涙を溢した。
「お似合いだなって、、、」
人違いだよ、、、。
「秀、、、プレゼント、あるんだ」
下を向いて、涙を拭いている。聞こえていないかな?
鞄の中から、小さな手提げの紙袋を出す。
堀になっている席から立ち、秀の横に移動した。
「チョコレート好きって言っていたから、、、」
白い紙袋を受け取ると、更に涙を流した。
「チョコレート?」
「好き?」
「大好き、、、」
「良かった。本当は何か残る物にしたかったんだけど、サプライズしたかったし、何が欲しいか分からなかったから。ごめん」
秀は頭を振り
「嬉しい、、、すごく嬉しいです」
と言って、俺を抱き締めた。
「喜んでくれて、俺も嬉しい」
俺も秀を抱き締めた。
いつも控えめで、俺に愛情表現をしない秀。
涙まで流して喜んでくれて嬉しかった。
「蓮沼さん、、、このチョコレート、一人で買いに行ったんですか?」
聞かれて
「実は、姉と一緒に言ったんだ。プレゼントはチョコレートを上げたかったんだけど、お店も詳しく無いし、教えて貰った」
「お姉さん?」
秀の身体が離れてしまった、、、。
「この間、秀のバイト先にも連れて行った。秀に会いたいって、、、。でも、朝の忙しい時間だったから、こっそり連れて行ったんだ」
「二人で、コーヒー買った時?」
「そう、、、」
「あの人、お姉さんだったんですね、、、。僕、新しい彼女かと思ってました、、、」
俺は、秀の横に座った。
料理はほぼ出ていた。後は最後のデザートだけだ。店員もしばらくは来ないだろう。
「俺、秀の事めちゃくちゃ好きなんだけど?」
「ごめんなさい」
消えそうな声だった。
「じゃあ、お詫びにキス、、、して?」
秀の瞳が大きくなった。断られるかな、、、。
「えっと、、、どうやったら、、、」
戸惑いながら聞いて来る、、、。俺の腕のシャツを握り締めながら、上目遣いで見つめられると、こちらからキスしたくなる。
俺は静かに瞼を閉じて、キスを待った。
1,2,3,4,5,6,,7,,8,,9,,,
柔らかい唇が、距離が掴めず当たった、、、。
俺は目を開けない。
、、、もう一度、唇が当たる。
秀が戸惑っているのが伝わる。
、、、もう一度、秀は口付けをした。俺は、彼の頬に両手を添える。
「ん、、、」
と言いながら、俺の両手に手を重ねた。少し唇が開く。ああ、、、。酔っ払う程飲んだ訳でも無いのに、、、。頭の芯が痺れて、もっともっと秀が欲しくなる、、、。
唇が離れると、彼は俺の肩に寄り掛かり脱力した、、、。
、、、帰したく無い、、、。
彼の髪に頬擦りをし
「帰したく無い、、、」
と素直に呟いた。彼は、俺の身体に触れ
「僕も帰りたくありません、、、」
と答える。、、、ダメだ、、、可愛過ぎて、歯止めが効かなくなる。
いけないと思いながら、彼をギュッと抱き締めた。
「卒業したら、記念に旅行に行こう、、、」
そう言うのが精一杯だった。
「蓮沼さんの誕生日、教えて下さい。後、もし、欲しい物があったら、僕にプレゼントさせて」
彼の誕生日なのに、俺が喜ぶ事ばかりで嬉しい。
俺はもう一度秀を抱き締めると、料理を食べる為に自分の席に戻った。
**********
白い小さな手提げの袋。シルバーの文字。
確かにあの時の紙袋だ。
てっきり指輪だと思っていた。
慌てて確認したお店の商品じゃ無かった。
僕はそれが一番嬉しかった。
料理の最後に、小さなケーキとコーヒーが出てきた。真っ白いお皿に、happy birthdayとチョコレートで書かれている。蓮沼さんの優しさが伝わって来る。
本当はいつもデートしたかった。
聞き分けの良いフリをして、嫌われたく無いから我儘が言えなかった。
ケーキを一口食べて
「やっぱり、もっと一緒にいたいです、、、」
と呟いてしまった。無理だと思うと、口元に無理矢理笑みを作る。
「なんてね、、、」
**********
「じゃあ、この後ちょっと遊んで帰ろうか」
高校生は、11時迄なら補導され無い筈だったな。
自分が高校生だった頃を思い出す。
「日曜日は、車で迎えに行くよ。ちょっと遠出のドライブに行こう」
少しだけ淋しそうだった顔が、パッと明るくなった。
「本当ですか?!」
秀がこんなに表情をコロコロ変えるなんて嬉しい。
「本当」
俺が笑い掛けると、パクッとケーキを食べ、嬉しそうに笑った。
ドライブデート、良いですね。




