表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】経理のおばさん、聖女召喚失敗と言われたので、帳簿と制度で異世界を救います  作者: コフク


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/19

第8話 取り戻す金と、信頼の芽生え

不正摘発は、思った以上に忙しかった。

 宰相エドワルドに結果を報告し、計画を練るため、

理美は、ほとんど毎日のように顔を合わせていた。

国の帳簿や、標的の使う第三者的な立場の委託先の倉庫、取引先などの外堀の情報から抑え、固めたところで、

宰相の力を活かして、標的に乗り込み、理美が確実な証拠を押さえる。

宰相は、それぞれの貴族たちの弱みを確実に抑えて、反論の余地を潰す。

「……この帳簿」

 理美は、机に広げた書類を指で叩く。

「支出の名目は、医療研究費」

「でも、実態は別荘の改修ですね」

「やはりか」

 エドワルドは、疲れたように笑った。

「どれだけ掘れば、出てくるのやら」

 不正をした貴族たちからは、

 次々と金が取り戻されていった。

 銀貨、金貨。

 隠し口座。

 宝石や、金などに変えて、隠されているものもある。

「……正直、ここまでとは思っていなかった」

 エドワルドが言う。

「私もです」

 理美は淡々と答えた。

「でも、不正は国をだめにします。

地道に潰していけばそのうち、

ちゃんとした人たちが笑える、健全な国になります」

「そうなって欲しいものだ。」

「あ、そうそう。

各領主や商会なんかの組織のサインや印象も、国に登録させましょうよ。

偽造文書、防ぎましょう」

「ふふっ、さらに追い詰められる者が出てくるな」

 二人は、自然と隣に並んで作業するようになっていた。

 判断の速さ。

 正義感や、価値観。

 事務処理という、興味の対象。

(……話が、合う)

 理美は、ふとそう思う。

 話していて、楽しい。

 頼れる相手だと、

 お互いに感じ始めていた。

________________________________________

◆ 直治の医療行脚

 一方で、直治も、

 王城にいたのは最初だけだった。

「予防、という考え方ですが……」

「リハビリは、治療の一部です。骨や筋肉は、使わないと弱ります」

 医師団に囲まれながら、

 直治は、元の世界の医療を共有していく。

「人体は、治すだけじゃなく、

健康を保つことが、重要なんです」

しかし、自分の知識を共有するだけでは足りない。

 彼は言った。

「現場を見たい。この国の、実際の治療を、知りたい」

「現場で、自分で治療をして助けたい」

 そして、あちこちを回り始めた。

 王都の医療施設から始まり、

地方の診療所。

 前線の治療拠点。

 貧しい地区の診療所。

 その隣には、

 マルティナ・クロイツがいた。


「魔王だ!治しに来たと言うのは嘘だろう!」

 初めて行く先では、始めはそう言っていた人たちもいて、なかなか治療を受けてくれない。

 しかし、藁にもすがりたいという、重病人や、重症患者を、

直治が触ってスキャンし、治療して急回復した後、

マルティナが優しく薬を手渡し、患者が治って、感謝する姿を見て、

じわじわと信頼が広がって行った。

彼らの取る治療費は、貧しくても払える程度の価格に抑えられている。

感謝する元患者たちは、代わりに、自分たちの育てた野菜や作った料理などを持ってきてくれた。

「どうせ、大金を取る悪い貴族たちが、悪い噂を流したんだろう」

 世論は直治たちに味方し始めた。


各地の薬品等の情報をまとめる仕事を引き受けた、マルティナはまた、

「この薬の配分、良いですね。

中央管理に情報を蓄積した方がいいですね」

 即断即決で動く。

「……助かります」

 直治は、素直に言った。

「一人だと、見落とします」

「お互い様です」

 マルティナは、切れ長の目を細め、少しだけ笑った。

「医療の中身は、あなたの方が詳しい」

(……頼れるな)

 それは、

 仕事上の信頼だった。

 でも――

 それだけでは、なさそうだった。

________________________________________

◆ それぞれの距離

 夜の回廊で、

 理美とエドワルドは並んで歩いていた。

「……無理をしていないか」

 宰相が、ふと聞く。

「大丈夫です」

 理美は答える。

「今は、やることがはっきりしているので」

 エドワルドは、少し笑った。

「君と一緒だと」

「仕事が、楽しい」

 理美は、少し驚いてから、笑う。

「私もです」

 それは、

 まだ恋ではない。

 でも、

 一緒にいるのが自然だった。

________________________________________

 別の場所で。

 直治は、マルティナと資料を片付けていた。

「今日も、ありがとうございました」

「こちらこそ」

 一瞬、沈黙。

「……また」

 マルティナが言う。

「現場、一緒に回りますか?」

「ぜひ」

 その返事は、

 少し早かったかもしれない。

 でも、二人とも、

 気づかないふりをした。

________________________________________

 金は、取り戻され。

 仕組みは、回り始め。

 それぞれの心は、

 静かに――

 別の場所へ、動き始めていた。

________________________________________

◆ 医療費が浮き、国家予算が黒字になる

 数週間後。

 理美は、国家予算の速報値を見て、

 小さく目を見開いた。

「……黒字ですね」

「何だと?」

 エドワルドが顔を上げる。

「医療費が、想定より大きく下がっています」

「しかも、治療件数は減っていません」

 理由は、はっきりしていた。

•架空支出が消えた

•不要在庫の購入が止まった

•廃棄が減った

•再発が減り、長期治療が減った

 直治が、静かに言った。

「医療費が減るのは」

「医療が悪くなったからじゃありません」

「ちゃんと治っているからです」

 エドワルドは、深く息を吐いた。

「……黒字など」

「増税しない限り無理だと思っていた」

 理美は、首を振った。

「無駄を止めただけです」

「お金は、もともとありました」

________________________________________

◆ 宰相の理解

 エドワルド・グランディスは、

 二人を見て言った。

「医療も、経理も、同じだったな」

 理美は、静かに答えた。

「仕組みを変えれば、

やり方が変わり、反対する人もいる」

 直治が続ける。

「でもいずれ、正しい行動が、

一番、楽になりますから」

 宰相は、苦笑した。

「……恐ろしいな。

 だが」

 一拍置いて。

「この国に、必要だった」

________________________________________

 こうして。

 帳簿と治療記録から始まった改革は、

 国家予算の黒字化と、医療の健全化という

 誰も予想しなかった結果をもたらした。

 だが――

 その時また、忘れられていた人々が、動き出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ