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【完結】経理のおばさん、聖女召喚失敗と言われたので、帳簿と制度で異世界を救います  作者: コフク


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第5話 改革は、倉庫から始まる

魔法式・経理チェックシステムに、経理魔法――

そう呼ぶと大仰だが、やることは地道そのものだ。

ちなみに、システムの自動処理には、電力の代わりにこちらの世界では魔力が必要らしい。

「ずっと誰かが魔力を注ぎ続けないといけないんですか?」

「いや、それも魔法石をセットして、定期的に交換すれば良い。

機械の仕組みを加えれば、 放置でいけると思います」

システムづくりのため、宰相に魔法局から呼ばれてきた魔導士が答えた。

「そう言えば、魔法石の支出、毎年多額な支出TOP5入りしてますね」

「……帳簿、ほんとに頭に入っているんですね。恐ろしい」

魔法式・経理チェックシステムの帳簿を作るのは少し時間がかかるということで、

 理美は簡単な設計図を書き、役人たちに任せることにした。


「その間に、現物確認です」

 加藤理美は、帳簿の山を叩いてそう言い切った。

「仕組みを作る前に、

 帳簿に書いてある“物”が、本当に存在するかを確認します」

 宰相エドワルド・グランディスは、即座に頷いた。

「不正の確認だな。分かった。倉庫へ行こう」

________________________________________

◆ 倉庫は語る

 王城裏手の大型倉庫。

 医療用の薬品、包帯、保存食、器具。

 帳簿上では、ここには「過不足のない量」があるはずだった。

 理美は宮廷から借りてきた帳簿を開きながら、

「倉庫の管理簿、ここにあるものを見せてください」

 倉庫担当が管理簿を出す。

「そもそもこれ、直近の在庫量が持ってきた帳簿と合ってないわね」

「ああ……」

 エドワルドが渋い顔をする。

 倉庫担当が固まる。

次に、棚を見て回る。

「……この治療薬」

 封印された箱を、指先で軽く叩く。

「かなり高価ですよね」

「はい」

 倉庫番が答える。

「重症患者向けの特別な薬です」

 理美は、そのまま隣に立つ佐藤直治を見た。

「佐藤先生」

「はい」

「これ」

 帳簿を示す。

「こんなに要りますかね?」

 直治は、薬箱の表示と数量を確認し、少し考え込んだ。

「……正直に言います」

「お願いします」

「これは」

 直治は落ち着いた声で言った。

「かなり重症な患者にしか使いません」

 すぐに続ける。

「僕が前に見た医療記録では」

「この薬が必要な症例は、

 月に数件あるかどうか、です」

「でしょうね。この辺の薬、箱も開けてないのに使用期限切れてる」

 閉じられた箱の、消費期限が書かれた箇所を指さして、理美が言う。

「えっ!」

 誰かが声を発した。

 棚を見渡し、結論を出す。

「この在庫量は、多すぎます」

 倉庫の空気が、ぴんと張り詰めた。

「ちなみに納品確認書は?」

「無いです。内容が合っているか見て確認して、棚にしまうだけです」

倉庫番が言った。

「支払いの時にも証拠になる書類が必要ということか。

 足りない書類は後で教えてくれ」

宰相が言う。

続けて、理美は静かに帳簿を開く。

「じゃあ」

 顔を上げて言った。

「これ、見せてください」

「……何を、でしょうか」

 倉庫番が戸惑う。

「この薬です」

 理美ははっきり言った。

 倉庫番の動きが、止まった。

「こんな貴重な薬を、こんな大量に、仕入れた記憶はありません」

「帳簿には、購入記録があります」

 沈黙。

 理美は、驚きもしなかった。

「やっぱり」

 直治も、静かに頷く。

「医療記録上も、確かこの薬を最近使った形跡は、ありませんでしたね」

 理美は、宰相を見た。

「エドワルド宰相」

「架空です」

________________________________________

◆ 罰と役割

 一瞬、倉庫が静まり返る。

「……どうする?」

 宰相が低く尋ねた。

 理美は、正直に答えた。

「罰しないと、ですよね」

 だが、それ以上は踏み込まない。

 エドワルドは、即座に言った。

「それは、こちらに任せなさい」

「君は、仕組みを作れ」

 理美は、深く一礼した。

「ありがとうございます」

 罰するのは、宰相の仕事。

 整えるのが、経理の仕事。

(役割が明確なのはやりやすいわ。)

________________________________________

◆ 経理魔法システムの具体仕様

 その日の午後。

 理美は、簡易会議室で

 経理魔法システムの仕様を説明していた。

「帳簿は、大きくは主要帳簿と補助となる台帳の二系統、

台帳も現金の帳簿、在庫台帳、資産台帳、契約台帳などに分けます」

会議室の真ん中のテーブルに広げた紙に、魔法の羽ペンで書き加えていく。

「これらは、魔法で相互に紐づけます」

 簡易的な魔法陣が、紙の上に浮かぶ。

「例えば、薬品などの物の、支払いの場合、

契約書や注文書などの対応する契約書類と、

実際の確認をした納品書が自動で紐づく。

どれか一つでも欠けていれば、支払いも、記録も完了しません」

 役人たちが、息をのむ。

 理美は続ける。

「さらに、数字を書き換えた場合も、

誰が、いつ、どこを変えたか、すべて、履歴として残ります」

 直治が小さく呟いた。

「……それ、医療にも使えますね」

「はい」

 理美は即答する。

「医薬品台帳の残高が、倉庫の在庫数量と一致しない場合、警告が出ます」

「勝手に使用することもできない」

 エドワルドは、深く頷いた。

「この仕組みで、不正が減るということだな」

「ええ」

 理美は、静かに言った。

「正しいことを、楽にする仕組みです」

________________________________________

◆ 倉庫から、改革が始まる

 会議のあと、直治が言った。

「……倉庫に行ったのが、決定打でしたね」

「ええ」

 理美は、少しだけ笑った。

「現物がなければ、数字は、ただの飾りです」

 その背後で、

 エドワルドは静かに命じていた。

「気づかれないうちに、関係者を洗い出せ。証拠は、揃っている」

 罰は、これから下る。

 だが、理美はもう振り返らなかった。

 倉庫の空棚を起点に、

 この国は初めて――

 嘘をつけない仕組みを手に入れたのだから。

 改革は、もう止まらない。


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