第4話 理美、経理能力の「強化」に気づき始める
帳簿を閉じた瞬間、
理美は、はっきりと違和感を覚えた。
(……早すぎる)
数字が、頭の中で勝手に並び替わっている。
照合しなくても、
合わない箇所が“浮き上がって見える”。
エドワルド・グランディス宰相が言った。
「他にも、問題はあるか」
「あります」
理美は即答した。
「正直に言いますね」
「帳簿がきたないです」
役人たちが、息をのむ。
「まず」
理美は、帳簿の山を指した。
「主要な帳簿と台帳がきれいに分離していません」
「分離……?」
「はい」
理美は、淡々と説明する。
「全体の流れを記録する帳簿」
「収入台帳」
「現金台帳」
「資産台帳」
「在庫台帳」
「契約台帳」
「など、役割ごとに分類して、それぞれきちんと管理すべきです」
紙を一枚、引き寄せ、図を書く。
「分けると、見やすくなります
そして、それぞれ担当者が管理して、
定期的に照合もします
毎月、全体の見える報告資料も作ります」
「報告書が見やすくなるのは助かるな」
エドワルドが言った。
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チェックされない帳簿は、帳簿じゃない
「次に」
理美は、指を立てた。
「チェック機能が必要です
今は、“書いた人が正しい前提”で
誰も証拠になる書類とのチェックをしていません」
エドワルドが、低く言う。
「……つまり」
「はい」
理美は、はっきり言った。
「間違っても、誰も気づかない仕組みです」
部屋が、静まり返る。
「具体的には?」
「三段階です」
紙に、さらさらと書き出す。
1.記録者(入力する人)
2.確認者(数字と証拠を照合する人)
3.承認者(責任を持つ人)
「本来、この三つが、必ず別の人であること、
最低限、それだけで不正は激減します」
役人の一人が、震えた声で言う。
「……人手が足りません」
「足ります」
理美は、即答した。
エドワルドは、腕を組んだ。
「……続けろ」
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魔法を使った「経理システム」という発想
理美は、一瞬だけ言葉を選んだ。
(……言っていい)
なぜか分かる。
今なら、通じる。
理美は言った。
「魔法を使えますよね、この国」
役人が、顔を上げた。
「使えますが……?」
「なら」
理美は、静かに言った。
「経理にも、使いましょう」
「……は?」
役人たちが、固まる。
「難しいことじゃありません」
「帳簿そのものに、魔法を付与するんです」
理美の頭の中では、
もう完成図が見えていた。
「証拠書類が揃っていないと、記録できない」
「数字を書き換えたら、痕跡が残る」
「各帳簿間で差額があれば、警告が出る」
「日次、月次、年次で、収入支出や資産負債等の報告資料を確認できる」
エドワルドが、目を細める。
「……それは」
「はい」
理美は、はっきり言った。
「魔法式・経理チェックシステムです」
役人が、思わず呟く。
「……それ、ほぼ自動監査では」
「悪い事、できませんね」
「そうです」
理美は、自分でも少し驚きながら答えた。
(……どんどんアイディアがでてくるわ)
数字が、帳簿が、一瞬で頭に入る。
仕組みとして、立体的に見える。
――明らかに、能力が上がっている。
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宰相の決断
エドワルドは、しばらく黙っていた。
そして、ゆっくり言った。
「加藤理美」
「はい」
「君は、自分が、どれほど危険な提案をしているか分かっているか」
「分かっています」
理美は即答した。
「でも」
一拍置いて。
「これをやらない限り、この国は、同じことを繰り返します」
沈黙。
やがて、エドワルドは笑った。
「……いいだろう。進めよう」
役人たちが、ざわめく。
「ただし」
宰相は続ける。
「反発は、私が引き受ける」
理美は、深く息を吐いた。
「ありがとうございます」
直治は、横で思った。
(……これは、経理じゃない)
国家運営のOSだ。
こうして。
帳簿を直す段階は終わり、
仕組みを作る段階へと、物語は進んだ。
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