第3話 帳簿と治療記録を開いたら、この国の問題が一気に見えた
◆ 経理パート
加藤理美、まず「現金」を持ってこさせる
宰相エドワルド・グランディスの執務室に、
本のように綴られた分厚い冊子と木箱がいくつも運び込まれた。
「こちらが、財務帳簿一式です。最近のものがこちら、古い物は木箱に入れています」
(……汚い。悪い感じがする
そして、見える。加護だわ)
「先に、現金を見せてください」
「……帳簿は後で?」
「はい。後です」
エドワルドが戸惑いながら奥の大きな金庫を開く。
中には、金貨、銀貨、銅貨がぎっしり詰まっていた。
「数えます」
「今、ですか?」
「今です」
理美は即答した。
「現物が存在しているかどうかが、すべての前提です」
金庫の前に立って、中を見る。
そしてすぐに、筆を取り、メモを書いた。
「え?もう数え終わったんですか!?」
それから、理美は一冊の帳簿の最後のページを開いた。
一行を見た瞬間、顔を上げる。
「……合いません」
「なっ!?」
「帳簿上の現金残高と、
現物の金額が一致していません」
エドワルドが低い声で言う。
「差額は?」
「無視できない額です」
空気が重くなる。
「次に」
理美は淡々と続ける。
「帳簿の量が、多すぎます」
「量が多いのは、悪いことでは……」
「問題です」
理美は別の山を指した。
「これだけ帳簿があるのに、
証拠となる帳票が足りません」
役人の顔が青くなる。
「たとえば、この高額な薬の支払い」
理美は一冊を開く。
「代金の支払い記録はあります」
ページをめくる。
「でも、納品書も、受領確認もない」
エドワルドが、静かに言った。
「……架空取引の可能性があると?」
「確実ではありませんが、
いくらでもできちゃいますね
可能性は高いかと」
理美は頷いた。
「さらに、帳簿が整理されていないため、
在庫数量が正確に把握できていません」
「つまり」
理美は結論を述べる。
「足りている物を、
余分に購入している可能性があります」
「あと……木箱、ほこり被ってますが、
チェックはしていますか?」
エドワルドは、目を閉じた。
「機能していません」
理美は、はっきり言った。
「帳簿は“書かれている”だけで」
「確認されていない」
それが、この国の財務の現実だった。
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◆ 医療パート
佐藤直治、治療記録から問題点に気づく
一方、宮廷医師団の記録室。
佐藤直治は、近年の治療履歴を机いっぱいに広げていた。
(何だか、すっきりしない、澱んだものを感じる
……そして、見える)
「……同じ病気が、何度も出ている」
「同じ怪我が、ぶり返している」
医師団長レオンハルト・ヴァイスが言う。
「治療はしている」
「ええ。でも――」
直治は、記録を指さした。
「治療後の指導が、ほとんどありません」
まず、平民の記録。
(見える……)
「不潔な環境」
「栄養不足」
「傷を洗う習慣がない」
直治は眉をひそめる。
「これは、治療以前の問題です」
「予防できる病気が多すぎる」
次に、貴族の記録。
「運動不足」
「栄養の偏り」
「魔法治療への過信」
薬務統括官マルティナ・クロイツが、ため息をつく。
「治ったと思って、
また悪くする者が多い」
「はい」
直治は頷く。
「リハビリの概念がありませんね」
「リハビリ?何ですかそれ」
さらに、直治は別の問題を指摘した。
「薬の使い方が、統一されていません」
「同じ症状に、医師によって、毎回違う薬が使われています」
マルティナが答える。
「薬はあくまでも補助で、
医師によって魔法が足りない分を、
その場で補っているのです」
直治は静かに言った。
「薬と魔法の役割が逆です
同じ症状に、同じ薬で治療をすれば、魔力や経験の少ない医師でも対応できる」
「加えて、治療時に使った魔法の記録もない」
当然、引き継ぎもない。
「担当医が変わるたび、
最初から治療をしている」
「同じ検査魔法に、余分な回復魔法。無駄な消耗です」
回復魔法主任オスカー・リントが、歯噛みする。
「……だから、魔力や薬が足らない」
「あと、全体を見てから治療していますか?」
「いや、経験や、触った感じなどの、勘ですね」
レオンハルトが渋い顔をして言う。
「これ、この人とこの人、同じ症状で、全く違うところを治療している
片方の貴族の方は、その後もまた悪化して再治療しにきていますね
間違った治療をしている」
「この方、先月亡くなっています」
書類を持ってきた低級医師が言い、その場の空気が凍り付く。
「一応、医者は学園で治療を習い、
研究者の図書も読んでいるのだが」
直治は、結論を述べた。
「勉強して治療はしているかも知れません
ですが――この国の医療は」
一拍置いて。
「最新の情報の活用が足りていません」
レオンハルトは、重く頷いた。
「耳が痛いが……否定できない」




