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【完結】経理のおばさん、聖女召喚失敗と言われたので、帳簿と制度で異世界を救います  作者: コフク


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2/19

第2話 私は物の価格を見に町へ、医師は図書館へ

宰相エドワルド・グランディスの執務室には、

 まだ朝の静けさが残っていた。

 私は、向かいに座る男性を改めて見る。

 白衣。

 少し疲れた表情。

 けれど、背筋は自然と伸びている。

「……そういえば」

 私は、ふと思い出して口を開いた。

「まだ、先生のお名前を聞いていませんでした」

 男性は一瞬きょとんとしたあと、

 小さく苦笑して頭を下げる。

「失礼しました」

佐藤直治なおはるです。医師をしていました」

「医師なのは知ってます。私は加藤理美です。経理をしてました」

「よろしくお願いします」

 短い挨拶だったが、

 不思議と落ち着いた。

(この人、まともそうで良かった)

 エドワルドが、二人を見比べて言う。

「改めて確認しよう」

「こちらが医師の佐藤直治」

「そして、経理の加藤理美だな」

「はい」

 私は即答する。

「数字と帳簿整理が大好きです」

 エドワルドは軽く咳払いをした。

「さて、本題に入ろう」

 私は一歩前に出る。

「お願いがあります」

「聞こう」

「町へ行かせてください」

「町?」

 私ははっきり言った。

「この国の、物の価格を知りたいんです」

 直治が、こちらを見る。

「物の価格……」

「食料、衣服、雑貨、外食」

「何が、いくらで売られているか」

「それが分からないと」

 一拍置いて。

「帳簿を見ても、意味がありません」

 エドワルドは、しばらく黙った後、

 ゆっくりと笑った。

「……なるほど。いいだろう。護衛を二人付ける」

「ありがとうございます」

 その流れで、

 今度は直治が口を開いた。

「でしたら、僕は図書館へ行きたいです」

「図書館?」

「宮廷医師団が使っている、医療専門の図書がある図書館で、

この世界の医療と薬、魔法治療の前提を、できるだけ早く理解したい」

 エドワルドは、即座に頷いた。

「よし。ならば、正式に紹介しよう」

________________________________________

◆ 宰相、宮廷医師団の幹部を紹介する

 場所を移し、

 王城内の小会議室。

 そこには三人の人物が待っていた。

「紹介する」

 エドワルドが言う。

「宮廷医師団の幹部たちだ」

 最初に一歩前へ出たのは、

 白髪交じりの壮年の男だった。

「医師団長の」

「レオンハルト・ヴァイスだ」

「初めまして」

 落ち着いた声だった。

「異世界から来た医師と聞いている」

 次に、細身で鋭い目をした女性。

「薬務統括官」

「マルティナ・クロイツ」

「薬と調合の管理をしている」

 最後は、若いが眼差しの強い男性。

「回復魔法主任」

「オスカー・リントだ」

「実地治療の責任者だ」

 直治は、深く頭を下げた。

「佐藤直治です」

「整形外科医をしていました」

「せいけい……?」

 オスカーが首を傾げる。

「骨と筋肉を扱う医師です」

「ほう」

 レオンハルトが、興味深そうに言う。

「宰相から話は聞いている」

「君には、外部顧問としてではなく」

「医師団の一員として、知識を共有してもらいたい」

 直治は、少し驚いた顔をした。

「……よろしいんですか?」

「むしろ、歓迎だ」

 マルティナが言う。

「魔法医療は、行き詰まっている」

 エドワルドが、はっきり告げる。

「佐藤直治は、私の責任で迎える」

「医師団は、全面的に協力してほしい」

 一瞬の沈黙のあと。

 レオンハルトが、静かに頷いた。

「承知した」

「ではまず、図書館から案内しよう」

 直治は、胸の奥が少し熱くなるのを感じた。

(……ちゃんと、医師として扱ってくれる)

________________________________________

◆ それぞれの場所へ

 こうして。

 私は護衛と共に町へ。

 直治は医師団と共に図書館へ。

 同じ国を、

 物の価格と、医療の前提という

 まったく違う尺度で測り始めた。

 その時点では、まだ誰も知らない。

 この二つの視点が交わったとき、

 国そのものが変わるということを。

________________________________________

◆ 加藤理美、物の価格を見に町へ行く

 護衛を二人連れ、私は王都の町へ出た。

 石畳の通り。

 人の流れ。

 露店の声。

 でも、私は景色を見ない。

 見るのは、物の価格だけ。

「このパンは?」

「銅貨三枚だ」

(主食の最低ライン)

「この干し肉は?」

「銀貨一枚」

(保存食。やや高め)

 野菜、果物、香辛料。

(自炊前提。

 現金収入がないと厳しい)

 衣料品店。

「この服は?」

「銀貨二枚」

(平民の普段着)

 雑貨屋。

 鍋、皿、布、ランプ。

(初期生活費、想像より重い)

 最後に、食堂。

「おすすめは?」

「煮込みだな」

 銀貨一枚。

 量、味、具材。

(外食は日常じゃない。

 余裕のある人向け)

 食後、私は静かに息を吐いた。

(……把握できた)

 頭の中ではすでに、

 この町で生きるための最低ラインと、

 少し余裕のある生活ラインが

 物の価格として整理されていた。

「奥方、何か問題が?」

 護衛が恐る恐る聞く。

「いいえ」

 私は、はっきり答えた。

「この国の物の価格は、把握できました」

「えっ、もう?」二人の護衛は顔を見合わせた。

________________________________________

◆ 佐藤直治、この国の医療を探る

 一方その頃。

 直治は、宮廷医師団専用の図書館にいた。

 天井まで届く本棚。

 紙と薬草の匂い。

「……すごい量だな」

 案内役の医師が胸を張る。

「医療書、薬学書、魔法理論書」

「すべて、ここにあります」

 直治は、片端から本を開いた。

(治癒魔法は即効性)

(だが、魔力は有限)

(不足分を薬で補う)

「……なるほど」

 魔法も、無料ではない。

 魔力と薬というコストがある。

(感染症の概念が弱い)

(長期治療が想定されていない)

(予防の概念もないか)

 直治は、静かに理解した。

(前提が違うだけだ)

(だから、組み合わせればいい)

 意識すると、

 淡い光が指先に宿る。

「……魔法、使えるな」

 召喚の影響だろう。

 彼は、夜まで本を読み続けた。

________________________________________

 夕方。

 再び宰相室で顔を合わせる頃には、

 私たちはもう――

 同じ国を、違う方向から理解し始めていた。




第2話を前半・後半にしていたものを統合しました。

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