第15話 聖女ミリア、恋と、聖女の力を自覚する
最初は、ただ頼れる存在だと思っていた。
地方の教会での、患者の治療中。
医師として治療をする直治たちとは別で、
ミリアには、若い魔導士――アレクシスが付き添っていた。
「聖女様、魔力の流れ、変えてみましょう」
「……すみません」
彼は、声を荒げない。
「直治さんの装置、参考にしましょうか。
この、光っているところ、魔力で分かります?」
「魔力で……?」
「はい。聖女様の魔力量なら、分かるようになります」
王妃の教えは感覚。
直治の教えは理論。
理美の教えは数字。
けれど――
アレクシスは手をとって、丁寧に、
魔力の使い方を教えてくれる。
「ありがとうございました、聖女様」
患者は深く頭を下げた。
(良かった。無事、治った)
治療が終わった後、ミリアは聞いた。
「……アレクシスさんは、
どうして、魔導士なのに、回復魔法もできるのですか?」
一瞬、迷ってから彼は答えた。
「……昔、救いたい人がいて、
聖女である母に教えを請いました」
少しずつ、彼の話を聞くようになった。
自分のことだけで一生懸命だったのに、
いつの間にか、人に対する興味が沸いていた、
そんな自分に驚く。
彼と話していると、胸の奥が、温かい。
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◆ 母と二人で思う
その日の夜、
「お母さま」
「なあに?」
理美は、ミリアの話を聞いて、分かった。
「……恋ね。
相手、魔導士の子でしょう」
「なぜ分かるんですか!?」
「帳簿と一緒よ」
「???」
「大事なところは、ちゃんと見えるの」
前の世界では、あきらめていた。
ミリアは、恋をしてもいい世界にいると知った。
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◆ 聖女の役割の変化
司教たちが気づいたのは、
医療システムが機能し始めて、
聖女の使い方が変わったことだった。
「聖女の派遣要請が減った?」
「だが患者も減っている」
司教たちは困惑していた。
「聖女ではなく、医師が治療の主導?」
王宮の会議室。
(私が頼りないから、攻められている?)
ミリアは黙っていた。
代わりに、直治が前へ出る。
「聖女の祈りは、最後の手段です」
「……なぜ?」
直治は、ミリアを一瞬だけ見た。
「医師が、救える命もあるからです。
結界は、聖女にしか張ることができない。
負担を分け合うことで、リスクを減らせます」
ミリアは顔を上げた。
「また、聖女は、人々の心を癒すこともできる。
それは、聖女にしかできません」
「そうよ、ミリア、上を向いて!」
どこからか、王妃が歩み寄ってきた。
「あなたと私は、明るい未来の象徴なのよ。
一緒に、歌いましょう!
これから、また、レッスン再開よ」
王妃はそう言って、ミリアの肩に手を回し、連れ去る。
「王妃、疲れた顔をされていたのが、
ミリア様が来てから、すっかり元気になられましたね」
大司教が、ほほ笑みながら、見送った。
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王妃はミリアと二人で、いつも祈りをささげている聖堂に入った。
「聖女が二人になって、結界の祈りが安定してきた今、
私はあなたと、新しい聖女の役割を見つけたいの。
来週、皆さんの前で、あなたの聖女の歌のお披露目をしましょう」
「え?大勢の前で、私の歌を?」
ミリアは不安げな表情になる。
「あなたなら、大丈夫。
人を幸せにしたい心を、祈りを込めて、歌い上げるのよ」
「祈り……」
元の世界で、余命わずかと言われ、病に苦しんだ。
(私は、誰よりも、苦しむ人の気持ちを知っている。
そして、この世界で、回復して、自分の未来を選べるようになる、喜びも知った)
「歌声が届く、すべての人が、明るい気持ちで、前を向いて生きられるように――」
小さな身体から、思いがけないほど大きく、ミリアの歌声が、聖堂に響き渡る。
「それよ!ミリア、すごい力を感じるわ!」
一週間後、ミリアは、王妃と二人で王城のバルコニーに立ち、
初めての聖女の歌のお披露目をした。
眼下には、見渡す限り、大勢の国民達が集まっていた。
緊張を振り払い、深く息を吸い込み、高らかに歌い出す――
「ああ、喉が痛くて咳が止まらなかったのが、苦しくなくなった!」
「手が折れていたのが治っちまった」
「何だか、幸せな気分になってきた!」
みんなが笑顔になっていった。
ミリアも、今までになく、心が満たされていくのを感じた。
(私、こんなにたくさんの人を、幸せにできるんだ)
理美と直治も、バルコニーの後ろでその姿を見守っていた。
(聖女があちこちで歌い出したら、医療、必要なくならないか?)
若干そんなことも思いながら……




