第14話 医療改革は国境を越える
王城の外交会議室は、
ここ最近で最も騒がしかった。
「医療情報を、売ってほしい」
そう切り出したのは、
大陸最大の医薬大国――ルーデンシュタインの使節だった。
「貴国の医療在庫管理、治療記録の統合、予防とリハビリの仕組み。
すべて、我が国の医薬産業にとって、革命的です」
エドワルド宰相は、すぐに直治を見る。
直治は、ほんの一瞬考え、口を開いた。
「売りません」
「やはり駄目ですか……」
「いえ、共有します」
場が、ざわつく。
「その代わり」
直治は続ける。
「あなた方の国にも、同じ医療システムを導入してください。
そして、そのデータを使って、
一緒に、医薬品や治療法を開発しましょう」
ルーデンシュタインの使節は、目を見開いた。
「……共同開発?」
「はい」
直治は頷く。
「情報が増えれば、統計も、精度も、上がる。
それに、あなた方の開発力は魅力的だ。
力を合わせれば、より良い医療につながる」
「それは願ってもないことです。ぜひ!」
直治と使節は、手を取り合った。
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◆ 広がる変化
この合意は、瞬く間に他国へ広がった。
「うちにも」
「医療システムを導入してほしい」
「データを共有させてほしい」
同時に――
別の動きも起こる。
魔法石を輸出していた国々は、
医療の効率化によって、
魔法石の輸出量の減少を突きつけられたのだ。
「……これは、経済の組み替えですね」
理美が、淡々と言う。
エドワルドは、苦笑した。
「世界中が動くな」
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◆ 聖女ミリアの価値
外交官の一人が、口を開く。
「貴国との繋がりを強めるため、
ぜひ、聖女ミリアを、
我が国の王子と婚約させたい――」
その瞬間。
「それは」
静かな声が遮った。
扉の向こうから現れたのは、
第二王子アレクシスだった。
穏やかな灰色の瞳を持つ、
ミリアより五歳年上の青年。
「聖女ミリアは、
誰かの取引材料ではありません」
彼は、はっきりと言った。
「……兄上(第一王子)であろうと、他国であろうと、
彼女が選ぶ相手以外と、結婚する理由は、ない」
会議室が、静まり返る。
エドワルドは、
わずかに口角を上げた。
「……良いことを言う」
理美は、内心で小さく頷いた。
(この子は、ちゃんと、みらいの将来を選ばせてくれる)
「アレクシスが、なぜ……」
第一王子は部屋の隅に立ち尽くしていた。
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医療改革は、すでに国境を越え、
国家経済のバランスにまで影響し始めていた。
だが、その中心にいる少女は、
まだ、自分の心を見つめ始めたばかりだった。
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