第13話 聖女ミリアの初仕事と、王子の違和感
王城の礼拝堂に、柔らかな光が満ちていた。
新井みらいは、
大司教と、王妃の前に静かに立っている。
「あなたは」
王妃は、穏やかな声で言った。
「異世界から来た少女、新井みらい」
王妃が、白い羽根で飾られた杖を掲げる。
「今からあなたは――、
この国の聖女――ミリアとして生きなさい」
杖が、みらいの額に触れると、
胸の奥が、やさしく光った。
「“未来”という名を、この国の言葉に写したものです。
あなたの存在そのものが、この国の“これから”になるように」
みらいは、小さく息をのむ。
「……はい。
聖女ミリアとして、この国を、守ります」
その名を受け取った瞬間、
みらいは“ただの召喚された少女”ではなく、
この国の未来を託された聖女になった。
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◆ 聖女ミリアの初仕事
そのまま、
王城の結界塔へと向かう。
そばにいるのは、
王妃と、数名の上級魔導士、それと騎士団の騎士たち。
「結界は」
王妃が言う。
「国を包む盾。
力は、支配のためではなく、
人を守るために使いなさい」
「はい」
ミリアは、王妃と並び、
結界の核に手を伸ばした。
二人の魔力が重なり、
結界は穏やかに安定していく。
「……瘴気が、薄れています」
魔導士が驚く。
「これが」
王妃は、微笑んだ。
「聖女の力です」
ミリアは、胸が熱くなった。
(……私の力で、誰かを、守れる)
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◆ 聖女の“教育の偏り”
第一王子は、
その光景を遠くから見つめていた。
(聖女としては、申し分ない)
だが――
彼が気にしているのは、
その後の教育だった。
ミリアは、
王妃から聖女としての全てを。
直治から医療と体のことを。
そして、
理美とエドワルドからは――
帳簿、契約、資金の流れ、不正の防ぎ方を。
「例えばこの支出、
どの台帳で確認する?」
ミリアが帳簿を覗き込む姿に、
第一王子は眉をひそめた。
(……聖女が、帳簿を学ぶ意味とは?)
理美は言う。
「帳簿は、私から教えられる、全てです」
「お母さん、私、頑張ります」
聖女の教育、それでいいのか。
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◆ 選ぶ側、選ばれる側
結界の仕事を終えると、
直治が駆け寄る。
「無理してない?」
「……大丈夫」
「今日はここまで」
直治が即決する。
「回復も、仕事のうち」
「お茶にしましょう」
王妃も頷く。
休憩中。
第一王子は、理美に切り出した。
「聖女ミリアの婚約について」
「ご相談が」
「本人の意思が最優先です」
理美は、即答する。
「私としては、将来、妃に――」
「王子、何歳でしたっけ」
「……二十九」
理美は、ミリアを見る。
「ミリアは、十四。
……ちょっと、離れてますね」
王子の顔が、こわばる。
「それにほら、
宮廷魔導士団に、
ミリアと良い感じの子、いますし」
遠くで、若い魔導士がミリアと談笑している。
「アレクシス?なぜっ」
王子が苦い顔をする。
「知り合いでしたか」
「弟だ」
「第二王子ですか。
ミリアより、五歳上でしたよね」
「……なぜ知って」
「年齢的にも、自然ですね」
理美は、はっきり言った。
「でも、選ぶのは、ミリアです」
第一王子は、言葉を失う。
「おれは、選ばれる側か?」
彼はようやく思い知った。
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◆ 聖女ミリアとして
その日の午後も、
聖女ミリアは、魔獣討伐で怪我をした兵士たちを癒した。
光が、優しく傷を包む。
「……ありがとう」
「助かった」
ミリアは、胸がいっぱいになる。
理美は、その背中を見つめていた。
(この子は、
力も、知識も、心も持った、聖女になる)
王妃も、静かに頷いている。
第一王子だけは、
その光を、複雑な目で見ていた。




