番外編「野球おねえちゃんたちのクリスマス」
メリークリスマス!
いつもお読みいただきありがとうございます。
時節に絡んだストーリーをやってみたくて、今回はクリスマス番外編です。
ネタバレはないので、メインの四人を知っていれば未読の方でも問題なく読めますよ!
珍しく時系列順が狂っていますが、今直面してる場面は終わり、その後いくつかの事件を経て、半年が過ぎた後のお話になります。
「クリスマス?」
野々香、学駆が異世界に召喚されて、半年あまりが過ぎた頃。
季節は冬。
四季の概念はこちらにもあるらしく、召喚されて数ヶ月の頃は夏らしく暑かったし、今は冬らしく寒い。
一日も24時間ほどであったし、日本と同じ感覚で日々を生きることができた。
そんなある冬の日のこと。
宿の朝食の席で、学駆が突然そんなことを言い出した。
「日本にいたら、明日がクリスマスだな」と。
「学駆さんや、その根拠は」
「そりゃ、ある程度はスマホで確認が出来たしな。おおよそ日本と変わらない時間感覚だなーって。電源切れた後は念のため数えておいただけだ。今日は、日本なら12月24日」
「数えてたの……ずっと……?」
アリサが若干引き気味の表情を浮かべるが、学駆は涼しい顔だ。見ればシーナも当然でしょう、という空気で状況を見守っている。
「いやお前ら、日本に帰れる方法も探してるってのに、その後のこと考えてなさすぎるだろ」
「そうですよ。元の世界に帰れたとして、どれくらい時間が過ぎているかも大きな問題です」
頭脳班である学駆とシーナの反論に、おバカ班の野々香とアリサは黙らされる。
その通りなので何も言えない。
「けど、さすがにこんな無茶な状況で用意が良すぎるっていうか、ねぇ」
「ねー、対応力は凄いけど若干キモいよねー。全員石化しても秒数とか数えてそう」
「ことあるごとに何かにそそられてそう」
「お前ら」
バカはバカなりの反撃として学駆の印象落としを始めた。
平たく言えば八つ当たりだ。
半年の歳月を経て、四人は大人組子供組の形だけでなく、頭脳班とバカ班に分かれることが多くなった。頭脳担当が学駆とシーナ、バカ……営業担当が野々香とアリサだ。
「けど、クリスマスかぁ。確かに季節イベントとか、こっち来てからなかったし。そういうのも思い出しちゃうね」
「夏や秋は特別なイベントもないしな。特定の日に騒ぐっていうと、ハロウィンくらいか?」
「異世界に来ちゃったら毎日がマジカルハロウィンなので何も新鮮味がないよ。ハロウィンのことしか考えられなくなってるよ。ハロウィン!ハロウィン!」
「うるせぇ」
「それじゃ、明日に向けて今夜何かする?パーティーナイトする?ホーミーベイベーする?スペシャルな時する?」
「やろうよ、いつも冒険ばっかだし。皆でワイワイやるのも楽しそう」
言われた以上、どうせならイベント感を出したくなるのが人情。
クリパだサンタだと、この際野々香とアリサははしゃぐ気満々だ。
「いや、特にしないけど」
「学駆さん?自分で言っといて何ですかねそれは」
しかし、このクレバーな男はあっさりとフラグをへし折った。
「だって、今日お前ら依頼入ってるだろ」
今日は、街の富豪からの依頼で、自身の領地に現れる魔物を退治して欲しい、という案件があった。
野々香、アリサ、シーナの三人で行く手はずになっている。
半年で、学駆たちは冒険やギルドの依頼も手慣れて来た。
その中で決まったのが、依頼や修行の際に一人ずつ持ち回りで休暇を取るローテ制だ。
王様は何も考えていないので、チームで個々の体調や英気を養う時間を与えないと持たないだろう。そうして自分達で考えた結果が、このスタイル。
今日は学駆が休暇。残りの三人で依頼をこなす予定だ。
「帰ってからやればいいじゃん」
「依頼そのものは簡単っぽいしね」
「退治予定は普通の野良ウルフだとかみたいです。お金持ちさんなので、お金で安全を買いたいのでしょうね」
これに関してはシーナも興味があるのか、依頼後でも出来そうだというアピールをしながら目を輝かせている。
年月を経て徐々に明るくなったシーナは、野々香とアリサが起こす楽しい出来事に興味津々なのだ。
しかし、学駆は首を縦に振らない。
「いやぁ、色々気を張って疲れてるからな。俺は寝る」
その態度に、野々香は少しむっとした。
「自分で振ったネタを自分で処理しないなんて芸人として恥ずべき行為ですよ」
「芸人じゃねえし」
「もういい、それなら三人で楽しく依頼してくるから、学駆は惰眠をむさぼるといいよ」
時間も時間だ。学駆の乗り気のなさにイラっとした野々香は、そのままアリサとシーナを連れて外へ出て行った。
「……さて」
三人の出発を確認すると、学駆は時々するイタズラっぽい表情で、椅子から立ち上がった。
「そそるぜ、これは」
そして、やっぱりなんかそそられてた。
「ノモ・トルネード!」
近くの森で何となくモミの木っぽい小さな木を風魔法で切り倒すと、学駆はそれを片手に肉屋に寄って大きな丸鶏を購入。
荷物になる木はいったん宿に帰り鉢に挿させてもらうと、厨房を借りて鶏を鍋にぶち込む。
火にかけて下味を付け、火の番だけ主人のウェーバーさんに頼むと、弱火でコトコトしたまま再び外へ。
小物屋で飾り付けアイテムと、市場でパンや野菜類を買って、また宿へ。
鶏は茹であがったら味付けをして、そのまま。
ゆで汁には野菜を入れて、鶏のダシが出たスープを作る。
残りの野菜を使って、サラダも作ろう。
あとは、そうだな。シャケだ。シャケを食おう。特に理由はないけど。なんか、シャケ。……は、なかったのでシャケっぽい魚。
それと、ケーキも上手く行けば手に入るだろうか。
これは自分で焼くほどの能力はないので、どこかで似たようなものを買えればいいが。
何度か説明しているが、学駆は、根っからの暗躍好きだ。
わざわざ興味ないフリをしたのもそのため。要するに、狙いはサプライズパーティーである。
そして、学駆は考え出すと止まらないのも得意技だ。
この休み、タイミング良くクリスマスサプライズが出来ると思ったこの男は、予定を練りに練って、一人で効率良くパーティーの準備を整える手はずを決めていた。
これは果たして休養になっているのかと言えば疑問だが、このタイプの男子は凝るともうだめだ。
とにかく、帰って来た野々香たちを派手な演出で出迎えるため、全てを入念に用意した。
鍋を置いておける時間を利用して、木には飾り付けを施す。
テーブルクロスもわざわざ綺麗なものを宿から借りた。ウェーバーさんからはこっちの調味料について指南を受け、間違いない味付けが出来るように事前に教わっている。
それと、やはり雰囲気作りにはランタンやロウソクだろうか。
普段、部屋は大きなランプで光量を確保しているが、今日は少し暗めの演出をしてみよう。
近くの菓子屋で、ケーキのような形状の甘い菓子も見つかった。
ロウソクは、いくつかケーキに刺すことにしよう。
夕方。料理が仕上がると、配膳やレイアウトも全て自分でやらねばならない。
暗くなる前に配置を確認すると、小物屋で買った道具で作ったお手製クラッカーも確認する。
これまた、事前に小物屋に頼んで、こういう物を作れないかと細かく相談した。事前訪問の際に赤い生地も見つけたので、サンタ帽のようなものも仕立てを依頼した。
料理を並べ、ランタンをつける。
服はさすがに間に合わなかったが、頭にはサンタ帽っぽいものを被り、テーブルには自作の料理がズラリ。手には歓迎用のクラッカー。
これで、準備は完了だ。
「ふふ……さぁ、早く帰って来るといい、野々香」
全身で一人はしゃぎ尽くした学駆は、この時、凝りすぎるあまりに、らしくもなく、異世界ではあまりに当たり前のことを失念していた。
……ここには電話がないので、何かあっても連絡は取れない。
「いやぁ、楽勝だったね」
「そりゃそうだよ、もう何ヶ月も前から余裕で倒せた相手だしさ」
野々香とアリサがハイタッチをして、シーナがにっこりと微笑む。
依頼も数をこなせば楽なものだ。街の小事であれば、緊張感もなく終えることが出来る。
「素晴らしい手並み、感服致しました」
依頼主の富豪中年男性も、たくわえた白いヒゲを触りながら満足そうに頷く。こちらもこちらで金を持て余していそうだし、半ば勇者たちの討伐ショーを観たかっただけなのかもしれない。
「どうですかな、この後、屋敷で食事でも」
その誘いに、三人は困惑した表情を見せる。
確かに、時々こういう誘いはある。依頼者の主な用件が依頼内容そのものでなく、遂行しにやって来る勇者に興味があるパターンだ。
「実は、この国でも今日は少し特別な日でしてな」
富豪一人であれば警戒心が解けないところだったが、その言葉と共に、同年代くらいの女性が後ろから歩いて来て、並んだ。
「皆様の旅のお話、私が是非聞きたいんですの。この国には今日、どこの家でもパーティーを開いて、食事を楽しむ習わしがありますわ。是非、退屈な屋敷暮らしの私たちに、勇者様の旅のお話をと思いまして」
「もしかして、クリスマス的な?」
「へぇー、あるんじゃんね、こっちにも」
富豪夫婦が並んで微笑む姿を見て、三人の警戒心も解けたようだ。
単なるご厚意であれば、甘えて楽しむのも良いのではないか。
「あの、でも、学駆さんが……」
シーナだけ、少し気がかりといった表情で戸惑っている。
しかし、野々香とアリサはすっかり乗り気だ。
それも当然、宿に帰れば華麗にクリキャンセルして寝る宣言かました学駆。ここに残れば楽しいクリパ。迷う理由がない。
「学駆には悪いけど、寝るって言ってたんだし。あたし達で楽しめばいいんじゃない?」
「連絡は取れないし、今から来てもらうことも出来ないしな」
こうして、依頼主の夫婦との、楽しいパーティーの夜は更けていった。
三人の帰りは深夜になった。つい話し込んでしまった上に、こちらの夜道は暗い。
さすがに女子たちが歩くのは警戒せねばならず、帰宅までに時間がかかってしまったのだ。
でも、楽しかったね。夫婦は優しい人だったし。
などと話しつつ、帰りの挨拶と共に野々香たちは部屋のドアを開ける。
「ただいまー」
「ごめんなさい、学駆さん。遅くなって」
「うお」
思わず野々香が変な声をあげた。
そこには。
真っ暗な部屋で、うっすらとだけ灯るランタンの灯り。すっかり冷えきった料理と、部屋の端には綺麗に彩られた木の装飾。
その木に寄りかかって、赤いサンタ帽みたいなものをかぶった学駆が、過去一はしゃぎ倒した格好で、もたれかかっていた。
あまりに帰宅が遅く、待ちくたびれた学駆は、はしゃぎ倒した自身の恥と絶望感にさいなまれ、すっかり生気を失っていた。
木にもたれて真っ白に燃え尽きているその姿は、さながら妖怪クリぼっち。
「あ、あの……学駆さん……」
「まさか……これ、学駆さんが全部……?」
鳴らす気力もなくした手元のクラッカーが、床に転げ落ちる。
それで、野々香たちはさすがに察した。
学駆が何をするつもりで、三人をどれだけ待っていたのかを。
「が、学駆……えと、あの」
おずおずと声をかける野々香に、学駆はぎぎぎぃっ、と首を回すと。
深夜の迷惑も省みず、叫び声をあげた。
「なにがクリスマスじゃあああああい!!」
……頭脳担当学駆が頭を回し過ぎた末の、盛大な自爆の夜だった。
※料理は翌朝美味しくいただきました。
いかがだったでしょうか。
突如ここから見たという方も良ければ最初を見ていただき、ブクマや評価いただけると嬉しいです。
竜さんが試練の構えのまま放置になってますが(7-2参照)それはまた次の番外編にて。
次回は本編に戻ります。




