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異世界帰りの野球おねえちゃん  作者: 日曜の例の人
4.後半戦

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97/115

第81話 「決着はいつだって」

 この三連戦、きちんとモチベーションと緊張感を維持しているニャンキースだが、9回のマウンドに春堅が上がったことにはさすがに驚きを隠せない。


 彼は気分屋だと噂に聞く。いつまでも降板しないと思ったら、どうやらこの状況を気に入ってしまっているようだった。

 となれば、この9回表。一軍のエース格である彼を、打ち崩すしかない。


 9回表、先頭は8番の助守。

 何とか、塁に。誰もが、本人もそう考える状況だ。


 助守はここまで2打席、春堅の直球に差し込まれ、凡退してしまっている。

 が、彼は小技に優れているし、左打者で、足も速い。出塁するメリットは大きく、また、仮にこの回得点が入らずとも1人走者さえ出せば10回は3番以降からの打順となり、4番樹・5番野々香に確実に回る。


 二軍の延長戦は十回のタイブレークのみなので、十回にクリーンアップに回るメリットは大きい。

 まずは、何よりも、出塁すること。


「ストラーイク!」

 内野安打でも、粘って四球でも、何でもいい。


「ボール!」

 それに対し春堅(はるかた)は直球を高目を続けて来た。


「ストラーイク!」

 あっという間にカウント1-2。追い込まれた。


 小柄で小技に優れた助守の特性は相手も当然把握している。となれば、やらせてはいけないのはバントやゴロを転がす事。

 そして、四球で歩かす事だ。

 となれば攻め方は当然転がしづらい高目に、ストライク勝負で投げ込む形になる。


 そう、だよなぁ。僕もそうするもんなぁ。

 助守は思いながら打席の外で、いったん素振りをした。


 何としてでも、塁に出なければ。ここはストライクはファールで逃げ、ボール球は確実に見逃す。粘りの見せ所だ。

 もう一度高目に来た。何とか当ててファールにする。


「この先頭の僕が出塁することが、全てのカギ……」

 念のためサインが出ていないかベンチを確認した時、不意にベンチに座る野々香と、助守は目が合った。


 あれ?

 違和感があった。

 助守は再び打席を外して素振りをしながら、何かを思い出そうとしている。

 ここまで春堅は、小柄な助守がまず転がしたり選んだりできないような高目に精密に直球を投げて来ている。

 おそらくは、その方針もさほどブレないだろう。


 ならば……


 5球目も高目には来たが、そこからぐっと落ちて来てストライクゾーンを掠めようとする変化球だった。

 これを助守は体勢を崩しながらなんとかバットに当て、ファールする。


 少しだけ、春堅が焦れたような気がした。

 6球目は高く来すぎて、ボール。助守はギリギリでバットを止め、見逃した。


 何故だろうか、違和感がある理由もわからないまま、助守はスイングを続ける。

 そうだ、僕は何としても出塁しなければならない。

 たとえ、絶対出塁させないように高目で来るとしても……


 高目が、来る?


「スケさんって、いつもどこか力や気持ちを抑えてる感じがするもん」


 高目が、来るんじゃないか?


「スケさんがガンガン行く姿も見てみたいなーって。一度だけ」


 じゃあ。


「じゃあ、きっと、あるよ。スケさんにも、まだ燃やせる情熱みたいなのが」


 僕がやってみたっていいんじゃないか。


「勝とう。それで、優勝しよう。それでそれで、次に会うのは、一軍の舞台だ」


 ッキィーーーーン。


 7球目。


 不意に、野々香との会話がフラッシュバックした助守は、驚くほど自然に、バットを振り抜いていた。

 高目の速球だ。見逃せばストライクだし、転がしたり、バントを狙ったりはちょっと、難しい球。

 それを、フルスイングで叩いていた。


「あれ?」


 言いながら、助守は走る。

 一塁まで、全力疾走だ。


 ボールがまだまだ空にあるのを確認すると、一塁を蹴って二塁へ向かう。

 それもまた全力だ。


 世の中には「確信歩き」と言う、100%ホームランの打球を打った選手だけが出来るパフォーマンスがあるけれど、助守にはそんな場面は訪れた事がない。

 とにかく、打球が落ちて、返球された時に、ひとつでも先の塁へ……


 ドン。


 ライト方向の椅子で、ボールが跳ねた。

 椅子?はて、グラウンドに、椅子などはないのだが、ボールは。

 ボールは?


 ワアァァァァァァァ!!


 歓声が巻き起こる。


 ……ボールは、ライトスタンドに飛び込んで、いた。


 助守白世、今シーズン第2号の先制ソロホームラン。


「ウッソだろ、おい!」

「完璧じゃねーか!」

「ほら、スケさん出来た!あたし大正解じゃん!自分の慧眼が怖いゼ……ほら見なよ、このいにしえの賢者が認めた綺麗な審美眼を」

「うーん、いいとこイクラとかタピオカ」

「あたしの目が魚卵か澱粉に!?」

「だってお前普段別にそんな目持ってないし、適当だし。スケさんは凄いけどお前はマグレ」

「人の功績をマグレだのマグロだのキマグレンだのと!失礼な!」


 助守がダイヤモンドを結構な距離全力で走ってしまい、早めの生還を遂げると、ベンチは異様な程の盛り上がりを見せていた。


「いや主役の帰還はやっ!」

「もしかしてダッシュした?」

「しちゃった、思わず」

 苦笑いの助守を、チームメイトは手荒な態度で祝福する。


「ほらほら、まだ試合は終わってないし、裏も抑えなきゃ」

 表情こそ興奮気味であるものの、捕手らしく冷静な指摘をする助守。

 それを聞いて、野々香は胸を張り、


「まぁ……任せときなよ……。10秒でカタをつけてやるからよ」

「1球しか投げられないじゃん……」

「あやつら程度、1球で充分よ」

「とうとう野球のルール壊しにかかってる?」


 いつも通りのノリに助守はツッコミ役をしながら、少しだけ興奮を落ち着ける様に深呼吸すると、


「あのさ、少しだけいい?」

 と助守らしく確認だけ取り、ベンチの前で腕を突き上げた。


「よっしゃあああああー!!」


 その叫びに呼応し、全員が腕を突き上げる。

 貴重な先制点は、普段は控え目な女房役からもたらされた。


 9回裏。野々香はもちろん、志願してマウンドに上がる。

 疲労はまだ少ない、何なら先程の一発で吹き飛んだ気分ですらあった。


「今日は最後まで、スケさんに任せるよ。今日の主役だからね」

 と野々香はマウンドに上がる前に笑顔で言った。


「主役、と言っても、僕がこんなことが出来たのは姫宮さんのおかげだよ」

 助守はそう言って笑い返す。謙遜ではない、試合前の言葉がなければ、あんなスイングは出来なかったし、やらなかっただろう。


「完封して、二人で主役になろう」

 マウンドに上がる前にガッシリと握手を交わすと、二人は晴れやかな表情でグラウンドへ駆け出して行った。



 何故だろうか、野々香は最終回だと言うのに、体が今までより遥かに軽く感じた。

「ストラーイク!バッター、アウッ!」


 一人目、三振。これで今日の奪三振は10個めだ。

 真っすぐ、ただ真っすぐを投げている。それだけだ。

 それだけなのに、今日はさらに何かが違う。


 2位のチームに3連勝すると言う気持ちと、それが上手く行きつつある感覚がある。

 そして姫宮野々香は、何より仲間の活躍を喜ぶ勇者だった。

 自身も充分な力を持ちながら、仲間が成長、活躍して肩を並べて戦ってくれる……

 そういう状況に、この上ない喜びを感じる女性だった。


「ストラーイク!バッター、アウッ!!」

 ツーアウト。走者なし。打席には、5番・茶渡実利が立った。


 ここの所沈み気味でらしさのない男だが、もちろん危険な打者である。本塁打は野々香に次ぐ21本。

 しかし、最も警戒すべきこの打者が打席に立った瞬間。


「僕は、今までずっと、自分に自信もありませんでした」

 野々香が少し間を取っているのを見て、助守は茶渡に声をかけた。


 間を取ったのも偶然ではない。助守が、話がしたい、と野々香に頼んだのだ。

 捕手から打者にわざわざ話しかけると言うのも嫌がられるし、勇気がいる。これも、今までの助守らしくない頼みではあった。


「でも、そんな僕でも、二軍の捕手と言う居場所でも、誰かここにいたい人を踏みつけて立ってる。あなたの軽率な態度を見て、それがわかりました」

 茶渡は不快そうな表情をしているが、特に答えはない。


「そこをあなたが要らないと言うのなら、僕が……僕たちが貰うよ」

 そこまで言うと、助守はサインを送り、ミットを構えた。

 そこで、ずっと声ひとつ出さなかった茶渡が、ようやく一言だけ、発する。


「やれるモンなら、やってみろや」

 幾分か迷いもあった茶渡が、今度は真っすぐ前を見据えていた。


 あるいはそのまま投球を続けていれば、この男は絶不調のままフラフラの打席を過ごして終わっていたかもしれない。

 だが、先に言葉で攻め入った事で、死にかけの男が目覚めてしまった、かもしれない。

 しかし、それでも、負けられない。


 1球め。アウトローの直球を強引にスイングした当たりは、芯を食えず、バックネットへ。

 2球めはインハイ。これも直球。攻め一辺倒の投球だが、それでも力で押した。

 強引に引っ張り込むが押し切られ、打球は大きく上がったものの、ライトファールグラウンドへ。


 ツーストライク。

 ここで、助守のサインを見て、野々香が少し笑みを浮かべた。そう来るか、そうだよね。そんな、笑みを。


「光魔法……イ・ウィステリア……」

 体が軽い。力がみなぎる。

 次の1球、ド定番となったこの球だが、球数110を記録する次の球に、全力を込めたストレート。


「フラァーーーーッシュっ!」

 掛け声だけで魔法力なぞ飛びもしないこの決め球だが、野々香が今、ここぞで頼る球はやはりこれだ。

 いつも以上に力がこもった球が手を離れると、不思議と野々香は確信した。


 勝った。


 ズドン!


「ストラーイクッ!!バッターアウト!!ゲームセットォッ!!」


 真ん中高めに思いきりぶち込んだ力ある速球に、茶渡のバットは完全に出遅れ、空を切った。

 球速表示は、166km。


 確信してしまうわけだ。心と体が完全に嚙み合った最後の一投は、まごう事なきこれまでの野々香の中で最高のボールだ。

 ……いや、日本の歴史の中でも最高のボールだった、とも言えるかもしれない。


 この日、二軍にいながらにして、姫宮野々香は球速の日本最高タイ記録、166kmを達成した。


 まさかの三連勝と、最高球速記録の誕生に、ビジターながらも球場は沸きに沸いた。

 やっとこ2年目で地域にすらこれから根付いて行くニャンキースに、ビジターへ応援に来てくれるファンなどあまり多くはない。


 それでも、野々香たち個人を応援しに来たファンや、物珍しさに観戦したサルガッソーズ側のファンも、笑顔で拍手を送ってくれる。

 それだけ驚くべきことが起きた。

 女性初の野球選手にして、投手にして、二刀流にして、日本最速の166km。


 一軍で達成していれば盛大なヒーローインタビューと共に大歓声を送られるところだが、二軍なのでそういったイベントはない。

 それでも、慌てて追加された「姫宮選手、おめでとうございます」のアナウンスに、球場と両軍ベンチは惜しみない拍手を送ってくれていた。


 ニャンキース、サルガッソーズに三連勝。

 貯金15。2位。

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 日曜の例の人さん、こんにちは。 「異世界帰りの野球おねえちゃん 第81話 「決着はいつだって」」拝読致しました。  へえ、一軍ローテ、そのまま投げるんだ。  どうやら、この状況を気に入ったらしい…
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