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異世界帰りの野球おねえちゃん  作者: 日曜の例の人
4.後半戦

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82/86

第68話 「全員からアホ呼ばわりされたやつ」

 そして、2位・サルガッソーズとの直接対決の日。

 野々香が初完封勝利を挙げた福岡・宝珠スタジアムでのビジターゲーム。差は3ゲーム、3連勝すれば2位に並べる。


「やー!久しぶりだな!」

 となれば、当然であるが再びこの男が現れる。この暑い中、暑苦しい男が。


茶渡実利(さど みのり)、今日も君に会うためにやって来たぜ」

「あ、ごめんあたし今日の守備位置、群馬県だった。今から向かうね」

「おい、帰るな帰るな」


 さりげなく(さりげなくない)距離を置こうとする野々香だが、さすがに試合から撤退するのは許されず、樹に肩をつかまれる。


 出来ることなら試合前に絡みたくもないし、うまいこと絡まないで逃げのびたい所なのだが、ここは相手ホーム。

 待ち伏せには地の利もある。試合前練習に入ろうとするところで先にホーム側の練習としてサード付近にガッツリ陣取っていて、ベンチに入るや否や捕まった。


 そんな地の利の生かし方されても困るのだが。


「そーだ、試合の後空いてる?地元のいい店知ってるんだよ」

「空いてないよ。暑いし。何せあたし達の夜は忙しい、オウイェー?」

「オウイェー」

「オウイェー、じゃねえよまた誤解生みそうな言い方をするな」


 野々香から突然に変なフリをかまされ、普通に呼応したのは有人、困惑しているのは樹の方だ。

 ビジターの後のよさげなお店巡り、なんてことならいつもの4人衆で既に予定されている。


 これは誘われる事を事前に推測して有人と助守が計画、予約まで済ませているので、茶渡の入る余地は作っていない。


「相変わらずガード固いなぁ、ののちゃん」

 いつの間にか"ののちゃん"などと呼んでくる茶渡を、野々香は睨みつけて、


「その呼び方は小さい頃の友達と、仲間の1人にしか許してないからやめて」

 珍しく鬱陶しさよりはっきりした怒りが野々香の表情に浮かんだ。


 ちょうど先日そう呼んでくる子に久々に会ったばかりだ。

 なれなれしいと言う点では二人とも一緒かもしれないが、愛され度がこの男とは全然違う。彼と同じ呼び方をこの男にされるのは、野々香の中で許容するわけにいかなかった。


「じゃあ、野々香ちゃんに戻すけど。俺、例の宣言ちゃんと実行すっからね、見ててよ!」

 例の宣言とは、フレッシュオールスターでかました本塁打王取ったら付き合って下さい宣言であるが、野々香はもうそれに関して相手にはしていない。


 ただこの男が現れるとどうしても気持ちを乱されてしまう、妙に凶悪なデバッファーだ。

 このカード、最低でも勝ち越しが必要な所だと言うのに。


 前回やってきた四球上等のボール攻めに、今回も野々香は打ちあぐねる形となる。

 結果的に2四球2出塁ではあるものの、残りの2打席は無理に打ちに行って三振。

 そして茶渡はこの日も打った。


「野々香ちゃんが見てるとやる気が出るんだよねぇー!」

 直感だけの男にやる気を与えると厄介だ。いきなりの2打席連続ホームランでついに本塁打数は18。野々香と1本差、樹と3本差まで迫って来てしまう。


 先発の堀が申し訳なさそうにしているが、状況的に仕方がない。本人の言う通り、見せる相手がいてやる気が高い状態だと内容も良くなる、そんな男なのだろう。

 そんな敵の投球術とデバフ男茶渡により、今カードもニャンキースは0-4の負けからスタートしてしまった。


 暑さは体力だけでなく、モチベーションも奪う。

 近年は熱中症で投手が途中交代する事例も頻繁に発生している。


 しかしながら、この暑い時期こそがチームにとっては勝負所であることが多い。

 長いペナントレースとは言え、よほど競った展開にならない限り、基本9月中盤頃には大勢も決し、目標順位へのラストスパートだ。


 その「大勢」が決まるのはこの8月の暑さの中での試合。ここでどれだけ踏ん張り切れるかが勝負であろう。

 そんな中、一人で騒がしい男のいるサルガッソーズが試合を有利に運ぶ、と思われたが。


 カァーン!


「あいでっ」

 二試合目、先頭の有人が放った三塁線へのライナーをジャンピングキャッチしようとした茶渡は、見事にそれをヘディングした。


 ボールはレフト線へ転々と転がり、有人は悠々二塁を陥れる。

『アホォー!!』


 ベンチから多数の怒号が飛ぶ。腕を伸ばせば取れる、ジャンプの必要のないライナーだ。

 何故ジャンプしたかと言うと。


 ……カッコつけたな、こいつ。

 両軍ベンチから見ても明らかだった。


「こういう時は、もちろんやるよねぇ」

 そう言いながら続く楠見は、三塁線にバント。

 セオリー的に言えば無難に送りバントをしたのだ、と言える話だが。

 もちろん意識したのは、サード守備狙い撃ちだった。


「うおおおお!あれっ」

 スカッ


『アホォー!!』


 二度目の怒号。今度は、別にゆっくり取れば一塁は間に合う程度のバントを、素手キャッチで送球しようとして、取り損ねた。


「……ベンチ全員からアホ呼ばわりされた奴、こっちにも前いたな」

「一緒にしないでよぉ、おぞましい」


 うっかり口に出した樹だが、野々香が結構真剣にダメージを受けていそうだったので、それ以上は言わない事にした。


 粗削りだったり、積極性の高い選手は、どうしてもその分ミスや雑なプレーをしてしまいがちだ。

 それは若い選手なら多少、仕方がない事であるし、変にミスを恐れると逆に積極性を失うので、そのままにしておく事もある。


 だが、この茶渡と言う男のプレーは明らかに、野々香に見せるためのカッコつけだった。そう言う選手に対しては、監督も目線が厳しい。


 4番・樹も三塁側へ狙いすまして打球を飛ばすと、茶渡のまずい追い方でレフト線へポトリ。

 5番・野々香もやはり引っ張って三遊間。これも茶渡が無駄にスライディングを試みるが取れず、連続タイムリーとなった。


 初戦消沈気味だった勢いは、今度は相手がさらっと手放す形となり、いきなりの連続ミスにより出してしまった走者はきっちりホームイン。


 そのままニャンキースが初回打者一巡の猛攻を見せ、5-0。

 完全に勝負の流れは変わってしまった。


 野々香たちに本塁打数で追いつく、と豪語した茶渡実利はこの日、かろうじて温情を貰った1打席目で、集中を完全になくした三球三振を見せつけ、それ以後はベンチに下げられた。

 そして、茶渡がいなくなったから……と言う訳でもないだろうが、その後の三打席め。


「なんか肩の力が抜けた気がする!」

 と言いながら打席に入った野々香は、力感のない綺麗なスイングで高目の球をひっぱたくと、打球は左中間へ大きく伸びてスタンドイン。ついに大台に乗る20号ホームランは、美しいスイングと弾道で決まった。


 二戦目はこのままニャンキースが押し切り、8-3で勝利した。


 続く三戦目は、もうスタメンに茶渡の名前はなかった。

 その分試合展開は落ち着いたものとなったし、野々香もこの日ヒットを打つことは出来なかったが、1死三塁からセカンドゴロの間に走者を返す渋い活躍で3-2。


 そのまま無事に勝利をおさめ、野々香のセカンドゴロが勝利打点となった。

 自身の調子に乗り過ぎたプレーで見事出番を失ったベンチの茶渡を見て、野々香は似たような経験がある事を思い出し、ああはなるまい……とチームバッティングに徹した結果だった。


 ニャンキースは目下2位のサルガッソーズに勝ち越し、貯金は5。

 2位とゲーム差2まで迫った。


姫宮野々香

投球成績 18登板 128回(規定投球回確定) 30自責点 129奪三振 防御率2.11 9勝3敗

打撃成績 打率.281 20本塁打 67打点 出塁率.349 OPS.912


ニャンキース 

48勝43敗7分 3位 首位とのゲーム差4.5 残り32試合


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 日曜の例の人さん、こんにちは。 「異世界帰りの野球おねえちゃん 第68話 「全員からアホ呼ばわりされたやつ」」拝読致しました。  サルガッソーズといえば、茶渡。作品中ぶっちぎりのアホ1位です。 …
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