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異世界帰りの野球おねえちゃん  作者: 日曜の例の人
3.前半戦

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第42話 「死期を悟ったお師匠様みたいなこと」

 自分以外とバッテリーを組もうと思ったことはないのか。


 助守に言われて野々香は気付いた。考えてみれば、助守以外の捕手にここまで試合でボールを受けて貰った事はない。

 いや、そもそも捕手の人数自体も本職かあやふやな人を入れて3~4人程度のチームなので、助守もある程度スタメンで出番が貰えている部分もあるが、既存の投手は既存の捕手に、新人は新人同士で組んでいてそのまま来てしまっている。


「言われてみれば、ないね」

「ないんだ?」


 助守が意外な顔をした。

 だが、野々香としてはそんなことは考えた事もなかった。


「いやぁ、あたしなんかむしろ配球とかは素人だし勉強の最中だし。スケさんちゃんとボール捕ってくれるしね。言われて初めて、そういえばプロはキャッチャーと合う合わないとかで、良くバッテリー組み替えてるよなーって思い出したくらい」


 そもそも、ニャンキースと言う新規球団において、さぁ165kmの球を受けて下さいと言われて簡単に出来る捕手がそういるとは思えない。

 助守のキャッチングがその時点でハイレベルだった故の幸運と言えるだろう。

 他の捕手も慣れれば捕ってくれるだろうが、いずれは……


「あれっ?」

 と言う所まで考えて、野々香は気付く。


「もしかしてこれ、別れ話されてる!?」

 急にかしこまった感じで話し出すから違和感は覚えていた野々香だが、そこに気付いて唐突に不安に襲われていた。


「まってまって、何があったか知らないけどバッテリー解消みたいな話なら落ち着いて考え直していただけると。女房役は今後も助守さんにお願いしたくって、何かスケさんが女房だとあたしが旦那みたいな話になってるのもめっちゃ違和感だけど、あたしは不満とかないし別れて暮らしてもお嫁なんかにゃ行かないし待ってもらいたいのですが」

「あぁぁ、ごめんごめんそうじゃない」

 慌ててまたとんちきな事を言って引き留めに入る野々香に、助守も慌てて否定した。


「今が不満とかやめたいとかじゃなくて、逆に姫宮さんは今のままでいいの?って」

 そう助守に言われてなお、野々香は何の話かピンと来ない。

 首をかしげていると、助守は続けた。


「はっきり言って、姫宮さんに比べて僕が来年すぐドラフト指名を受ける確率はとても低い。諦めるわけじゃないけど、現実的にね」

 呟くように漏らしたのは、厳しい現実だ。


 ニャンキースから昨年ドラフト指名を受けたのは2名。投手と外野手が1人ずつだ。

 姫宮野々香効果でチーム成績は大幅改善し、一緒にレギュラーを奪取した樹、有人、助守は昨年のメンバーに比べても有望株ではある。


 あるが、それでもよほど突出した何かがなければ、野手……まして捕手が指名される可能性は限りなく低いだろう。

 捕手は選手寿命は比較的長く、1軍レギュラーに上がれなくとも2軍でマスクを被るための選手を重宝するようなチームは少なくない。

 敢えて若い捕手を指名するとしても、おそらく高校・大学・社会人からの指名になる。


「だから、僕から君の球を受けたくないとかじゃなく、君自身の今後のために他の捕手と組んだり、自分で組み立てるリードを学ぶ必要があるんじゃないかな」

 野々香はまだ自分の事で精一杯なこともある。そのため考えもしなかったが、確かに必要な事だ。


「でもどうして、急にまたそんな……死期を悟ったお師匠様みたいなことを」

「いや、死期を悟ったお師匠様みたいな人に、僕今まで会った事がないのでわかんないんだけど。どんな人生送ったら会えるのそれ」


 冒険の旅は1年程度だったので、さすがに「お前に教える事は何もない」とか「おぬしは既にワシを超えておる」とか「踏み出した者が無傷でいられると思うなよぼーや」とか言ってくれた長年の師匠は存在しない……いや、一番最初のはいた。でも既出魔法を教えようとした、と言う悲しすぎる事実発覚で、皆伝判定1分だったのでノーカン。

 

 それとは別に、死の間際に出会い色々を教えてくれた老人がいた。

 雰囲気で野々香が師匠と呼んだその人も、似たような事を言って野々香を突き放した。


「不幸詰めたマトリョーシカみたいな生活を送ったら会える、かな……?」

 あ、これまともに聞いてもわかんない奴だ。助守は悟ったのでスルーを決め込むことにした。


「前から気になってはいたことなんだ。ただ、今日特に思う事があってね」

 特に思う事。助守はそこを深く話すつもりはなさそうだった。

 それならばと、先輩の助言として、野々香は何も聞かずに頷いた。


「もちろん、可能性の話をしただけで、僕も簡単に姫宮さんの捕手の座を譲る気はないよ。それじゃ、明日の試合の話をしよっか」

「はい、先輩。参考にさせてもらいまっす!」

「子供たちにもいいとこ見せなきゃね」


 今日の野球教室への参加に当選した子供並びに保護者たちは、そのまま試合観戦に無料招待となっている。これで変なことして負けた日には示しがつかない。

 楽しく、しかし入念にミーティングは行われた。


 トライアルズとの3連戦、1戦目。


 野々香は5番・初のライトでの出場、助守は初めて他のローテ投手、堀信雅(ほり のぶまさ)とのバッテリーとなった。

 子供たちにせっかく教えた選手たちが試合に出て来なかったらつまらないでしょ、と小林監督の配慮であった。


 言うまでもないが、コスプレ衣装と着ぐるみの人はもうどっかへ行った。

 野々香はまだしも、着ぐるみの中の人が捕手で出場してたからと言って誰か気付くのだろうか。

 と言う疑問はあるが、まぁ出場自体がボーナスのようなものだ、ラッキーだ、と助守は思っておいた。


 2回、ヒットで出た野々香を9番・助守がタイムリーで返し先制。

 試合で組んだ事のない堀を助守は丁寧にリードし、相手打線を上手く抑えて行く。


 3回には樹、野々香の2者連続ホームラン。

 5回には四球の樹を野々香がタイムリーツーベースで返す。

 試合は5回で5-0と大きくリードした。


 堀は三振が少なく打たせて取るタイプなので、守備陣にも見せ場は多かった。

 有人が横っ飛びの好捕を見せ、樹が上手く腕を伸ばして送球をキャッチする。

 野々香も覚束ない動きながら徐々に実戦感覚を掴み、一度はライト線の落ちそうな当たりをスライディングキャッチ。

 特別観戦の家族たちも大いに盛り上がっていた。


 7回、野々香の4打席目。ここまでヒット二塁打本塁打の野々香は、三塁打が出ればサイクルヒットの打席だ。

 原出に見事に達成された記憶も新しい中、否応なく意識してしまう。

 しかしそれでも、子供たちの見守る中なら集中力がはるかに研ぎ澄まされるのが野々香だ。その打席で見事にライト線へ流し打ち。ちょうど線上で高くバウンドするヒットを放った。


「回れ回れー!!」

 大きくバウンドしたボールがライトフェンス側へ転々として行く。ライトもバウンドを合わせそこね、少しもたついた。


 行ける!

 野々香は迷いなく二塁を蹴ると、三塁へ向けて駆け出し……


 パァン!

 まだ三塁まで半分ちょっとと言った辺りで、ボールがグラブにおさまるいい音がした。


「はれっ」

 ……もちろん、ボールを持っているのは三塁手である。


「さ、さんるいげと。ずさー」

 もはややったった感だけを出すために行われたスライディングも虚しく、グラブは野々香の腕にタッチされる。

 招待客の一番見やすい三塁での見事な憤死に、野々香は気まずそうにベンチに帰って行った。


「お前……足だけはほんっとクッソ遅いな」

「だって女の子だもん……!」


 異世界でAGIのステ振りに見放された野々香は、足だけは"普通の女子の中ではめっちゃ速い方"という程度で、男子、まして野球選手の中では相当遅い。

 これはサイクル打つのはきつそうだなぁ……と、野々香は原出へのコンプレックスをまた一つ積もらせるのだった。


 しかし、子供の観ている場面では特に野々香と助守の活躍は目覚ましく、2人そろって4安打を放って大活躍。

 翌日の登板試合も助守のアドバイス通り自分の思考も絡め、打たせて取るスタイルで6回を無失点。見事勝利投手になった。


 監督から、毎回子供招待試合にしようか?と冗談ぽく言われたが、本気だったのかもしれない。


 姫宮野々香

 投球成績 8登板 54回13自責点53奪三振 防御率2.21 5勝2敗

 打撃成績 打率.272 7本塁打 30打点 出塁率.340 OPS.848



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― 新着の感想 ―
 日曜の例の人さん、こんにちは。 「異世界帰りの野球おねえちゃん 第42話 「死期を悟ったお師匠様みたいなこと」拝読致しました。  確かに、キャッチャーは助守以外には受けてもらっていない。  不思議…
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