番外編「 異世界に来た野球おねえちゃん」4-2
今度の冒険は北側にある湖畔。予算の少ない一行は、武器屋で買った木製の安い弓と、棒に金具を付けただけのお手製槍を持って、湖へと向かっていた。
目的は、アリサの魔法以外の戦闘手段として、広くて人に迷惑をかけない場所で弓の練習をするため。
また、アリサが冒険に着て行く服も低予算で改めて用意した。
Yシャツ(っぽい服)に胸当て、赤いチェックのミニスカートに黒のスパッツ。ほぼ野々香コーディネートによるもので、イメージは女弓兵だ。
ほぼと言うのは、スパッツ部分。本人からいくら何でもこのミニで生足は勘弁して、と懇願された。
「ぬぬぅ、あのおっさん達めぇ」
野々香はいきなり不機嫌だ。
理由は簡単で、またも酒場のおっさんに馬鹿にした態度を取られたせいだった。
情報集めに寄ったものの、野々香はすっかり袖にされ、アリサちゃんを出してよの一点張り。
「すっかりなめられてるな。まぁ俺もなんだけど」
至極自然な流れで懐に入り込んだアリサとの対比で余計に心象を悪くしたのか、学駆と野々香は「冒険に不似合いなおぼっちゃんとお嬢様」扱いで馬鹿にされている。結局アリサを出したら解決したのだが、今後に向けてもやりにくさは残ってしまう。
「まず見た目から"ひ弱"って印象なのに突っ張るのが嫌なんだろうな、あいつら。アリサはそこさらっと可愛さアピールで誤魔化したから」
「なめられない方法……見た目でなめられないと言えば金髪!金髪にすっか!日本でもなめられない、異世界ならそれっぽい!」
「安易すぎる!」
肩まで伸びた黒髪を撫でながら野々香がまた思い付きを叫ぶ。
「ああいう連中に対して見た目を変えるってのは、まぁありだし、似合うとは思うけどさ」
「見た目を?そういうもんなの?」
アリサは首を傾げたが、学駆は「経験上な」と、首を縦に振った。
「少なくともああ言う荒れた場所では、連中も敢えてごつい見た目で威嚇してたりするんだよ。それをやらない、弱そうな姿のままでいるなら、結局あいつはわかってないから弱い奴だ。なんて判定されたりする」
学駆も、髪の色を茶髪にしたのは高校時代にそう言う経験をしたため。
自ら荒事に踏み込むのは論外だが、見るからにおとなしそうだと荒事の方からやって来ることがあるのだ。
野々香とアリサは「ふーん」と納得半分の様子だったが。
「ともあれ、なめられっぱなしじゃ困るもんね。リベンジを誓うよ、この土砂降りの夜に」
「快晴の昼だな」
野々香のいつものノリにツッコミを入れたりしている間に、湖が見えて来た。
どこで経験があるのか、アリサは槍と弓の扱いが上手かった。
長物をブンブン振り回すと言うのもそう出来ない事だ。本人もテンション高く「槍クルクル!槍クルクル!これやってみたかったんだぁ」などと槍回しを楽しんでいる。
「器用だなアリサ、魔法使えない時の代用品にはなりそうじゃん」
「あはは、関係あるかわかんないけど、棒の扱いはちょっと経験があるんだ。だからかもね」
「アリサちゃん」
「どうしたの、ののちゃん」
「今のセリフ、もういっぺん言って貰っていいですか?」
「へ?棒の扱いは……」
「やめなさい」
心のおじさんが目覚めかけた野々香は、学駆のメジャー流デコピンで黙らされた。
湖の周辺はやはり水生生物系、カエルやカニを大きくした様な魔物が生息している。
カエルはでかいと生理的にきついが、カニは動きも遅く移動が横だけなので弓の練習にだいぶいい。逆に銅剣で斬るのは難しいので、矢を当てて倒して行った。
学駆や野々香も剣がちゃんと振れるわけではない。こういう機にしっかりと自身の動きを確認している。
「視力はいいし、槍の振りもいい、狙った場所に当てるセンスもある……アリサ、もしかして野球でもやってたか?」
アリサの意外な素質を見て学駆が尋ねる。
「当たり。よくわかったね」
「俺もやってたから」
「え?マジで?仲間仲間!」
「やっぱりか。振りがバットスイングっぽかったし、目も良く見えてたからスポーツだろうなぁとは」
「え、どこどこ?高校、強かった?レギュラー?」
「いやぁ、レギュラーだけど、弱小だ。大学じゃもうやめちまったよ」
「へぇ、でも凄いじゃん!うちなんかレギュラーはとても無理でさぁ~」
思わぬ共通点から話が弾む学駆とアリサをよそに、野々香はその場を離れた。
別に話題に入れないわけではない。と言うかむしろ入りたいが。
さすがにこういう状況でお花を摘みに行くのを堂々宣言するのはためらわれるのと、先の戦いでふと覚えたスキルの試し打ちをしてみたかったのだ。
学駆もそれに気付いてはいたが、前者の理由は概ね察せるので特に言及しない。
「気を付けろよ」とだけ一声かけてアリサとの会話に戻った。
「魔法とかは楽しみだけど、こう言う時は文明の差が身に染みるぅ……」
そう言いながら野々香は木陰から出ると、早足で歩きだした。さほど強い魔物もいなさそうだが、一人でいる時間は短くするにこしたことはない。
しかし、そのわずかな時間に、魔物は目の前に現れた。
先程も見た、巨大なカエルだ。野々香より少し背が低いものの、1メートルほどはある巨大ガエルは見た目にインパクトが強い。
そこで野々香は、一つひらめく。
先程習得した新たな魔法、「鉄人化」と言うものだ。
効果はそのまんま、体が鉄の様になるとのことで、使い道はやってみないとわからない。
が、鉄の体になれば頑丈になれたり鉄の腕で攻撃出来たりするかもしれない、一種のバフ魔法なのではないだろうか。
どのみち手持ちは銅剣だ。先の戦いで銅剣で叩き伏せるのは苦労しただけに、そのまま剣を振るよりマシだろう。
そんな予想をした野々香は早速試用することにした。
「鉄人化!」
その名の通り、体が頭から足まで完全に鋼鉄の像と化した野々香は、頑丈な代わりに一歩も動けなくなった。
……そうはならんやろ。
内心でツッコミを入れる。
入れられる。つまり、意識はあるのだ。
体が動かない状況で、カエルが迫って来る。何度か舌や腕でひっぱたいて来るが、そこは鋼鉄。ダメージはない。
しかし、先程から標的であった事実を理解しているカエルは、引き下がらない。戦闘続行だ。
何かをしてやらねば、と思ったのか、カエルは再び舌をべろーんと出して。
そのまま野々香の鉄の体をなめ回し始めた。
「ぎゃー!!」
と、声は出ない。内心で悲鳴をあげる。
「きっ、キモい!助けて!」
しかし、口は動かない。聴こえない心の悲鳴が、空を叩くのみであった。
「遅いな」
学駆は訝しんだ。……いや、現状であればほぼ確信した。
「何かあったね」
アリサもだ。二人は顔を見合わせるとすぐ、野々香の向かった方向へ歩き出す。
野々香はアホであるが状況を把握出来ない馬鹿ではない。一人でその場を離れた以上、どんな事情であれ早急に帰って来るはずだ。
そうでないのなら、帰って来られない。すなわち、危険が生じたのだ。
「くそっ」
一人にしてしまったのはまずかったか。
心臓が高鳴る。いくらプライバシーの問題とは言え、こんな命の危険のある場所で呑気に配慮している場合ではなかった。改めて、異世界に来たという認識が甘かったと学駆は歯噛みした。
何とか無事でいてくれ、今すぐ……
木々の間を抜け、少しだけ開けた場所に出た、この辺りのはずだ。
すると、目の前に一体の生物を確認。一度足を止め茂みに隠れ、慎重に移動して様子を伺う。
あれは、何度か見た巨大カエルと……
……鉄像と化した野々香だった。
何をしても何も起こらないためか、カエルは苛立った様にずっと野々香の像を舐め回している。
その光景は何とも見た事のないもので、空想の世界が現実になったことを改めて認識させられた。
「こっこれは……なかなか……」
「あぁ……なかなかだな……!」
アリサも学駆も驚愕のあまり動きが止まる。ひとまず危険ではなさそうに見えるが、どうして野々香がそうなったのかはまるでわからない。
「た、助けなきゃ」
「そ、そうだな……」
当たり前の事を言ったはずのアリサなのに、学駆は何故か歯切れが悪い。
何故か戸惑っている間に、カエルはずっと野々香の体を舐め続けている。
ぺろぺろぺろぺろ。
ぺろぺろぺろぺろ。
うん、危険ではなさそうだな。
野々香の方は舐め回されている感覚があるなどとは露知らず、学駆は呑気に眺めている。
野々香の体がひたすら舐め回されているのを、眺めている。
「いや、あれだって危険かもしんないじゃん。とにかくほっとくのはまずいって。気持ちはわかるけど」
「わかってる!わかってるんだアリサ。けどな、人生でこれを見られるのは今しかないんじゃねぇかって……そう思うと……」
そんなことを話す間も二人の視線は一時も野々香から離れない。
しかしほどなく、いい加減にしろとばかりに野々香の体が発光を始める。
「あ、魔法が解けるよ!やっぱり魔法の効果なんだ、あれ」
魔術師にはわかるのか、解除の前兆をアリサは察知した。解ければ今度こそ危ない。
「し、仕方ねぇ。今だ、セーラーアリサ!」
「セーラー着てないけど!?」
明らかに様子のおかしい学駆はさておき、アリサも早速練習の成果を試す時だ。
鉄化魔法が解ける前に、カエルに当てる。
狙いを絞って矢を放つと、何とか胴体に命中。本来ならヘッドショットでも出来れば一発合格なのだろうが、ひとまず怯ませたのでセーフとしておく。
そしてその怯んだ一瞬で、学駆は素早く距離を詰めると、
「ありがとう!君の活躍は忘れない!」
何故か感謝を表明しながらカエルを銅剣で薙ぎ倒した。
「いやぁ、昨日は酷い目に遭ったよぉ」
概ね良い修行と一部、目の保養になった湖の探索。一行は、いつもの報告を終え宿に戻り休んだ。
翌朝、早くに出掛けたと思った野々香が宿に戻ると、いきなり髪が金色になっていた。
「でも、あとちょっと二人が来るの遅かったら本当に怪我したり死んでたかもしれなかったもんね。ありがとね」
「いや、髪ぃ!」
「ののちゃん似合ってる、似合ってるけど!急にどうしたの!?」
「染めた」
「それは見りゃわかる!」
異世界にも髪染め文化はあったらしい。それにしてもあまりに唐突な出来事に、学駆もアリサも開いた口がふさがらない。
「言ったじゃん、なめられないように金髪にするって」
「そ、それにしたってお前なぁ……」
「で!似合うかい似合わないかい、どっちなんだい!」
既に回答済みのアリサでなく、野々香は学駆の方をじろっと睨むと、そのまま顔を近づけて回答を迫った。
お前はほんとアホだな、とでも言いそうになっていた学駆だが、前日に自身もクソムーブをやらかした自覚がある。論理思考の人間は、論理的に自分が悪いとわかると強く出られないのだ。
「うん、似合うよ。いいんじゃねえの」
なので、ここはそのまま素直に野々香を喜ばせる結果となった。
そんな形で、「なめられないための金髪・姫宮野々香」が誕生した。
しかし、そんなアホみたいな理由は実は建前。
迅速に髪を染めて来た理由。
それは、学駆の何気ない「似合うとは思う」の一声を、野々香は聞き逃していなかった。
ただ、それだけだったのだ。
いつも読んで頂きありがとうございます。
色々と落ち着いては来たものの、ペースは若干緩めた分、今度はもっと宣伝努力をしないといけない頃合いです。
これまで、野暮と思い控え目にしていたのですが、「今時そういうのはどんどん言わないと忘れて行かれるぞ」とアドバイスをもらいましたので、今日だけちょっと叫ばせて下さい。
ブックマーク・評価まだの方は是非押してって!
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読者が増えて感想欄でネタに対するツッコミとかごちゃごちゃして、皆で作る小説って感じになったら嬉しいです!
よろしくお願いします!




