表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界帰りの野球おねえちゃん  作者: 日曜の例の人
3.前半戦

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/87

番外編「 異世界に来た野球おねえちゃん」3-2

「いにしえの賢者様?」

「そうだぜ、大昔から魔法を研究していて、今も山奥にひっそり住んでいるって話だ」


 野々香の出した案は「再びギルドと酒場で女子力一本釣り作戦」だった。

 ワンパターンだ。

 だが、うまくいった。


 再びアリサが酒場で飲んだくれるおっさんの懐にグイグイと入り込み、強くなるにはどうしたらいいかと質問攻めをした。

 「おじさん強そうだしね」の一言で一気に相手の態度が変わったのが印象的だ。


「え、でもうちよりは全然強そうだったし。飲んだくれてたけど」とアリサは何の他意もない顔で言う。

 何なら賢者様は釣りが好きだのと言う話になった時も「釣り!わー!楽しそう!」と乗っかってしまい、危うくおっさんと一緒に釣りに行くはめになりそうだった。


「釣るのはおっさんだけにしといてくれ、アリサ」

「おっさん釣った覚えもないよ!?」

 学駆が肩に手を置いて真顔で首を横に振るのに対し、アリサはまたも無自覚にとぼけている。

「いや、めちゃくちゃ釣ってたよアリサちゃん……爆釣だよ……」

 と、野々香まで素に戻すのだからおそろしい子だ。


 結果、出て来たのが山奥に住む"いにしえの賢者"に教えを乞うと言うもの。

 これだけ剣と魔法のはびこる異世界、先達がいるのは当然だ。

 街からは少し歩くものの山までは比較的安全な道なので、そこで賢者に教えを請えば、ひとまず命の危険はなくレベルアップ出来る可能性がある。


「そうか……修行パート!いいね、あたしたちに必要なのは修行パートだよ!死なない、お金も装備も要らない、師匠キャラが出て来るかもしれない、いいことづくめだね」

 そんなわけで、一行はゆるりと山登りを開始。道中現れたのは再びカラスやウサギ達で、大きな危険はなかった。


 アリサのファイヤーボール、野々香のイ・ウィステリア・フラッシュ、共に多用は禁物だが、敵の数や状況に応じて節約しながら使えば問題はない。前回は、気が大きくなって即座に連発したのもよくなかったのだろう。

 そういった戦略においても、こういう戦闘経験を増やすのは重要だった。

 また、たとえ弱めの敵とはいえ、少しずつ経験値もたまり、スキルも解放されたようだ。


しかし、"盗む"だった。

もはや実質盗賊確定のような定番スキルではあるが、実際に与えられても困る。

戦闘用のをくれ。


「ゲームじゃよくあるけど、こんなの、実際んとこ戦闘で使うの難しいよなぁ。敵がお宝持ってるとかもほぼ有り得なくね」

「学駆あんた、あたしのぱんつを盗る気じゃないだろうね!?」

「お前、ほんと自爆しに行くの好きだな……」

 スカートを抑えながら叫ぶ野々香に、学駆はあきれ顔だ。

 言わなきゃ思いつかないっての。振り回さないっての。次余計な事言ったらほんとにお望み通りやってしまおうか。


 そんなわけで、今回は安全に賢者の元を訪れる事に成功する。

 いにしえの賢者様とやらは、山奥の少し開けた場所で、結界に囲まれた小さな家に住んでいた。この結界が自身の周囲を守ってくれる。また、街を魔物から守るための結界拠点でもあるらしい。

 家を訪ねたところ、賢者様はにこやかに受け入れてくれた。

 白髪に長いヒゲをたくわえて、少しくたびれた青色のローブに身を包んでいる。いかにも賢者と言う風貌だ。

 初対面から善意で接してくれる異世界人がここまでで初めてだったので、野々香たちはちょっと感動した。感動した後ちょっとむなしくもなった。


「おぬし……」

 賢者は既に老齢に達しており、髪も真っ白になって体は萎み、動きもおぼつかない。

 出迎えてよろけたところをとっさに野々香が支えると、賢者は「優しい娘さんじゃの」と、やけに満足げに頷いた。


 体はその様子でも、不思議と彼の目だけは衰えることなく、強い光を宿している気がする。

 その目で賢者は野々香を強く見つめると、ひとつ頷き、言う。


「良い目をしておる、お前ならわしの長年の研究の成果を授けるのもよいじゃろうて」

「はやっ!」

 野々香は驚きのあまり声が出てしまう。思ったより簡単だった。


 もっと認められるために水汲みしたり薪割りしたり滝に打たれたりするものだと思って覚悟していた。

 しかし、簡単に出来る事ならこれほど嬉しいこともない。そもそも、この世界はいちいち意地が悪すぎる。しかも地味に。

 即時致命的な展開になるわけでもないけど、信じて進んだら徒労に終わる。

 現状はそんな事件ばかりだ。

 ちなみに、報告と言う無駄を除けば割と自由に動き回れているのも理由は簡単である。王ならびに王城側が指示・管理をめんどくさがって仕事しないからだ。手も頭も動かさず「やっとるかー」って茶々を入れるだけが業務の連中だ。


「なに、覚悟の決まらぬ者や悪意ある者であれば修行で精神を叩き直してやるところじゃが……」

 そう言いながら賢者様は少し空を見つめ、ふとため息をついた。

「どう見てもおぬしのが国の連中より優しいんじゃもん」

「あっ……(察し)」


 地味にギスギスした国だと思っていたが、こちらの世界の老人からしてもそれは感じるものらしい。

「研究の成果を王室に明け渡したら、次にやらす事が思いつかんのか、余分な雑用ばかり振られての。正直、ここで結界の守りを受け持つのが一番気楽なんじゃよ」

 王は三世と言っていたが、少なくともこのシッサーク王国、三代の間はろくな国じゃないんだろう。


「改めてひっでえ国だな」

「秩序のないこの国に邪神からのドロップキックを食らわしてやりたいね」

「おじいちゃん、かわいそう……」

 学駆たち三人も、自身の境遇も併せて、会ったばかりの老人の言葉に納得せざるを得ないのだった。


「じゃから、お前さんたちにも、わしから授けられるものなら授けよう。地味に辛い旅になるじゃろうが、耐えるんじゃぞ」

「地味に」

「わかる」

「じゃあ、お言葉に甘えます」

 横でうんうん頷く野々香とアリサを見つつ、学駆が老人の好意に一礼する。この世界に飛んで来て、初めてスムーズに物事が進んだ。

 一行はその喜びを噛みしめながら、賢者の成果を受け取ることになった。


「野々香と申したか。おぬしからは強い光の力を感じる。おぬしなら、おそらく使いこなせるじゃろう……」

 どうやら、新しい力を手にするのは野々香のようだ。

 やった、と一言素直な感想を呟くと、野々香は老人の言葉を、


「わしの長年の研究成果……"イ・ウィステリア・フラッシュ"を……」


 老人の言葉を……。


「……は?」

「どうした、若いのにわしより耳が遠くなりなさったかの。光魔法、イ・ウィステリア……」

「カット!テイク2でお願いします」


 老人の言葉を聞かなかったことにした。


「え、ちょ、急にどうしたんじゃ優しい娘さん。何がそんなに嫌だと言うのじゃ」

「あの……非常に言いにくいのですが……」


 文明が進んだ世の中の進化と言うものは非常に速いものである。

 現代でも、ラジオにテレビ、ゲームにパソコン等々、誰かが人生を賭して生み出した新たな産物が、ひとりの人間がその生を全うする前に古臭いものとして忘れ去られる。そんなことが多々あるではないか。

 この国も、長年魔法は研究され、進化を遂げているのだろう。

 だから。


「それ、最初に覚えました……」


 おじいちゃんが一生かけて覚えた魔法が、今や初歩のものになっていても、おかしいことではないかもしれなかった。


 …………。


「お、おう…………」


 …………沈黙が流れる。


 賢者様は、振り返り、数歩だけ進むと、空を見つめ。

 はー、とひと息だけついて。


「おぬしに教えることはもう何もない」

「ほんっと、すみません!」


 最後に賢者としての威厳だけはギリギリ保とうと、精一杯の師匠ヅラをしてみせてくれた。

 なんかちょっとプルプルしてたのは、年だけのせいじゃないと思う。


「どこに行って誰と会っても気まずい空気にしかならねぇ」

 帰り道。

 結局手土産は道中の経験値と"盗む"とか言う実用性の怪しいスキルくらいで、三人は虚しい帰路についた。


「ごめん、現代のゲームさんたち。チュートリアル面倒くさいからってスキップしてごめん。案内のない異世界なめてました……」

「ののちゃんが誰に言ってんだか全くわからないけど、気持ちはわかる……」

 "案内役のいないファンタジー"、"徒労に終わるおつかいイベント"と言う悲しすぎる現実に、一行は若干心が折れかけだ。

 ついでに定時報告で城にまで行かないといけない。

 王と顔を合わせるだけでも憂鬱だ。会ってもセーブ一つしてくんないし。


「けどさ、賢者様は良い人だったじゃん?」

 何とか1日の出来事からポジティブを抜き出すため、アリサは努めて明るい声色で言った。

 それは確かに、そうだ。

 唯一良かったことといえば、賢者様が善良な人だったこと。


「何かあれば、出来る事なら味方してくれるって言ってくれたしな」

 学駆もそこは少し助かった気持ちだ。行く事自体は難しくもないし、「いつでも来なされ」と笑って見送ってくれたいにしえの賢者様は、本日ただ一つの癒しである。

「田舎のおじいちゃん!」

「それ!そんな感じ」


 また野々香とアリサが意気投合した。賢者様の賢者っぷりは発揮されなかったが、会えば力にはなってくれそうな人が出来ただけでも収穫である。

 みかんとお茶と、クレープ生地を巻いてココアクリームをかけたお菓子とかが置いてあるおじいちゃんの家。そんなことを野々香は思い出していた。


「ま、じっくりだけど経験も積んでスキルも増えてるんだ。無駄ってことはないさ」

「そうだね。今日はタフな負けでも明日は明日、トゥモアナ確定って言うしね」

「言うっけ……?」

 なんか微妙にニュアンスの違う気がする発言に学駆とアリサは首を傾げながら、少し安らいだ気持ちで一行は城へ定時報告に向かった。


「数日だけ、報告義務を免除します」


 その三人に王が放ったのは、意外なセリフであった。


 ……あーはいはい絶対良い話じゃないの知ってるゥー。

 もはや読めてますよとばかりに、三人は揃って顔をしかめた。


続きっぽく引いていますが、次はまた別のお話になります。

続きはまた10話後くらいに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
 日曜の例の人さん、こんにちは。 「番外編「 異世界に来た野球おねえちゃん」3-2」拝読致しました。  結局、以前に上手く行った方法頼みか。でも、一回成功しているというのは強いんだよな。  いや、お…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ