番外編「 異世界に来た野球おねえちゃん」3-1
ここまで読んでくださってる方、本当にありがとうございます。
経験もなく、ジャンル・題材もマイナーだと知り、どうにもならないくらい過疎るのも覚悟したのですが……幸いな事に読者様が徐々に増え続けております。
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今回は、10話ごと恒例(になる予定)の番外編です。
「うおおおおお!武器だあああああ!」
「防具だあああああ!!」
破壊的なテンションで武具屋を駆けずり回るのは、野々香とアリサ。
見事に初任務を果たした学駆、野々香、アリサの三人は、無事に受け取った報酬を持って武器・防具の店に来ていた。
コカトリス討伐任務。
初の魔物討伐に出向いた三人は、指南役の裏切りによって一転窮地に陥り、危うくアリサが初陣で命を落とすところだった。
唯一の怪我の功名としては、案内を買って出ておいて逃亡した冒険者、ジャヒーには報酬が支払われず、野々香たち三人の総取りになったと言う事だ。"PP"と呼ばれるこの世界の通貨にして、1000PP。
王様から与えられた当座の生活費が500PPであったことを考えたら、充分な稼ぎである。宿賃が一日一人10PPだったので、ひとまず1ヶ月は路頭に迷う心配がなくなった。
だがしかし、そんな事では命の危機に瀕した恐ろしさはとても晴れない。
安い胸当てとはいえ、これすらなければコカトリスの体当たりだけで命を落とした可能性だってある。
そこで、多少の出費をしても武器防具の充実。これが急務である、と学駆たちは判断した。
「剣だああ!槍だああ!鎌だあああ!」
「やばーい、超いい!テンションめちゃ上がる!」
「アリサちゃん、鎌!鎌だよほら、持って!」
「えっ?う、うん」
「うひょー!小柄な子に大鎌、これだよ!これこそロマンだよ!アリサちゃん、何か喋って!」
「えっ?……わ……私は……"死神"だ。」
「ぎゃーー!!」
「クールに行こうぜ」
「かっこいいかわいい好き!もっとやって!」
「野々香、アリサ、うるっせぇよ!」
ところがどっこい、店内に入るなりこの二人はこれだ。
いや気持ちはわかる、テンション上がる気持ちはわかる。でも命の危機に瀕したと言うのにノリノリでポーズ取ってコスプレ大会もどきを開催している二人に学駆は頭を抱える。
「気持ちはわかる、気持ちはわかるんだけど。だけどまずこのままだと危険だと言う認識をだな」
「まったまたぁ」
「野々香さんや、今この人気持ちはわかるって二回言いましたよ」
「ほんとですわぁアリサさん、大事なことだったんですねぇ、わかっちゃってますねぇ」
うぐ、と学駆は言葉に詰まる。ニヤニヤとこちらを見る野々香とアリサの表情が見事にそっくりでイラっと来た。
実際、正直に言うと学駆もワクワクしてはいる。
しかし、自身が冷静な役回りを受け持たなければこのパーティーは破綻する。それは、ファーストコンタクトからして明らかであった。
「とにかく、防具だ。まずは防具をちゃんとしようぜ。死んだら終わりなんだし」
「防具、防具ね!よーしアリサちゃんこの鎧なんかどうかな、似合うと思うんだけど!」
「うちにはちょっと重そうだなぁ」
「うわっ、出たこれ!ビ、ビビビビキニアーマー!ほんとにあるんだ!アリサちゃん付けてみて」
「嫌だよ!ののちゃん付け……いやごめんさすがにそれもダメだった、どっちもなし!」
「こ、これだ!軽装の鎧に黒のフリルスカート、赤のマント……これに大鎌を持てば最強の大鎌少女じゃない!?アリサちゃん!」
「だからコスプレ大会開始すんなってーの!」
再び学駆の怒号が飛んだ。
結局の所防具にしても、心をくすぐるものが多すぎて何も進行しない。
……わずかな期間で仲良くなりすぎじゃねえの、この二人。ずるい。
学駆はどうしても初手陽オーラを発せない性格のため、こういうのを見ると羨ましかった。
「いいじゃないのぉ学駆、ストレスが大きかったらその分解放すると言うのも一つのやり方だよぉ?」
「だからってお店の中で迷惑だろうが」
「あっ、これ漫画とかで見た事あるやつ!」
「聞いてくれませんか俺の話」
「聞いてるからちゃんと見てるんじゃーん、ほら学駆、これなんか頑丈そうだし付けてみなよ。この、くさりカンタービラを……」
「なんかのタイトルみたいに言うのやめてくんない?」
と言いつつ、鎖帷子は鎧ほど重くなく、内側に着込めるしそこそこ頑丈で良さそうだ。
またこいつノリだけで正解っぽいの引いてくんの腹立つなぁ。
学駆は少しだけ釈然としない顔で鎖帷子を手に取ってみる。
……意外と、重い。
やはり網状にして軽量化していても、鉄製では身に着けるハードルが高い。
おそらくもっと鍛えないと、学駆が装備しても敏捷性が犠牲になりそうだ。ファンタジーも簡単じゃない。
「え、重い?あたしそんな重く感じないけどな」
と思ったら、野々香の方にはいい意味のファンタジー恩恵が発生していた。
パラメーター(めんどくさいので王の前以外では二度と正式名称で呼びません)を確認すると、野々香の"STR"……いわゆる「力」の数値が30と表示されていた。どうやらこの「補正」が、野々香に学駆以上にパワーをもたらしているようである。
見ると、"VIT"……「体力」に該当する数値も28と高い。学駆はどちらも15。
いくら野々香が元々運動好きとはいえ、一度は野球の道も諦め、本格的なスポーツからは離れたのだ。野球部にいた学駆と、元の体力差をこの補正値が埋めているとなると、相当なものである。
一方で、"AGI"……「素早さ」に相当する数値が学駆は30ある。こちらは、一番運動能力のある学駆に最も補正値が上乗せされているのだから、なるほど素早く動けるわけである。
少し厳しいのがアリサだ。元々が小柄で華奢なのに、VITが10しかない。STRは18と意外と高いし、"INT"……「知力」が30と特に高いのは魔術師らしくはあるが、これでは最も命の危険があると言う事にもなる。
「やっぱり、アリサちゃんの胸当てを鉄製にしようか」
「だな」
「なんか、申し訳ないなぁ」
この状況を見て、先日の死にかけた件を考えれば、最優先がアリサになるのは当然。
しかしながら体が弱いのは魔術師の特徴であろう、アリサに非があるわけではない。
「それじゃあ親父さん、この鉄の胸当てをひとつ」
ここまで店の中で好き勝手にはしゃいでいたのを優しく静観してくれていた武器屋の親父は、禿頭にヒゲのわかりやすい見た目をしていた。いかつい見た目に反して気のいい人に違いない。
「そいつは、1500PPだな」
「いや高ッ」
学駆は思わず声が出た。
全財産はたいて一人の装備、しかもただの胸当て。相場に詳しくない学駆からしても高い気しかしない。そもそも、これでは人数分はどうあっても揃わないではないか。
「またどうして、そんな無茶苦茶な価格に」
見た目に反してとか勝手な妄想を抱いたが、ふっかけられた可能性がある、学駆はひとまず確認をした。
「鉄が足りないんだよ。頑丈な装備と、その材料になる鉄や銀なんかの材料はほとんど城に納めなくちゃいけなくてな。一般冒険者にゃかなり高いだろうが、諦めてくれ」
ぼったくるために無理やりな理屈を……と言う感じはしない。気のいい人かはともかく、本音だとは思えた。
ほとんど城に。
それはつまり、城の守りを固めるために、あるいは税収としてほとんどを王室が吸い上げている……と言うことか。
「本当にろくなことしねぇな、あの王様」
「あぁ、本当にろくなことしねぇよ」
武器屋の親父も学駆の愚痴を引き継いでため息をこぼす。
「税は高い、必要なもんは自分達のために徴収してくる、そんでその金かけて呼ぶのは細っこい兄ちゃんと、かよわい女の子と来た」
あれっ。
これは思わぬ流れ弾。これは明らかに今いる学駆たち三人に嫌味を言っている口だ。
「細っこい兄ちゃんとか何とか、まさかうちらのこと?」
アリサがうっかり余計な事を聞いてしまう。
今の口ぶりと目線から察するに聞くまでもないことだった。親父はそれを聞くと不快そうに、
「そーーだよ。どうやら装備ひとつ買う金もねぇみたいだし、お客さんとしてもちょっと歓迎できねぇやな。稼いでから出直しな」
「武器屋のおっちゃん、あんまりいい人じゃなかったねぇ」
結局、成果はめいっぱいポジティブに考えて、「この世界は思ったよりしんどい」と言う情報のみ。
冷静な学駆は、手持ち資金全てを投じてしまう事は避けざるを得なかった。
あと凄い気まずい空気になったので逃げた。
「無理もないだろ。どこだって、税金投じて明らかに無駄な事されたら文句言いたくなるじゃん。その明らかな無駄が雁首揃えてお出ましだってんだ。歓迎しろとは言えないさ」
「うちらが直接税金泥棒してるわけじゃないのに……」
釈然としない表情は、アリサだ。学駆とてこんな年で世の中を知った顔はしないが、アリサよりは多少国の事情などもわかっている。
武器屋の親父からすれば、学駆たちは「こんにちは、税金泥棒です」と言いながらノコノコ上がり込んで騒いだ輩と言う事だ。
うん、大迷惑だな。
自分たちが悪いわけではない、と主張はしたいが、それもあるもの出してからだ。やむを得ない。
もう少し、ちゃんと依頼をこなしてお金を稼ごう。
「それでも、このまま着の身着のまま戦闘に行こうぜってのは……」
「うん、怖いよねぇ……」
一度目の戦いはテンションのままに駆け抜けたものの、恐怖を自信に変えて戦って行くには、何の変化もないままではすこし厳しい。
考え込む学駆と落ち込むアリサに、しかし野々香はまた唐突に、
「あっ、それならいい考えがあるよ!」
と、絶対思いつきでしかない案を出して来るのだった。




