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異世界帰りの野球おねえちゃん  作者: 日曜の例の人
3.前半戦

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35/86

第30話 「ここは俺たちに任せて先に行け」

 囲み取材に苦戦して家族の元へ向かえない野々香に、味方の援護が到着した。


「あのぉ、ちょっと通してくれませんか。今日は何か聞きたけりゃ俺が聞くんで」

「はいはーい、俺とかどうっすかァ、期待のリードオフマンってことで少しぁ名前売りたいんですけど」

 樹、有人、助守だ。状況を察してか、すぐさま後を追って来てくれたらしい。

「その………どうも………ッス………………」

 助守お前はもうちょっとアピール頑張れよ。


 明かなゴシップ陣はそれでたじろいだが、この3人とて入団1年目にして活躍するレギュラー陣だ。

 特に樹は2軍の中では突出した長打力を秘めている事で、野球を知っている記者ならば見る所は見ている。それならばと幾人かは釣られて足を止めてくれた。


「はい、ちょっと通りますよ。なんかあったら私が答えますからね」

「選手に配慮していただき、質問等はスタッフの方へまずお願い致します、出来る限りお答えしますので」

「はいはいー、完封勝利のウイニングボールを捕った楠見でーす、喜びの声を届けますよー」


 小林監督や須手場雀(すてば すずめ)楠見玲児(くすみ れいじ)も参戦。今日はとにかく野々香のオフを大事にしてあげて欲しい、と言うのは雀のたっての願いだった。楠見も、こう言う状況のフォロー役をする、と学駆との約束がある。

 取材陣を上手く分断するように彼らは位置どると、野々香に向けて「いいから、さっさと行ってゆっくり休んで来なさい」と監督から小さな声がかかる。


 こっ、これは……

 異世界の憧れ、一度はやりたかった「ここは俺たちに任せて先に行け」案件!

 まさか現実世界の方で巡り合えるとは思わず野々香はテンションアップだ。

 異世界で魔王を倒す時などは別にそういう要素とかはなく、普通にみんなで行ってみんなで倒した。

 全ての戦いを勇者のためにみたいなのはなかった。

 実際にやってみて誰か一人でも死んでしまったら全く笑えないのだ。ノリだけでやってみようぜが出来るもんじゃなかったのだ。

 なので、降って湧いたこの機会に野々香はやりたいことをやることにした。


「ありがとう……!みんなの犠牲は無駄にはしないよ!」

「勝手に殺すな!」

 やったぁ、定番のセリフもいただきました!


 こうして取材陣を撒いてすたこら逃げ出した野々香。

 ただ一つだけ、乱発される質問の中に気になることを言っているものがあった。


「試合後客席で話していた女の子はお知り合いですか?」


 はて、何の関係があるのだろう。

 法奈か椎菜のどちらかであるが、2人とも記者が興味を示す様な事はしていないはずだが。

 あれだ、多分椎菜がかわいすぎるせいで目を付けられたのかな。

 あたしの許可なしに椎菜をスポーツ新聞のエッチな写真とかがあるあのへんとかに載せる事は許さないぞ!椎菜の可愛い写真を撮るのはあたしだ!

 そう野々香は雑に結論づけて、勝手に拳を握りしめていた。


 そこからは、久しぶりに家族の時間を過ごした。

 夕食から一泊したら翌日夕方前には飛行機に乗る慌ただしい旅だが、それでも家族と一緒にいられる時間はありがたい。


 何せ野球チームは男所帯だ。

 基本スタメン新人トリオは信頼しているしチームメイトや監督とも関係は良好だと思うが、女同士でしか話せない事もある。

 互いに一人暮らしの椎菜とは生活の相談なんかもして、宿の女部屋では話が弾んだ。


「女の子の1人暮らしは、正直心配なんだけどねぇ」

 椎菜が一人立ちすると宣言した時、特に反対したのは陽代だった。

 野々香がこれだけメロメロなので母親もそうならないはずもなく、一度姫宮家に来た椎菜を最も愛でていたのも陽代だ。

 加えて野々香も静岡に一人と言うことで、諸々心配をされた。


「だいじょーぶだいじょーぶ、チームメイトの皆も守ってくれるし、女性のスタッフさんもいるし」

 今日もスムーズに合流出来たのは仲間のおかげだ。

 チーム、球団としてはまだまだ未熟なニャンキースだが、その分歴史の長い球団のように変にこじれた部分がなく、連帯感は強いような気がする。

 ……と、野々香は思っているが、その連帯感も大概野々香自身が生み出しているものだと本人はあまり気付いていない。


「もちろん、寂しいは寂しいけどね。椎菜ちゃん。もしよければあたしの現地妻になって」

「真顔で怖い事言うのやめてもらえませんか」

 冗談めかして言ってくれれば流すところだが、野々香の目が真剣なので椎菜も笑ってくれない。


「寂しいだけならいいけど、変な事が起こらないか心配してるのよぉ、マスコミとかに捕まると怖い事もあるしねぇ」

 マスコミ。正直、まだ一軍選手にもなれないうちから思った以上に食いつかれているのは野々香も感じる。そこは気を付けないと……と言う所で、先ほどの懸念事項を思い出した。

「そうだ、それで一つ気になったことがあったんだ」


「法奈ちゃんか椎菜が目を付けられたぁ?」

 夕食を終えてひと息ついたところで、昌勇と学駆をロビーに呼び出して、再び全員集合。

 浴衣姿でロビーの自販機で飲み物を買ってひと息。旅の夜はそんな時間も特別な感じがしていいものだ。

 そこで、心配の話ついでに例の記者の事を野々香は共有しておくことにした。

 母校が藍安大名電(あいあんだいめいでん)であることを知られてしまっている以上、そこに通う法奈と椎菜がいつ標的にされてもおかしくはない。

 野々香はそれを守ってあげる術がない。フォローは家族と学駆に任せるしかないのだ。

 わずかにでもゴシップが追いかける可能性があるなら、姫宮家には伝えておく必要がある。


「あー、まぁ、なるほどな。うん」

 ところが、ガーディアンを任せたい学駆が、妙に歯切れの悪い反応だ。

 意外な話を聞いた、と言うよりはそんなこともあるよな、と思っているように見える。


「ちょっと、反応薄くない?法奈か椎菜があたしみたいにスポーツ誌のエッチな所らへんに載ったらどうすんのよ」

「……載ったのか?」

「あ、し、私服でね!?エッチなことは何もないぞ!?」


 そう言えば大した記事でもないので報告もしなかったが、聞いた学駆の反応がめちゃめちゃ真顔で怖かった。

 何かされましたと言おうもんなら学駆の手で新聞を切り裂いて記者の息の根を止めて胸を貫きそうな勢いだ。

 何なら私服で載った事ですらちょっと怒っている。


「……まぁそのスポーツ誌とやらは機会があれば切り刻むとして、もし椎菜の事なら、常識の範囲でなら名が知れた方がありがたい事情があってな」

 と、学駆が意外な事を言い出した。

 もちろんしょうもないゴシップに晒されて椎菜が迷惑するのは絶対にダメだが、と注釈は入れつつ。


「ついでだから頼みたいんだが、今度遊びに行くんだろ?野々香のSNSでちょろっと椎菜もアピールしといてくれよ。友達と街に出ましたーみたいな感じで」

「え、球団絡みで管理してるからだいぶ大勢の目に触れるんだけど、いいの、椎菜ちゃん?」

 野々香のSNSは順調にフォロワーを増やし、既に5桁を超えている。

 そんなところで写真でもアップしようものならかなりの人目に付いてしまうわけで。


「はい。わけあって少し有名になれたら有利そうな事案がありまして」

 そういえば、椎菜も今年で高校三年生。大学受験において何らかの有利が働くと言う事だろうか。

 どこらへんが有利になるか全く見当がつかないが、本人がそれでいいと言うのならば野々香も反対はない。むしろ何なら自分のことよりこの子を発信して「見なよ、うちの椎菜を……」とかやりたいくらいなのだ。

 せっかくなので、大いに宣伝プランを練らせてもらおう。うへへ。


 そう思いながらうなずく野々香が、スポーツ誌のエッチな所らへんを読んでるオッサンの顔みたいになっていたので、学駆は若干不安になるのだった。


 ちなみに翌日、2戦目のニャンキースは、野々香の完封で作った流れを受けて奮起……などということもなく逆に0-4で完封負けを食らった。

 せっかくムードが良くなったと言うのに、うーん。難儀なものである。

 チームはこれで20試合、9勝9敗2分となった。




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― 新着の感想 ―
 日曜の例の人さん、こんにちは。 「異世界帰りの野球おねえちゃん 第30話 「ここは俺たちに任せて先に行け」」拝読致しました。  新人同期3人組の登場。チームワーク抜群ですね。さすが野球小説。こう…
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