番外編「 異世界に来た野球おねえちゃん」2-1
投稿開始から1ヶ月となりました。
新参の初投稿ながら、多くの方に読んで貰えて感謝です。
まだまだ毎日更新で頑張りますので、続きを待って下さる方は是非ブックマークよろしくお願いします。
「はっはっは!お前らみたいな細っこいボウズと可愛いお嬢ちゃんが討伐依頼?馬鹿を言っちゃいけねぇ、出来ない奴に依頼を通すほどギルドも余裕はないんだぜ?お嬢ちゃんたちは帰ってママのおっぱいでも飲んでな」
テンプレ文をそのまま持って来たみたいな文句を言って、大柄な男がふんぞり返る。まさしく、異世界序盤のお決まり展開だ。
ギルドに行けば依頼を受けられるし、依頼をこなせば経験値も貯まる、報酬も貰える。生活の充実も魔王の捜索も帰還のための手段探しもみんな可能性がある。
やっぱ冒険の基本はこれでしょー、と喜び勇んで向かった結果がこれだった。
「ちょっ……やば、学駆さん聞きました?帰ってママのおっぱいでも飲んでなって!マジで言うんだ!やっば!」
そして、さらりと空気をぶち壊してはしゃぎ倒しているのが、姫宮野々香。大泉学駆のパートナー(予定)の女性にして、変な発言をさせたら他の追随を許さないアホの子だ。
「あぁ!?おめぇら雑魚のくせして、馬鹿にされてるってことすらわからねぇようだなぁ?俺たちゃ今、お嬢ちゃんを馬鹿にしてるんだぜぇ?がっはっは」
一人が大笑いを上げると同時に他の大柄な男たちまで一緒になってがははと笑いだす。これまたテンプレで、野々香はそれを見てなぜかひたすらテンションを上げ続けている。
楽しくなりすぎたのか、ずいっと男たちの前に踏み出すと、自らの胸元を指差しながら、堂々宣言。
「生憎だけどおっぱいならここにあるよ」
ドーン!
と言う効果音でもしそうな勢いで胸を張った野々香に、
「あいたっ!」
即座に学駆がメジャー流デコピンをぶちかます。
「どんな返しだよ!」
「野々香さんその反論でいいの!?」
しかし、最初に笑い出した大柄な男が「お、おう……」とどういう反応をしたらいいかわからない顔で一歩下がる。
いざ堂々と来られたら引いてしまったようだ。効いてて草。
しかし、依頼自体は現在、冒険者や勇者を名乗る者たちが片っ端から受けて回っているそうで、若葉マークだからと優しい案内人が付いて来るような簡単なチュートリアル依頼、みたいなものも特にないらしい。
あの王がいる国のギルドだけあって、早速優しくない場所である。要求ばかりする割に運営に関する有用な提案や政策は1つも出して来ないし、問題が起きたら「苦労も経験」と言う真っ黒な言い分で逃げるそうだ。
「こちらとしても、簡単な依頼がご用意出来れば受けていただきたく思いますしぃ、まだ魔法の一つも習得していない方に難易度の高い事をさせるのは忍びないんですけどねぇ」
ギルド受付嬢のルイダさんが、少し垂れ気味の優しい目をさらに垂れさせ、言った。
全体的にゆったりとした印象の女性だ。口調や性格もゆったりしていて、目元もゆったりしているし、受付の衣装らしきワンピースも白と緑のゆったりとしたデザインで、それに包まれた胸元も、まぁ、ゆったりしている。
「ほら、男どもが余計な茶々ばっか入れるからルイダさんが困り顔してるじゃん」
「元々こんな顔なんですけどぉ……」
「とにかく!難しめの依頼でもやってみせます!何故か定時連絡で城に戻らなきゃいけないんで時間がないんです、余ってる依頼はありませんか?」
「うーん、今はここにいる皆さんが受けてしまっているものしかなくぅ、新規の依頼は本日中には入らないので……ごめんなさいぃ」
何か受けない事には何も進めなさそうだと言うのに。
困り顔をさらに困らせて、ルイダさんからも断られてしまった。
「コカトリスの討伐……いきなりきつそうだなぁ」
色々と策を講じた上で、やっと受けられたのは、近場で終了出来て、一応急ぎではない討伐依頼となった。
ギルドから直に受けたのではない。ギルドでがはは笑いしていた冒険者の一人に、交渉して「協力」の形で譲り受けたものだ。ひとまず一行は街を出て、森の中の出現場所を目指している。
いきなり魔物と戦うと言うのはしんどすぎる内容だが、冒険者に同行する形なので案内人もいる。期日まではまだあるので、最悪レベル上げだけして帰還、と言うルートも検討して良いとのこと。
依頼難度は低くはないそうだが、ルイダからの初心者向け譲歩、と言うところだ。
「コカトリスなぁ、ゲームでも名前はチラホラ聞くけど、ピンと来ないよな」
伝説上はニワトリとヘビが合成されたような姿の生き物とされていて、モンスターとしてはニワトリっぽい姿をしている事が多い印象だ。だが、実際に異世界にいますよ、と言われてもまるでピンと来ない。
ルイダから貰った絵姿などの情報によると、大きく姿がイメージと違うわけではなさそうだが、戦法や弱点などがわからないのでどうしたら倒せるかもわからない。
「で、この貰った絵姿以外の情報あるんですか?ジャヒーさん」
「ん?いや知らねぇよ、俺も初見の魔物だしな」
ジャヒーと言う名の同行者のおっさんは、無責任に言い放つ。案内人と言っても、この男は明らかにアリサに興味を引かれて付いてきただけなのがわかる。討伐への協調性はあまり感じられない。装備している剣と鎧は豪華だが、体格も全体にだらしなく、強い味方とは言えなさそうだ。
「コカトリス……あっ!そうだ」
「なんだ野々香、何か思い出したのか?」
「そういえば、お父さんがウイスキーをコーラで割って、コカトリス!wとか言ってた」
「全くいらねぇ情報をありがとう」
「大丈夫!お父さんもそうやって、とにかく最後にがははと笑えればいいって!それでええねんって!」
「酔っぱらって気が大きくなってるだけの精神論!」
頭脳方面でバカサバイバー野々香を頼ろうとしたのが間違いであった。
学駆は額に手を当ててため息をつきながら、
「えー……アリサ……は、何か知ってるか?」
「とりあえず、こんなヒラヒラのカッコで戦える相手じゃないのはわかるんだけど!」
抗議の視線を主に野々香にぶつけながら、アリサと呼ばれた子が叫ぶ。
一緒に召喚された人なつっこい子は、ウェーブのかかったロングヘアと、黄色基調の膝丈フリルワンピースに変貌していた。
「ごめんてぇ、依頼報酬が入ったらもっと動きやすい服買うからさー」と、軽い謝罪の野々香。
にっちもさっちも行かなくなった一行がやむなく実践した作戦が、「女子力一本釣り作戦」だ。
手持ちにあったメイク道具に、ショートヘアのアリサには小物屋で見つけたエクステ(何の毛かわからない)を駆使し、衣装屋で仕立てて貰った服に着替え、野々香とアリサの二人で片っ端から冒険者に依頼の譲渡を頼んで回った。結果はアリサが大活躍で成功したのだが、後で問題に気付いた。冒険に着ていく服がない。
野々香は平時のシャツに簡単な胸当て、タイトスカートで一応動ける格好ではある。が、アリサは可愛い系に全ツッパしたため、とても戦闘に適した服装ではない。元の服は、作戦遂行となけなしの防具、革製の胸当てを三人分購入するために売り払ってしまった。
学駆も日本で普通に着ているジャケットに胸当てを付けて、一応支給された銅の剣があるだけだ。
銅の時点でケチっているのに、さらに予算がどうとか言って二本しかもらえてないので、野々香と学駆のみが実質戦力となる。
武器も防具もせめて鉄製だろ普通、と思うが、何やら国家事情がどうたらと言って鉄不足を主張されて逃げられた。あの王様邪魔しかしねぇ。
「しかし、アリサちゃんのタラシ能力はあれ、天性の才能だね。女子力完全敗北ですわ」
「剣と鎧見るなりかっこいー!すげー!憧れますー!でガンガン話引き出してたもんな。結果下心丸出しの怪しいおっさんが付いては来たけど」
ジャヒーに聴こえない様に学駆と野々香が囁く。
「いやだって、普通にかっこよかったからかっこいいって言っただけなんだけど……」
本人は心のままに本音を言っただけなのだが、ジャヒーにそれが「自分に興味を持ってくれた少女」と思い込まれ、ガン刺さりしてしまったらしい。
結果おっさんを釣り上げただけで現場では戦えない、絶望的な戦場マスコットと化してしまったアリサは、がっくりと肩を落としていた。
ちなみに、アリサは本人が偽名を希望したため付けられた仮称である。
が、野々香によるこの名付けには納得していない様子だ。少しばかり元気がないのも、そのせいか。
「片付いたか?」
学駆が四匹目のウルフを銅剣で叩き潰すと、周囲の確認をする。
道中に出現した魔物だが、幸いにもそこそこチュートリアルをしてくれて助かった。
城下町から少し出た所の森にいた魔物は、カラスやウサギや狼など見覚えはある動物の姿をしているものが多く、襲って来ても何とか銅剣で叩けば倒す事が出来た。
一応、初心者目線ならジャヒーも強力な味方だ。
ヒィヒィ言いながら目をつぶって剣を振り回しているような有様で、大半が剣の威力任せだったが。その剣が強いので何とかなっている。
また、学駆が速度上昇スキルを、アリサが魔法「ファイヤーボール」を早くも習得してくれたのも良かった。おかげで動き回らずに後衛から火球を放つだけであれば、アリサも戦力になれる。
クソみたいな名前のパラメーターメーターさんも、ちゃんと機能はするらしい。
「やばーい!魔法たのしーい!」
初めて魔法を放ったアリサは、物凄くテンションが上がっていた。
何せ、ウルフ二匹を一気に炎に巻き込んで、一撃だ。学駆は速度こそ上がったもののチマチマ殴り合うだけ、野々香にいたってはまだ何も習得していないのでなまくらを振り回しているだけだ。
地味過ぎる。
「くそー、何であたしまだ何もないんだよぉ、キツ過ぎるんだけど」
「ある程度経験が溜まったら突然来るみたいだから、腐らずに頑張れ」
「うちも、急に自分が魔法を覚えた!って感覚が入って来た感じ。何かこう気持ちが昂るって言うのかな?」
学駆とアリサが最初の体感を教えてくれるが、野々香にそういう感覚はない。
「あたしは遅咲きのベテラン枠なのか……」
「それぞれそいつの性格や能力に応じてスキルは発現すんだよ。んでいくらか発現したとこで、適正な職業も見えて来るから、そこから職業を名乗るようになるって流れさ」
狙いが見え見えのジャヒーはアリサ&野々香に対する視線がだいぶ怪しいものの、見え見えだからこそ知っている情報はペラペラ喋ってくれる。冒険者は基本パラメーター(メーター)を装着しているそうで、この使用感と成長を知る事がスタート地点のようだ。
「それで、ジャヒーさんのご職業は何を?」
「俺、は、あれだ、ぼ、冒険者だよ。基本職の冒険者」
言い淀んだ。絶対職業じゃないよな、それ。たまねぎ的な何かだよな。
学駆は言いそうになったが、心にとどめた。
「絶対職業じゃないでしょ、それ」
でもとどめたはずの言葉をまんま野々香が言っちゃった。
「あー!それだと俺、あんま勇者っぽくねぇなぁ!」
ジャヒーの機嫌が悪くなりそうなので、学駆は大袈裟に声を張り上げて話を逸らした。案内人の機嫌を損ねないで欲しい。素直なままの君でいないで。
学駆は見た感じ、能力が勇者っぽくないのは確かである。王様からすると勇者候補のメインは学駆のつもりのようだが、速度上昇が最初に来るのは盗賊系っぽい。
「うちも違うねぇ、絶対魔法使いだよねこれ」
「となると、可能性があるのは野々香だけってこったな」
もちろんこの三人に勇者がいるとは限らない。ただ、いるとしたら野々香だろう、とは学駆は密かに思っていた。
体格とか男子的なそれで一番危険な役を負うべきだとは思っているが、ここぞの場面で決める役は自分ではないだろうと。
全く関係ないですがルイダさんにはチョーダと言う名の兄がいます。
今後出て来るかは知りません。




