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異世界帰りの野球おねえちゃん  作者: 日曜の例の人
2.開幕編

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第13話 「育成方針」

 その後の合同トレーニングは順調な進行で、個人の技能向上、チームメイトとのコミュニケーションも問題なく過ぎて行った。

 日に日にギャラリーの多くなるさまに、「初の女性選手、姫宮野々香」と言うフレーズがどんどん盛り上がって行く。さすがの音堂コーチもギャラリーの目の中でむやみに差別をするわけにもいかない。徐々に仕事をするようになった。


「スライダーの握りが甘い!だからすっぽ抜けんだ!タマが速いだけで行けると思うなよ!ワシが現役時代にブイブイ言わせた変化球を教えちゃるわ!ワシの若い頃は!大体若いモンしかも女が体力持つはずないじゃろ!水分取ったか!?あ、メシも食えよ!寝る時は寝ろ!歯磨け!だめだこりゃ!次行ってみよう!」


 ……と言うか、口はうるさいけども思ったより優しかった。

 だんだん孫にデレてるだけのおじいちゃんみたいになってるけども、実際に若い子に接し始めるとそうなるのもジジイあるあるかもしれない。

あれだよ、水を飲むなって言わないだけ優しいじゃない(古代の価値観)

時々古代語を放って選手達が首を傾げることもあるが、野々香は逆に傾げさせるのも得意なので、そこに関してはあんまり人の事言えない。


 そうして新人のトレーニングが終わると、2月にはキャンプインとなる。

 このころになると監督、コーチら首脳陣は、選手の特性や能力を見てどう扱って行くかを考えて行く頃合いである。

 野々香の総合的な評価としては……


 投球。現状ストレートの球威のみで、それ自体は突出しているものの、変化球をもう少し習得して幅を増やすべきである。

 打撃。芯を食った時のパワーはホームランバッターのそれで、ボールを捉えるカンや目も鋭いが、読みが浅い。空振りが多い。

 走塁。遅い。こればかりは女性の限界として致し方なしか。最低限走れはするので、ここは妥協点。

 守備。これも遅い。が、落下点の捕捉が妙に的確で、捉えたボールのキャッチミスをしない。当然肩が強く内野への送球も速いことから優秀の部類と考えてもいいと言う説も。


 総合的に、荒いが才能・能力は突出していて、拙い部分も動体視力やセンス、反応の良さだけで補っている。まるで野生児が急に野球を始めたようだ。(これを監督が言ったら尾間コーチがあんな可愛い子に失礼な!って長ゼリフで憤慨しててちょっとキモかった)

 本当にどこからこんな身体能力を持った子が現れたのか。小林監督は首を傾げる。

 本人に聞いてみても「今までどこで何を…?え、あははどこでしょうね、ここではないどこかで」とはぐらかされた。

 全然はぐらかせてない。


 ただでさえ女性が初めて挑戦する上で、夢のまた夢だろうと思われた投手と打者の「二刀流」も、視野に入れて良いのではないかと言う話がコーチ陣の間では上がっている。

 本人もマスコミもファンもすっかり「そういう空気」なのだ。どうしても期待される選手は外堀から埋められやすい。

 乗るしかないのか、このビッグウェーブに。


 しかし新人最大のネックは疲労、スタミナ切れの不安である。

 新人の選手が1年間、試合に出ずっぱりでパフォーマンスを一切落とさず、立派な成績を残すという事はなかなかない。

 何せプロの世界で1年間野球漬けで、地方をあちこち飛び回りながら生活して行く、という経験自体が初めてなのだ。それが出来たらまさしく怪物。大物新人の称号を与えることになるだろう。

 大半の選手は、特に疲労が溜まりさらに暑さにやられる夏場くらいにパフォーマンスを落とす。


 とは言え、新人でいられるのはたったの1年しかない。

 新人として輝かしい記録を打ち立てて本人も目標を持って挑む中で「体力持たないだろうからやめとけ」と言って目標未達と言うような事があるとやはり本人もファンも悔いが残る。

 難しい問題である。


 故に監督やコーチは慎重になる。どんどん使って育てるか、大事に休ませながら経験させるか。それが期待度の高い選手であればあるほど、頭を悩ませるのだ。

 まして、本当に初の試みとなれば監督の方もプレッシャーである。

 女子選手の育成など降って湧いたような出来事とは言え、一度注目を集めてしまえば責任は重大だ。

 なかなか成長しない、大成しない、程度であればまだいい。頑張り過ぎて潰れたらどうなる。たとえどんな理由であっても、それは唯一の可能性が潰えると言うことだ。

 絶対叩かれる。何を言い訳したって絶対叩かれる。辞めろって何百回と言われる。


 とにかく、大事に使いつつ可能性に投資するバランス。

 仏の顔で今を見守るか、鬼になって未来を見据えるか。

 そのバランスを、キャンプである程度見定めて、悔いの残らない方針を決めていかねばならない。


 そして、2月。キャンプイン。

 既存のチームメンバーと新人も全員集まり、いよいよ開幕へ向けてチームがまとまって行く時期である。新人同士は思ったいたよりずっとチームワークが良かった。これも姫宮野々香が中心にいる影響が大きそうである。

 しかし、これからは熾烈なレギュラー争い、そして他球団とのリーグ戦に向けて、緊張感とプレッシャーの中にいることだろう。新人は最初は萎縮してしまうことも考えられる。

 まずは、固くならぬよう、いつも通りいられるように……


「あっ監督、おはようございまーす!」

『ザーーーーース!!!』


 そんな風に思慮を巡らす監督をよそに、なんか女傑とチンピラ集団みたいなやつらが揃って現れた。


「いやぁ姉さん、いよいよキャンプイン!姉さんの活躍が楽しみっすねぇ、」すっかり野々香の取り巻きとなっている日暮有人(ひぐらし あると)

「ったく緊張感のねぇ奴だな。おめぇの活躍の事考えろよ」落ち着いた貫禄のある大諭樹(おおさと いつき)

「き、緊張ししてもしょうがないよ、いいつも通りやれることをこ、こっころがけ」年長者なのに落ち着かない助守白世(すけもり しらせ)

「あはは、大丈夫大丈夫!楽しくやろうぜー!」普段通りのお気楽笑顔の姫宮野々香。


「今日も姉さんはかっこかわいいっす!」

「かっこいいとかわいい何対何?」

「10対10っす!」

「やだもー」

「お前ら揃いも揃って…!緊張感ってもんはないのか!こっからなんだぞ、本番は」

「大丈夫!張り詰めた空気の樹くんもかっこいいよ!」

「ばっ、そう言うことを男に向かって易々と言うんじゃねぇ!」

「そそうだよプププロとしてき緊張感持って先輩たちにもしし失礼のないようにに、うに」

「助守さん、緊張するのかしないのかどっちなんだよ…」


 一部を除いて全然お気楽な感じで新人組が現れた。

 昔は新人でも結構ガラが悪かったり、お互いバチコリバチコリ火花が散っていたりして最初からまとめるのに苦労したものだが。

 時代の流れなのか姫宮野々香の人徳なのか。チームメイトは意外と早くまとまりを見せており、小林は安堵しつつも複雑な心境だった。


 チームのまとまりの原因は、ある意味確かに野々香である。

 ロッカールーム事件(?)以降、特にこの4人は何となくつるむようになり、他の新人に比べても成長度・期待度の高い選手と見られている。刺激し合う相手、触発される相手がいると成長の助けになるというのは良くあることだが、とにかくポジティブで元気の絶えない野々香は、新人たちの支柱として機能していた。

 これがすっかり安定している1軍のプロチームであればお気楽な新人には洗礼を浴びせてやろう、などとも言えるが……


 良く来たなナメた新人ども!なんていきがれるほどの選手、いないんだよねぇ……。

 と言うわけで、小林はじめ首脳陣は新しい空気が流れる事に期待しているのであった。




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― 新着の感想 ―
 日曜の例の人さん、こんにちは。 「異世界帰りの野球おねえちゃん 第13話 「育成方針」」まで拝読致しました。  ドリフか。ドリフだな。分かる人も随分少なくなったんだろうなぁ。  なるほどジジイある…
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