表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界帰りの野球おねえちゃん  作者: 日曜の例の人
第二部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

123/128

第二部・プロローグ

「貴様らが……勇者とその仲間たち、か」


 禍々しい雰囲気の漂う城内。骸骨デザインのランプが部屋を照らしていて、黒光りする柱はやけに刺々しいデザインだ。

 赤い絨毯は飾り気がない以外はシッサーク国の王の間と変わらないが、外壁や空間の演出のせいか、血塗られた色のように演出されている。

 そしてこれまたごつごつしたドクロデザインの玉座に佇む、一人の男。

 正確には、一人の男の形をした、魔族。


 魔王、そう呼ばれている存在だ。

 背も体格も人間サイズながら、一回り大きくがっしりした印象のその魔族は、横には側近らしき魔族を従え、無表情で勇者たちに視線だけを送っている。


「そうだよ。……魔王、今日があんたの命日だ」


 びしっ、と剣を突きつけ、勇者は宣言した。

 その表情はまさしく"ドヤ顔"と呼ぶにふさわしく、これ言ってみたかったんですよねー!と顔に書いてある。


「特に俺にはお前たちと戦う理由はないのだが、何故ここへ来た?」

「……は?」


 しかし、魔王は思いもよらぬことを言って、首を傾げる。

 戦う理由がない、その言葉を聞いて、勇者……姫宮野々香は困惑した。


「え、そうなん?正直、俺たちにもお前を倒す絶対の理由はない。こんな国、見捨てて帰っても良かったんだけど、な」

「はぁぁ?」


 パーティーの一人、盗賊の男……大泉学駆がすまし顔で同意した。

 野々香は味方にまで思わぬ回答を返されて、さらに困惑する。


「学駆さんや、さすがに今それは気が抜けちゃうからやめてほしいんだけど」

「けど、事実だろう」

「ののちゃんが、見捨てて帰るのは気が引ける、って言って帰るのやめたんだもんね」

「実際僕と学駆さんは止めましたよ。もちろん、野々香さんの意思なので尊重しますけど」


 野々香と学駆が若干モメ始めた空気を察し、二人の魔術師……シーナとアリサも口を挟む。

 実際、既に元の世界への帰還方法は確認済みだ。何なら今すぐにでも、魔術師シーナが魔法を唱えれば念願の現実世界へ帰還できる。

 しかし、なんだかんだこちらの世界にも、見捨てるのはしのびない絆がいくつかできてしまった。

 帰ってしまって国は滅びました。ギルドの受付嬢、宿の主人、魔法を教えてくれた貴族、いにしえの賢者、洞穴の竜、祠の精霊、その他の方々もみんな死にました。

 というのは、勇者として見過ごせなかったのだ。


「魔王様」

「なんだ、グーチク」


 互いに困惑の表情のまま妙な対峙となった二つの勢力に、ふと、魔王の横にいる魔族が口を挟む。

 二足歩行する豚、という印象の、ローブを着た小さな魔物は、妙に甲高い声を発した。


「進言します。人間と魔族、これは相容れぬものなのです。我々がこうして外れに城を構え、暮らしづらい環境にいるのも人間のせいなのです」

「それはそうだな、お前が以前から言っている」

「なれば、どのみち戦う運命。目の前に現れた者は倒さねばなりますまい」

「それはそうだな」


 魔王はそう言って立ち上がる。

 今のやり取りの中に魔王の意思らしきものが一つもなかった。

 戦う理由がない、と言っていたにも関わらず、部下の進言であっさりと戦意を見せる……それはまさしく。


「いっそ清々しいほどの傀儡政権(かいらいせいけん)!」


 学駆が叫ぶ。

 どういった事情かは知らないが、一つわかったことがある。

 ……この世界が脅かされていたのは、魔王の指揮によるものではない。


 威厳や力の象徴としては強大なものなのだろう。

 しかし、その本人には世界を滅ぼすための意思が感じられなかった。


「ドラゴンさんが言ってましたものね、王も魔王もアレだ。馬鹿と馬鹿が馬鹿をやっている、と」

「争いは同じレベルの者同士でしか発生しない、ってやつかぁ」


 魔術師二人、シーナとアリサも、不本意そうに納得する。


「待って、それじゃあ魔王。あなたが人間をやっつけたい、とか思ってるわけじゃないの?」

「人間、魔王様に余計な口を叩くな」

「あなたには聞いてないよ、豚さん」

「ぶひっ……!」


 しきりに口を挟もうとするグーチクを、野々香は一言で黙らせると、魔王の答えを待つ。

 学駆やシーナは、ここまでのやり取りで概ね察した。


「俺は魔族の長にして象徴。周りの者が人間を倒すべきというなら、俺も戦わねばなるまい」


 やはり、だ。

 この魔王には、自我がない。ただ長としての責任を果たすために人間と対立している。それだけなのだ。

 ……そして、その自我を誘導しているのは、間違いなく。


「……一回だけ、聞かせて。あなたからその周りの者に働きかけて、人間と共存を目指すことは出来ないの?」

「人間ン!何度言わせる、魔王様に……」


 再び慌てて言葉を遮ろうと数歩前へ出たグーチクの元へ、"風"が吹いた。


「今は勇者と魔王の会話中なんすよ。……少し黙ろうか、黒幕さん?」

「ぐっ……」


 後半は囁くように言って、学駆はグーチクに短剣を突きつけた。

 反撃はない。この魔物自体は、どうやら大した力もなさそうだ。


「あなたもあたしも、多分あんまり頭が良くないから、他の人の言葉を聞いて動いてる。でも、あたしに言葉をくれる学駆やアリサ、シーナも人間の王のことが嫌いだし、ここには他の大事な人が殺されないために来たんだ。あなたが動くのも、あなたの周りの魔族のためなんでしょ?なら、何とかするべきは魔族がとか人間がとかじゃない。お互いに悪い所を直せば、戦う必要はないんじゃないかな」


 もちろん、許せないことも多々あった。悲しい思いもしたし、魔族は倒してしまわねばと思ったこともあった。

 実際に倒してしまった魔族もいる。こちらが恨まれていることも、あるだろう。

 しかし、憎しみの連鎖はどこかで断ち切らないといけない。

 その、最後の可能性に、野々香は賭けてみた。


 しかし。


「ちょっと難しくてよくわからないな」

「……えぇ…………」


 その勇者の言葉は、むなしく響くのみだった。


「相容れぬ者は、戦い、排除する。それしかあるまい。それだけだろう」


 野々香は時に「難しいことはわからないけど」と言いながら本質を射抜き、問題を解決してきた。

 この魔王も、同じだ。同じであり、真逆なのだ。魔王にとっての本質は「排除」というだけなのだろう。


「ディベートしがいのねぇ魔王さんだこと」

「ブフフ、そうだろう。ワシが育てた」


 ため息をつく学駆に、何故か誇らしげなグーチク。

 瞬間、横薙ぎに斬りつけた短剣が……空を切る。

 学駆の攻撃はかわされた。グーチクは瞬時に後方の壁際に移動していた。移動魔法の類か。


「ブブブヒーッ!おま、お前っ!今の流れと間合いで即斬りかかってくるって、問答無用が過ぎるだろ!人の心とかないんか!?」

「だって決裂したじゃん、今」

「そうだけども!」

「野球の偉い人も言ってた、先に点を取った方が有利だって」

「点取りゲームなら当たり前だろ!知らねぇけど!」

「こっちもお前んとこも、リーダーさんはあんま頭が良くないみたいだしな。俺が情とか取っ払って、頭回してかなきゃなんないんだよ」


 とはいえ、奇襲は失敗。深追いは禁物。

 学駆もいったん下がり、仕切り直しの構えだ。


「なんか、調子狂うなぁ。ラスボスがアレって」

「乗せられやすいタイプの強者というのは厄介なものですよ、善にも悪にも転びますから」


 少し緊張感が抜けてしまったアリサとシーナ。

 実際、人間、オデ、ゴロジダ。とか言ってくれた方が気合も出るものだが、それはグーチクとかいう奴の方に向けた方が良さそうである。


「善にも悪にも……つまり魔王野々香の世界線もあった……ってコト!?」

「うおおい!アリサちゃん今凄い失礼な話してない!?」

「野々香さんは、乗せられても悪には転ばない方ですから、大丈夫です」

「シーナちゃんも乗せられやすいとこは否定してくれない!」

「でも、どんなことがあっても僕は野々香さんを信じてますから」

「正義とはジャスティス!田中とはジャスティス!あたしはシーナの信頼のため悪を討つ!」

「めちゃくちゃ乗せられてる!」


 野々香の宣言に、魔王も立ち上がり、構えを取った。

 果たしてこれがラスボス戦でいいのか疑問の余地しかないが、互いに譲れぬぶつかり合いなのは間違いない。

 向こうの目的がこちらの排除であれば、譲れぬ一線はある。


「絶対、倒すよ」


 勇者、姫宮野々香は剣を突きつけ、魔王の名を呼ぶ。


「魔王"アーラ"。勝負っ!今日があんたの命日だ!」

「野々香、もうさっき聞いたぞそれ」

「うっさいなぁ!微妙な空気になっちゃったんだから、盛り上げる努力をしろよ学駆!」



 これは、冒険を終えて帰還した異世界勇者たちの、新たな人生のお話。


というわけで、第二部開始です。

開始を随分巻いてしまいましたが、次回は少しだけお休みをいただき、2月11日から第二部本編を開始します。その後の更新ペースは変わらず、2日に1話の予定です。よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
 日曜の例の人さん、こんにちは。 「異世界帰りの野球おねえちゃん 第二部・プロローグ」拝読致しました。  第二部開始。第一部同様、異世界からのスタートです。  前回は彼らを召喚した王様に、魔王討伐…
某監督が今期のクローザーはサプライズとか言っちゃってるんですよね。ここ数年固定できた試しがありません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ