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異世界帰りの野球おねえちゃん  作者: 日曜の例の人
4.後半戦

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第100話 「異世界帰りのプロ野球おねえちゃん」

 閑静な住宅街の、爽やかな朝。


「野々香ぁ、朝よー。早くしないと、へし切長谷部様が呼んで」

「だからその起こし方やめてって言ってるでしょ!」


 バン!と威勢のいい音がして、ドアが開く。


 母の古傷を抉る呼びかけに抗議しながら、既に起きていた野々香は二階の部屋を出て階段を下りる。


「あんまりハデにドア開けたら、壊れちゃうわよぉ?あんたどんだけ力あると思ってるの」

「それはごめんだけど、だったら普通に呼んで下さいよ」

「大包平様のが良かった?」

「そうじゃなくてぇ……普通とは一体……うごごご」


 姫宮野々香、24歳。

 異世界帰り、職業、元勇者。

 現、プロ野球選手。


「よ、おはよう野々香」

「あ、おはよう学……駆……ぎゃー!なんでいるの!帰れ!」

「いや帰らんけども」


 父が既に出社していて、母と妹しかいないのをいいことに、完全に油断していた野々香。

 着古したヨレヨレのパジャマ姿の体を慌ててストールで隠しながら、学駆に気付いて悲鳴をあげる。

 そんな野々香をまるで気にも留めない顔で、テーブルでコーヒーを飲んでいるのは、大泉学駆。

 職業、元盗賊。現、教師。


「なに言ってんだ、大事な初顔合わせ、初めて球場に行く日だろ?見送りくらいしに来てもいいじゃんか」

「そうだけど先に言えよ、女子に恥をかかすんじゃないよ」

「えっ、今さら?」

「むきー!」


 憤慨しながら野々香はいちど二階に戻ると、着替えとメイクを済ませてから再び降りて来た。


「もう、お姉ちゃん。そんなだらしなくてほんとに男の人ばっかの中でやってけるの?」

「それはさすがに一年やってきたんだから、じょぶじょぶ大丈夫ですよ」

「……学駆さんをあんまり不安にさせたらだめだよ?」


 学駆の対面に座り、パンをかじりながら釘を刺すのは、妹の法奈。野々香は苦笑いだ。

 確かに大きな問題は起きなかったが、一人の男性からしっかり告白されてしまった事実は、さすがの学駆も渋い顔をしていた。


 もちろん、そこに関してはしっかりと話し合い、きちんと断ったことを伝えてある。それに、学駆の方からも謝られた。気付いていながら見過ごしたので同罪だ、と。

 「多分気付かなかったのお前だけだし、だからこそ言いたくなくて」と言いながらむくれる学駆が、珍しく可愛く見えたので、「謝る暇があったら愛を語れ、愛を語るより口づけをかわせ」と話した上で、メジャー流デコピン返しで手打ちにした。でも愛は語られなかった。


「けど正直、樹くんとどんな顔して会えばいいのかあたしにもわからん……どう思いますか学駆さんや」

「知らん。仕事は仕事だ。頑張れ、悪女さん」

「冷たい!この冷血漢!氷の男!氷川!限界突破!」

「俺もこんな展開はオッタマゲだわ」


 ぴんぽーん。

 見慣れたやり取りをしていると、玄関のチャイムが鳴った。

 瞬間、どひゅん、と派手な擬音を残して野々香が玄関へ向かう。


「おはようございます」

「おはよう、椎菜ちゃん!相変わらず可愛い!」

「おはよ、ののちゃん」

「おはよう、アリ……南くん、相変わらず可愛い!」


 野々香が扉を開けると、黒髪黒ローブ……風のロングスカート、涼城椎菜がちょこん、と佇んでいた。

 その横には、簡素なシャツにパーカーを羽織った浅利南。少し不満気な表情は、可愛いの一声に対してか。


 涼城椎菜。職業、元魔術師。現、プロ野球選手。

 浅利南。職業、元魔術師。現、プロ野球選手。


「準備が出来ているなら、そろそろ行きませんか?」

「椎菜ちゃんが言うなら行くぅ!行く行くベルサイユ!」

「ののちゃん、ちゃんと横浜行くんだよ……?」


 三人揃って、今日は球団の初顔合わせの日。

 行き先は違うが、一緒の方が心強いということで、駅まで三人揃って向かうことになっていた。


 南はこちらの地理が不安ということで、名古屋から早めに来て椎菜の住むアパートに泊まらせてもらったらしい。

 男女の間柄で泊まりというのは抵抗がありそうに思うが、異世界では宿の同室で寝泊まりもしたし、野営で並んで雑魚寝などもしていたので今更だ、と椎菜は言っていた。


「じゃあ、いってくるね!」


 荷物をまとめて部屋を出る。

 挨拶をすると、陽代も法奈も学駆も、玄関に出てきた。


「野々香、椎菜、南」


 挨拶をする三人に、学駆が一人ずつ、名前を呼びかける。


「俺はこの日が来てめちゃめちゃ嬉しい」


 珍しく素直に言って笑みを浮かべる学駆に、三人も微笑みを返す。


「いってらっしゃい」


『いってきます!』


 それぞれにハイタッチを交わし、出発。

 姿が見えなくなるまで、学駆は満足そうに、野々香たちを見送っていた。




 楽しそうに語らいながら、三人は駅への道を歩く。

 わずかな時間だけど、それでも野々香は、この道を椎菜、南と一緒に歩きたいと、強く希望していた。

 道は分かれても、同じ道を歩いている。

 そんな気持ちになりたかったからだ。


「試合で会うのは、交流戦かぁ。ライバルなのは楽しみだけど、随分先だね」

「けど、その方が盛り上がるじゃん?」

「交流戦もですけど……やっぱり、やりたいですよね。日本シリーズで」


 椎菜が微笑みながら、未来の展望を語る。

 ……命を投げ出そうとすらしていた彼女が、未来を語ってくれることが、野々香は何より嬉しい。

 可愛らしいのに凛々しさも感じるこの微笑みが、野々香は大好きだ。


「やりたい、やろう。日本シリーズで!」


 駅に着くと、三人もそれぞれハイタッチを交わし、惜しみながらもしばしの別れを告げる。

 椎菜と南は千葉方面、野々香は横浜方面の電車へと乗り込んでいった。




「遅ぇ」


 駅の改札口にて、黒髪短髪でガタイのいい、ぶっきらぼうな男が一人。名前は、大諭樹。プロ野球選手。


「ごめん、樹くん。電車がモロ混みで」

「電車が混んでも遅れねぇよ」


 うっかりかしましい三人トークに夢中になって、電車を乗り逃した。

 待ち合わせに遅れた野々香は、以前のように気安い空気で片手を顔の前に出し、軽い謝罪のポーズ。

 樹は元々こんななので、切り替えられているのかは、わかりにくい。


 軽い会話をかわした後、一緒に球場へ向かう。

 同行を申し出てきたのは、意外にも樹の方だった。

 一人で向かうのは、ミスや事故も起こり得るし、心配だからと言っていたが、それがどちらの話なのかは……まぁ、言うまでもない。


「それにしても、まさかこうなるとはねぇ。クジはいじるなよって念話で伝えたはずなのに」

「誰にだよ。まぁ、有り得ない話じゃあないだろ」


 ネイチャーズは新しいことを積極的にやる球団でもあるが、親会社が変わる以前からずっと、大砲候補の獲得・育成にも強みがある。

 野々香と始球式をした本瀬狩路(もとせ しゅうじ)もそうだ。

 常に本塁打王争いができる生え抜き選手にこだわるこのチームが、大諭樹に目を付けていてもおかしくはない。


 ドラフトの結果。なんと野々香と仲間の三人は全員、ドラフト入りを果たした。

 日暮有人は関西のトライアルズに6位入団。助守白世は椎菜、南と同じ、イラブションズの4位だった。

 また、母校、藍安大名電校からは、椎菜以外では三瀬龍二が5位でトリトンズ、布施猿彦が6位でネイチャーズ入り。こちらは逆に、椎菜のチームメイトが野々香と同じチームに入団する形になった。

 ニャンキースからのドラフト入団、合計四人。数字だけ見れば、悪くない。


「姉さんは性別関係なく、尊敬できる人だ。あんたがいなきゃ、俺はもっと腐ってたよ。対戦相手になっても、尊敬は何も変わらねェ、これからもよろしくな!」

「僕が指名にかかったのは、きっと最後に印象に残るホームランが出たからだ。姫宮さんがあの時、見てみたいと言ってくれて、前向きに戦う気持ちが生まれたおかげだよ。このチャンス絶対に生かすから、良い対戦をしよう」


 有人と助守は、そう言って感謝を伝え合って、別れた。

 これからは仲間であり、ライバルだ。


 ……ただ、楠見玲児やその他の選手は、拾われなかった。

 一年目で足切りを食らった時点で、見込みがないと思われてしまっていたようだ。

 野々香以外に対しては、新規参入のニャンキース・コシタンズからの獲得は、消極的な面が目立った。保守的な12球団の指名を受けるには、ニャンキースの選手はまだまだ苦労しそうである。


 プロとは残酷だ。わざわざ二軍専属球団を迎えておきながら、そのほとんどの選手に一軍は興味がない。

 しかし、楠見は納得した表情でそれを受け入れていた。


 選ばれた者と選ばれなかった者。

 それがあるからこそ、選ばれた者には責任も生まれる。


「ニャンキースのためにも、しっかり、やらねぇとな」

「うん。……ところで、樹くん」

「なんだよ」

「あたしから聞くのもあれなんだが、その、気まずくないのかね」


 そう、責任を持ってこれからやっていかねばならない以上、野々香は一つ確認したいことがあった。

 わざわざ樹の方から同行を誘われ、今、野々香の方が実は戸惑っていた。


 振ったのは野々香の方だ。

 振られた樹の方が割り切りやすいというのはあるかもしれないが、妙な気遣いやぎこちなさが残っては、いきなり選手として悪影響になりかねない。


「……なんでお前のほうが照れてんだよ」

「う、うっさい」

「お可愛いことで」


 だから、思ったより平然としている樹に、野々香の方が気まずさを覚えている。

 あれだけ日和っていたくせに、振られた途端可愛い可愛いと。何故さらっと言えるのだ。


 逆に普段通りの態度でニヤニヤと笑う樹に対し、野々香の表情は困惑し、頬は赤く染まっていた。

 一方の樹は、褒め殺しに弱いと知った途端、すっかりそれを楽しんでいる。


「だってよ」


 樹はやはり平気な顔をして、答え始める。


「野球の世界で一番支えてたのは俺なんだろ?」

「う、うん」

「じゃあ、そのままだろ」


 そのままとは、どのままか。

 野々香は珍しく、きょとんとした顔をしていた。


「別にお前じゃない、他の誰かとどうにかなるとしても。俺はまずはプロとして、結果出さなきゃならねぇ。そうだろ?」

「そうだね」

「じゃあ、俺とお前は肩並べて戦う仲間だ。俺は変わらず、お前に付いてくる妙な邪魔は除けてやる。俺たちでチームを強くして、成績出して、ちゃんと稼いで。その先に俺の幸せもあるだろうが。順番通り、だから何も変わらねぇ。そのままだよ」


 そこまで言って、樹はしっかりと、野々香の目を見て、言い切る。


「学駆とかいう奴は球場に(はい)れねぇ。俺が、ここではお前の一番のパートナーだ」


 ……強い。

 野々香は、ただ素直にそう思った。

 樹は、野々香とのことを糧に、より強く立ち上がった。そして、野々香をより強くしてくれているのは、樹だ。


「あはははっ」


 思わず野々香は笑った。

 正直、気まずい思いをする覚悟でいた。会えば嫌な顔のひとつもされると、そう思っていた。

 これほど痛快に「一番のパートナー」を宣言されるとは。なんといい気持ちだろう。


 ……勇者として、最初の街でいきなり最強の仲間を得た気分だ。


「異論は」

「ありません、樹どの!ありがとうございます!」

「んじゃ、行くぞ。やらかすなよ」

「おう!それは自信ない!」


 そうして誰よりも楽しそうに、それでいて、しっかりと歩みを進める二人。

 姫宮野々香と、大諭樹。


 二人のプロ野球選手の、旅立ちの瞬間だった。





 これは、異世界帰りのおねえちゃんの新たな夢、野球選手への道を描いた物語。


 そして、野球選手の道を描く、物語。





 異世界帰りの野球おねえちゃん


 第一部・完



お読みいただきありがとうございます。これにて、第一部完結でございます。

まずは、読者の皆様、ここまでお付き合いいただき本当にありがたいです。

自分も、初の執筆・投稿でここまで良く書ききれたと思います。


これにて、まず姫宮野々香の第一の目標は達成され、おねえちゃんのお話としては一つの完結ですので、第一部・完とします。

ここからは、異世界での冒険と、仲間たちを踏まえた上での、野々香の一軍でのプロ野球生活が始まります。


このあとの予定ですが、一時的に変則になります。

2/4に「あらすじ」2/5に「キャラおさらい」2/6に「第一部あとがき」と、幕間を挟みまして、2/7に第二部のプロローグを投稿したあとで、数日だけお休み。

第二部本格始動は2/11からの予定です。

少しだけ作者に充電期間をいただくと共に、新たにこの作品に出会った方、二部に向けて見直ししたい方は、この間に追いついてて下さい(笑)


そして、第二部もお付き合いいただける方は、是非ブックマークしてお待ちください。

これからもよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
 日曜の例の人さん、こんにちは。 「異世界帰りの野球おねえちゃん 第100話 「異世界帰りのプロ野球おねえちゃん」」拝読致しました。  記念すべき、本編100話。タイトルも、それっぽいです。  …
第一部完結、おめでとうございます! 第二部では樹と一緒にまた新たなメンズに囲まれることになるのて、学駆の不憫さがますます磨かれるのではないかと密かに期待してます!笑
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