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異世界帰りの野球おねえちゃん  作者: 日曜の例の人
4.後半戦

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第95話 「伝説の樹」

 歓喜の瞬間は、一軍のそれよりは人数も少なく静かなものになった。

 が、それでも絶望の淵から最高峰まで駆け上がった選手たちの喜びはおさまらない。

 全く準備もしていなかった小林監督を引きずり出すと、選手たち全員で囲って、胴上げをした。


 ……小林監督、ありがとう。

 野々香も、この人の思考力、人間性には学ぶべきことがたくさんあった。


 これまで歓喜の輪を作ったこともろくにない寄せ集めの選手たちは、初の出来事に飽きるほど騒いだ。


 まずはチームメイトたちと。

 そして、仲間や家族たちと。

 ……それと。


「よう、野々香。おめでとさん」

「へへー、学駆さんよ。どうだまいったか」


 試合終了後、色んな人達とめいっぱい喜びを分け合った後は、陽代、法奈、椎菜、南を連れて野々香のマンションへと帰還。

 部屋の中でささやかながら祝勝会という運びだ。


 選手たちとの祝勝会は簡易的に行われはしたが、本格的なものはまた後日。

 さすがに二軍では、一軍のように即日ビールかけなどはしない。

 二軍にも日本シリーズ「日本選手権」があるのだが、シーズン終了からそれまでに1週間ほど時間がある。


 それに、今やると負傷退場の三古が不参加となってしまう。……幸い怪我は長引くほどではなかったようで、ひと安心だが、強い打撲のためしばし痛むそうだ。

 なので最後のミラクルズ三連戦を終え、全日程を終えてからチーム全体で祝いの席を設けようということになった。


 そして、賑やかな空気に包まれる中、不意に野々香が学駆と通話を繋いでの一言が「まいったか」だ。


「まいりました、って、それ俺のセリフか?俺、何にまいらないといけないの?」

 苦笑まじりに尋ねる学駆に、野々香は胸を張りながら。


「初勝利の時、人のこと寂しい思いさせたじゃろ?」

「あー」

 学駆はニャンキース初勝利の日の夜、遠征で一人暮らしの野々香を差し置いて、家族で盛り上がったことを思い出した。


「あの時の悔しさをこうして晴らせて嬉しい」

「え、そこまで根に持ってたの?心狭くない?」

「だってめっちゃ寂しかったんだもん!今は仲間がいる、ひとりじゃない。ほらごらん、あたしの勇気の証を」

「勇気の証さんたちこっちに見向きもしないでトランプしてるように見えるんだけど」

「うっさい!今度はこっちで勝手に盛り上がってるから。学駆は寂しくひとりぼっちの歯ブラシでもしておきなよ」

「別に歯磨きにまで寂しさは感じねぇよ」


 いつも通りのしょうもないやり取り。

 学駆は教師としての仕事があるので、いつ決まるかわからない優勝決定戦の観戦に来ることは叶わなかった。

 今日は一人寂しく学校・自宅からの応援である。


「まぁ、チームの優勝はめでたいけども、それは通過点だからな」


 重要なのはこの後、本番はドラフト会議だ。

 本当の意味の「おめでとう」はまた、もう少し後の結果にかかっている。


「うん。……ねぇ学駆、あたし、指名されると思う?」


 不意に野々香は、珍しく弱気な質問を、弱気な表情で学駆に伝えた。


「随分、返事に困ることを聞きやがる」


 ……わかっている。この質問に意味などないことに。

 何せ歴史上初めてのことだ。たとえ理論派の学駆にいくつ理屈を並べさせても、確実なことなどない。


 それでも、誰かに聞いてみずにはいられなかったし、それは学駆にしか聞いてみたくない。

 そんな小さな不安が、口を突いてしまったのだ。


「そうだなぁ、じゃあ……」


 案の定、学駆はため息をつき、少しばかり思案していた。

 根拠のないイエスなど、この男は言えない。だから。


「信じてる」


 実直に、何の気休めにもならない、ただし根拠だけは確実にある。そんな回答をして、イタズラっぽく笑った。


「随分、返事に困るご回答ですこと」


 そう言って、野々香も笑う。


 あとは、ただ待つだけ。

 そんな期待と不安の入り交じる時期を過ごす勇気を、この男にもらえた気がした。

 そうして、大事な仲間たちに囲まれながら、優勝の余韻は楽しく過ぎていった。



 ニャンキースの初優勝。

 そして、その立役者姫宮野々香の存在は、いよいよ本格的に日本中に知れ渡ることとなった。

 最後の1セーブ……もちろん女性選手初のセーブ、という記録と共に、胴上げ投手となった野々香の注目度はすさまじい。


 野々香だけではない。野球はやはり一人ではできない。

 レギュラーで出場していた選手たちも、樹の二軍本塁打記録をはじめ、大きく見出し記事を作られて、テレビや新聞、ネットニュースでも大々的に取り上げられた。


 ……そして、残ったミラクルズとの消化試合三連戦。


 騒ぎに騒いで疲れた体のまま静岡の本拠地に帰ることとなったニャンキースは、タッツ戦で予定外の登板となった姫宮野々香の欠場を宣言。また、有人や樹らレギュラーにも休養を与えるとし、ベンチ入りすらさせずに自宅休養を命じた。


 結果、集まっていたメディアとファンはこの試合に唐突に興味をなくし、ミラクルズ戦の初戦・二戦目の観客は久々に3桁となった。試合結果も、見事に連敗。


「ところがどっこい、現実です。これが現実……」

「予想はしていたけども、しんどいねぇ」


 優勝の余韻のみを糧に、スター不在のニャンキース球団の集客力はいかほどか。

 来期に向けて、残る課題に尾間コーチと小林監督がため息をつくのだった。


 三戦目。この日は、ニャンキースの本年度最終試合。

 ここはさすがにレギュラーメンバーを出場させた。


 野々香は5番・ライトとして登場。最終戦というのも理由の一つだろうが、案の定再び観客は4桁を超え、最後には優勝おめでとう、の大合唱と共に惜しみない拍手が送られた。

 野々香はさすがの役者ぶり、この日27号となる満塁ホームランを放ち、5-2で逆転勝利を飾った。


 これにて、69勝50敗8分け。貯金19にて、西部リーグはニャンキースの優勝で、幕を閉じた。


 二軍は中止再試合がないため、全試合が9月中で消化しきれてしまう。

 残るは、10月5日に開催される日本選手権。


 これはいわば二軍の日本シリーズのようなもので、東部と西部の優勝チーム同士が戦い、ファーム日本一を決定する。

 とはいえ、所詮は二軍だ。試合は盛り上がるが、何せ一試合のみで決まってしまうのでイベントとしてのバランスは悪い。


 日本選手権以降は「フェニックスリーグ」というリーグ戦を10月中、戦うことになる。

 主に二軍選手や若手、育成選手らを集めてリーグ戦形式で育成、試合経験を積ませるのだ。


 そして、それらの試合が終わる頃。

 いよいよ、プロ野球ドラフト会議の開催である。


 ……と、いうところまでワクワクドキドキしながら待つのが、10月の主な日程だ。


 二軍専属チームで地味に厳しいのが、このフェニックスリーグの開催とドラフト会議の日程が、一部被っていること。

 ドラフト指名された選手は即インタビュー等もあるため、試合に出ている場合ではない。

 可能性がある選手は早めに切り上げて指名待機となるのだ。


 特に人数ギリギリでチームを編成しているニャンキースは、試合出来る人数が残るかどうか。

 つまり、10月も日本選手権の後は用事と試合づくしで忙しくなる、ということだ。


 だから。


「姫宮」


「どしたの、(いつき)くん。伝説の()の下から出てきたような顔して」

「誰がうまいこと言えと」


 最終戦終了後、樹は、野々香に声をかける。


「祝勝会の日、二人で話す時間が欲しい」


 30本塁打。プロとして、出来ることはやった。

 一軍への指名を得られる……新たな道が生まれる可能性は、作れたはずだ。


 だから、砕け散って終わるための。終わらせて新たな道を進むための。

 樹にとっての、最後の勝負が始まる。


「ウ……」


 チャカポコチャカポコ。ドン、ドン、ドンドンドン。


「ウヒョー!!ウッヒョー!!」


 首を傾げる野々香の横で、須手場雀さんが、またよそのチームのメガホンを鳴らしながら、一人で盛り上がっていた。

 うるさい。



 ~成績確定~


姫宮野々香

 投球成績 24登板 163回 36自責点 163奪三振 防御率1.99 12勝4敗1セーブ

 打撃成績 打率.300 27本塁打 95打点 出塁率.359 OPS.942


ニャンキース

 69勝50敗8分 優勝!

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 日曜の例の人さん、こんにちは。 「異世界帰りの野球おねえちゃん 第95話 「伝説の樹」」拝読致しました。  監督の胴上げ。  飽きるほど、騒いで。  家族の元へ。  チームの祝勝会は、シーズン終…
来た……!! 不憫王・樹の未来は……ま、まあ何となくわかっているような気もしますが、彼の未来はどっちに転ぶ!?
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