プロローグ
初投稿になります、よろしくお願いします。
不慣れな所もありますので、現在は仮開始期間として、9月1日より本格スタートを予定しております。
ルビや誤字などの不備、わかりにくい部分などありましたら教えて頂けたら幸いです。
「勇者よ、そしてその仲間たちよ。よくぞ、魔王を討伐して参った」
荘厳な王宮の中、赤い絨毯が敷かれ、石柱が立ち並ぶ王の間にて、豪奢な白いローブ、金を纏った赤いマント、頭には冠を付けた白髪の老人……すなわち王様が口を開いた。
「はぁ、どうも……」
勇者と呼ばれた女性が王の労いの言葉に応じる。しかし何故か、歯切れが悪い。
仲間たち……勇者と同い年くらいの盗賊風の服装の青年に、魔術師風の黒ローブを着た少女と、一見は弓兵のような姿の軽装の少女。
合計4人が膝をつき、佇んでいる。
「お主らの働きのおかげで、この世界には平和が訪れた。その栄光を持って、今後もこの世界を支え、生きて行って欲しい」
王はそう言うと、お付きの者に合図を送り、宝箱を運んで来させた。
中にはまさしく金銀財宝、と呼ぶのが適切な、貴金属類や宝石類が入っているのが見える。
「この通り、これは受け取って頂こう。そしてこの世界の象徴として、わが国に永住の契約を……交わしてくれるな?」
「お断りします」
その問いに、歯切れの悪かった勇者の女性は迷いなく、むしろ食い気味に拒否反応を示した。
「…………」
沈黙。
「すまん。良く聞こえなかった。もう一度言ってくれるか?」
「お断りしま」
「ガラガラピシャァーーーン!!」
食い気味に断る勇者に対して、王はさらに食い気味に稲妻の音、のつもりらしい叫びをあげる。
「すまん。良く聞こえなかった。もう一度……」
「無限選択肢やめて!断るって言ってるじゃん!」
ラチがあかない、と判断したか、弓兵風の少女も話に割って入る。
しかし王はそれらを相手にせず、首をぶんぶん振ると、
「ええぇー?ちょっと信じらんない。ふつーさ、こう言うのって勇者は国を救ってそのまま平和に暮らしました、ってなるもんじゃない?ちょっとお主らわけわかんないよ。愛国精神とか、国王と国民に対する博愛の心とかさぁ、そういうのってないわけ?なんで?」
あっさり本性を現し、本音をぶちまけ始めた。
右足で小刻みにトントンと地面を叩きながら、イライラした素振りを隠さずに開き直る。
それを見て、弓兵風の少女も態度に苛立ちを見せながら、言い返す。
「さんざんうちらのこと雑に扱っといて今更何言ってんの?あんたの適当な仕事のせいで最初の依頼でいきなり死にかけたの、忘れてないかんな!」
「ま、まぁほら冒険ってそういうもんじゃし。常に死ぬ事は有り得るし。最初に最悪を想定出来たなら逆に良い研修だったと言うこと」
「うるせー!」
ただの詭弁でしかない王の言い訳に、少女は取り付く島もない。
こうなると、他の仲間たちも即座に加勢に入った。
「王様ー、こっちはあんたの都合で邪魔ばっかりされる冒険をようやく終えて、その間にも国中からあんたとあんたの悪政の事をさんざん聞いてるんですよ。それでも魔王だけは倒してやったってのにまだ使い倒す気ですかー?何でしたっけ、文句があるならまずやってからでしたよね。やりましたけど?」
盗賊風の、4人の中で唯一の男性とおぼしき青年が続いて声を上げた。理屈を回すのが得意そうな男だ。
「けどぉほらぁ、勿体ないじゃろ?せっかく英雄扱いもされるし、こうして報酬の財宝も……」
「まぁ、これは有難く貰っときますけど。でも言ったでしょ、さんざん悪政の話を聞いたって。あなたが自分の事だけ考えて武器や鎧、防壁なんかの材料をここにかき集めるから、鉄だけが異常に値上がりして、金や宝石の価値が下がってるんですってねぇ?」
「うっ」
「このお宝も、良く見ると銀だけやたら少ない……銀はまぁ、使えますもんねぇ。装備に」
王と会話している間に、青年はいつの間にか宝箱の所まで移動して、さらっとそれを開けて中身を検めている。王も、宝箱を運んでいた兵士も、彼が近づいた事にすら気付けていなかった。まさしく目にも止まらぬ速さだ。
「あっ。しかも二重底じゃないですかこの宝箱。いやぁ、こんなどっかの弁当みたいなこと王様がお宝でやっちゃうんだー」
「な、何をそんな、安心せいただ仕切りがあるだけでその下にはちゃんと」
「入ってねぇんだよこの野郎!」
叫んだ青年の手によって、当然、二重底の中身は即座に開けて確認された。
からっぽだった。
「それと、逐一謎の監視者がいたことについても伺っておきたいのですが」
続いて、黒ローブの少女が一歩前に出る。見た目は優しい雰囲気の少女だが、王へ目を向けている視線は凛として鋭い。
「日々の進捗報告は行き先次第では事実上不可能です、とお話した後、冒険中の背後や日常の影から、見張るような視線を感じる様になりました。プライベートまで覗かれていたことも。あれも、王様の手の者ですよね」
「し、知らんなぁ」
「ちゃんとご本人に白状させたので、とぼけても無駄ですよ。おかげで、ただ追っ手を撒くためだけに余計な手間をかけさせられました」
黒ローブの少女は言ってふぅ、とため息をつく。
その纏った空気感は落ち着いているが、不思議と小さい体からは威圧感の様なものが発せられている。
特に罵倒されたり怒声を浴びせられたわけでもないのに、王は言い訳の言葉も出せなくなっていた。
そうして三者三葉に王の悪行を暴き終えると、再び勇者の女性が先頭に立つ。
「王様、こっちへ召喚されて1年。正直ね、楽しかったです。命がけのピンチとかもあったけど、そういうヒリヒリした戦いとか、あたしたちの世界じゃ経験出来ない事もたくさんあって、そこは感謝してます」
女性は笑顔で語る。その笑顔に嘘はなく、感謝も間違いなく本音だ。
「こっちにも優しい人はいたし、会えなくなると寂しい人もいます」
そうして女性は王の間の全体を見渡し、幾人かと視線を合わせ、微笑む。
そののち、「けど」と続けて、王の方に向き直った。
「あたし達は元の世界に大事な人がたくさんいる。それを捨てて、いつまでもここにいるって選択肢は……ごめんなさい、選べません。余裕がある時はまた顔を出します。その時何かあればお手伝いもします。でも今は、大事な人達に会うために、帰る事を許してください」
真摯な目だ。
勇者、と呼ばれるだけはあって、その眼差しは正義に満ちていて、愛に溢れている。
その真っすぐな目を見て、王は少し言葉に詰まる。
しかし、それでも王は自分の意見を曲げようとはしない。
「ならん。そもそも帰れんと、教えたじゃろ。元の世界に帰る手段などないんじゃぞ」
王は、召喚した際に説明したことをそのまま繰り返した。
そう、当初王も召喚師もはっきり言っていた。お前たちは元の世界へ帰れない、と。
「嘘、ですね。ありましたよ。帰る方法」
「は!?」
そこへ黒ローブの少女がさらっと言い放つ。王は、本気で知らない、と言う顔で驚きを露にした。
「正確には、嘘をついてたと言うより、どの道帰す必要もメリットもないから、まともに調べた事がないと言うのが実情なんでしょうけど」
少女の指摘に王は図星、と言う表情だ。
そうして逆に少女の発言が嘘ではないのだと確信すると、王はさらに顔色を変えて、腕を振り上げ、叫んだ。
「ぬぬぬ、お前たち!」
王の間にいる兵たちを一瞥すると、号令をかける。
「勇者たちをひっ捕らえろ!絶対に、元の世界へ帰すな!」
『はっ!』
兵たちはすっかり傀儡として育てられてしまっているため、号令には逆らえない。
たとえそれが、世界を救った勇者を捕らえる、そんな非道であってもだ。
王の周り、出入り口、階段、あらゆる場所から兵士たちが詰めかけて来る。
「あーあー、せめて挨拶だけでもと思ったのに、こりゃそんな余裕もねぇな」
盗賊風の男が肩をすくめる。いつの間にか宝を抱え込んで元の位置に戻っていた。
勇者一行は大勢の兵士たちに取り囲まれる格好となったが、それを意にも介さず、4人で同じ場所に固まったまま。
「さぁ、もう逃げられんぞ。お主たちには絶対に、我が国の象徴として、我が国と、ワシの繁栄のためにまだまだ働いてもらう」
いよいよもって本音を隠し切れなくなっている王の声と共に、兵士たちがジリジリと、4人を囲う陣形を狭めて行く。
「こうなっちゃ、仕方ないか」
「そうだね、最後に平和な街を回って歩くやつ、やりたかったんだけどなぁ」
勇者たちは、それでもまだ余裕の表情で苦笑い。
それを挑発と受け取ったか、いよいよ王が最後の号令をかける。
「ワシの言う事に従わぬ、制裁じゃあああ!」
兵たちが一気に距離を詰めて、飛びかかって来る。逃げ道は……ない。
「しゃーない、帰ろう。シーナちゃん!」
黒ローブの少女が「はい」と頷くと、静かに杖を振り上げ、叫んだ。
「転移魔法っ!!」
杖からまるで竜の翼のような光が生まれ、広がる。
広がった光は勇者たち4人を包み込むと、詰めて来た兵士たちをするりと躱し、上へ浮き上がった。
やがてそれは弾け、目が眩むほどの強い発光が王の間を包む。
そこにいた全員が目をつぶった。
「おのれ勇者め、恩を仇で返しよってぇ」
王がなおもしつこく罵詈雑言を放つ。
「わ、ワシの、この世界の、何が不満だと言うんじゃあ!色々良くしてやったと言うのにぃ」
「うーん、色々あるけど、時間ないから一言でまとめるとー」
目をつぶっている一同に、勇者の声が聴こえる。
それが、異世界召喚をした王へかけられた、勇者の最後の言葉となった。
「絶対に許さない、顔も見たくない。かな?」
王たちが目を開くと、そこに勇者たちの姿は、もうなかった。
これは、冒険を終えて帰還した異世界勇者の、新たな人生のお話。