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第八十四話 宮崎城攻防(後編)

夜が明けた。


燃え尽きた(やぐら)の跡から黒煙が立ちのぼる中


伊東の陣には沈痛な空気が漂っていた。


稲津重政いなつ しげまさは軍図を前にして言う。


「これより五手に分かれ、城を包む。敵は七百、我ら三千。だが油断はならぬ」


山田宗昌やまだ むねまさが頷く。


「夜襲の勢いを絶やさず、今こそ勝負の刻」


松浦久兵衛まつうら きゅうべえが進み出て


「若殿、先陣を拝命いたしたい」と頭を垂れた。


長倉戎祐ながくら えびすけも笑みを浮かべる。


「ならば俺が搦手を受け持とう。敵の背を裂いてみせる」


祐慶すけのりは二人を見渡し、静かに頷く。


「この戦、父の義を継ぐ証。飫肥の未来を賭ける。――行け、我らの旗のもとに!」


太鼓が鳴り、宮崎平野に再びときの声が響いた。




重政は兵を三千、五手に分けた。


正面の一番隊を松浦久兵衛が率い、東門を攻める。


南の田野方面には五百を置き、援軍の備えとした。


「油断するな、奴らは籠城に長けておる!」


宗昌の声が響く。


久兵衛の隊が突撃し、火矢が再び城を焦がした。


「押せぇっ!」


――怒号が響き、矢が雨のように降る。


宮崎城からは権藤種盛ごんどう たねもりの檄が飛び、矢玉が唸った。


しかし、伊東勢の勢いは止まらぬ。


戎祐の隊が北門を破り、宗昌の兵が城壁に梯子を掛けた。


「稲津殿、敵の守りが乱れております!」


「よし、全軍突撃! 一気に落とせ!」


その号令に応じ、飫肥の旗が炎の中を駆け抜けた。




午刻――城門が轟音を立てて崩れた。


久兵衛が槍を掲げ、「城内へ突入せよ!」と叫ぶ。


兵たちは鬨の声を上げ、城中へなだれ込む。


狭い通路での白兵戦、血と煙が入り乱れる。


長倉戎祐が敵将の槍を受け止め、薙ぎ払った。


「退くなら今のうちだ!」


しかし城兵は踏みとどまる。


「宮崎城を死守せよ!」


だがその叫びも虚しく、山田宗昌の隊が西側から突入。


挟撃された敵はついに崩れ、権藤種盛は矢弾尽きて討たれた。


日向の空に城門が落ちる音が響き渡る。


祐慶(すけのり)は遠くからその光景を見つめ、静かに呟いた。


「……父上、義の刃は、今こそ報われました。」




夕刻。戦いは終わり、宮崎城は一日で陥落した。


稲津重政は軍をまとめ、戦死者の名を記し、深々と頭を下げた。


「この勝利、飫肥の義を天下に示すものなり」


松浦久兵衛まつうら きゅうべえ長倉戎祐ながくら えびすけが並んで叫んだ。


「多兵衛殿と伊左衛門殿の仇、見事晴らしましたぞ!」


その背後で、黒田如水の使者・宮川(みやがわ)伴左衛門(ばんざえもん)が戦場を視察していた。


「稲津殿の軍略、見事なり。家中の勇気、筑紫の立花にも劣らぬ」


後日、黒田如水(くろだ じょすい)はこれを聞き、近習に命じた。


「伊東の戦ぶり、これぞ忠義の手本。よく学べ」


夜、祐慶(すけのり)は静かに戦場を歩いた。


篝火の向こうに燃え残る城の石垣を見上げながら、呟く。


「義を貫くとは、これほどまでに重いものか……」


炎が照らすその瞳には、父譲りの覚悟が宿っていた。

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