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外伝 黒田如水誕生

文禄元年


天下統一を果たした豊臣秀吉とよとみ ひでよしは、


その勢いをさらに大陸へと広げようとしていた。


朝鮮出兵――文禄の役の軍監として任じられたのは


智略の人として知られる黒田孝高くろだ よしたか官兵衛(かんべえ)である。


総大将・宇喜多秀家うきた ひでいえを補佐し


十万を超える大軍を統べる重責を担った。


しかし、いざ戦が始まると


加藤清正かとう きよまさ小西行長こにし ゆきながら諸将が


各々の思惑で勝手に軍を動かし、統制は乱れた。


「これでは天下の軍とて烏合の衆にすぎぬ……」


官兵衛は深く嘆息(たんそく)した。


彼の眼には、秀吉の野望が孕む綻びが


すでに見えていたのである。


病を理由に帰国を願い出た官兵衛は


一時戦線を離れることとなった。




文禄二年 三月十五日


官兵衛は再び朝鮮の地に渡った。


だが、そこで彼を待っていたのは


無謀としか言えぬ晋州城攻略計画であった。


「民を虐げる戦は、天下を誤る」


官兵衛は石田三成いしだ みつなり増田長盛ました ながもりら奉行衆と激しく対立し


ついには秀吉へ直訴すべく帰国を試みた。


五月二十一日、東莱城を発ち、名護屋城を目指したが


その行為は【軍令違反】とされ、秀吉は烈火のごとく怒った。


「黒田孝高官兵衛、勝手に戦を離れし罪、許すまじ!」


官兵衛は朝鮮へ追い返され


長政ながまさが守る機張城きちょうじょうに身を寄せる。


その胸には、主君・秀吉との断絶すら覚悟するほどの苦渋が渦巻いていた。




六月、第二次晋州城攻防戦


官兵衛は戦の表舞台から遠ざけられながらも


陰でその知恵を絞り続けた。


「亀甲車を用いれば、矢弾を防ぎ城を迫れる」


「和式の縄張りを取り入れれば、寄せ手の城も堅固となろう」


彼の策は後藤基次ごとう もとつぐら勇将に活かされ


戦局を支えていった。


だが、官兵衛の心には死の影が差していた。


「秀吉公は、我を許さぬであろう……」


八月、ついに彼は剃髪し


如水軒円清じょすいけん えんせいと号した。


長政に遺書を託し、死を覚悟したのである。


「我が身は滅びようとも、黒田の家は(ながら)えよ」


夜の陣営に、父の静かな声が響いた。




しかし――運命は思わぬ形で転じた。


秀吉の怒りは次第に収まり


やがて官兵衛を赦すとの沙汰が下ったのである。


黒田孝高(くろだ よしたか)官兵衛(かんべえ)、その才をなお必要とする」


死を覚悟した人間は、もはや恐れるものはない。


このとき以降の彼は『官兵衛(かんべえ)』ではなく


如水(じょすい)』として生きることを選んだ。


水のごとく柔らかく


また水のごとく鋼鉄をも穿つ存在として――


「乱世を泳ぎ切るは、水の道。

 我は如水として、この世を見届けよう」


月明かりの下、剃髪した頭を静かに撫でながら


如水は新たな決意を胸に秘めた。


それは、乱世を超えて生き抜くための第二の誕生であった。

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