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第七十四話 南原城の夜襲

慶長二年 七月二十八日


全羅道ぜんらどうの要衝、南原城なんばらじょうを囲む豊臣軍の陣に


各地の諸将が続々と集結していた。


伊東祐兵いとう すけたかもまた五百の手勢を率い


島津豊久しまづ とよひさと並んで軍列に加わる。


眼前にそびえる南原城は、石垣高く


山裾に広がる町並みをも防御に取り込む堅城であった。


「これほどの城を落とすには、ただの力攻めでは難しかろうな……」


祐兵(すけたか)が呟くと、隣の豊久が笑みを浮かべた。


「ならば、夜陰に紛れ、疾風のごとく討つのみよ」


八月十五日の夜襲を命じられたその瞬間


諸将の胸には武名を高める好機が訪れたとの熱が宿った。




月明かりを背に、闇の中を忍ぶ軍勢。


南原城の周囲には篝火が揺らめいていたが


守備兵の目は眠気に覆われていた。


祐兵(すけたか)は静かに手を上げ、家臣らに合図を送る。


「声を殺せ。時が来れば一気に打ち破るのだ」


その頃、先駆けを志願したのは島津豊久であった。


「伊東殿、拙者が先陣を承ろう」


「無理はするな。だが、豊久殿の勇を疑う者はおらぬ」


やがて合図の火矢が放たれると


夜空を裂くときの声が轟いた。


伊東勢と島津勢は矢継ぎ早に城門へ突撃し


梯子を掛けて一気に城内へなだれ込む。


暗闇に閃く刀光。


守備兵は虚を衝かれ、たちまち混乱に陥った。




「敵を斬れ! 一歩も退くな!」


豊久は真っ先に跳躍し


城壁をよじ登ると敵兵を次々に斬り伏せた。


その剛勇は「麻を刈るがごとし」と後世に伝えられるほどで


わずかの間に十三の首級を挙げた。


祐兵(すけたか)もまた配下を率いて突入し


混乱する守兵を押し流した。


「ここを制すれば全羅道は我らの手に落ちる! 続け!」


怒号と血煙に包まれた城内で


伊東勢の槍が突き進む。


やがて城郭の一角が制圧され、守備兵は次々と逃げ散った。


「勝ったぞ!」


家臣の叫びとともに、南原城の灯は落ちた。


祐兵(すけたか)の采配と豊久の先陣により


豊臣軍は決定的な戦果を得たのである。




翌日、南原城の前には夥しい首級が並べられた。


豊久が討ち取った十三の首もそこに加わり


使者とともに日本へ注進された。


祐兵(すけたか)は血に濡れた陣羽織を脱ぎながら、深く息を吐いた。


「夜襲は成功した。だが、この地の民はまた戦火に呑まれた……」


その言葉に、豊久は静かに応じる。


「我らが剣は主命のため。されどいつか、この地に安寧が訪れることを信じたい」


九月十三日、祐兵には感状が与えられた。


伊東家再興の証として


そして日向の名を戦場に刻む勲として。


だがその誉れの陰には


血に染まった現実が横たわっていた。


祐兵(すけたか)は空を見上げ、胸中で誓った。


「必ずや、この乱世を生き抜き、故郷に平穏を取り戻すのだ」


南原城の夜襲は


伊東祐兵と島津豊久の名を


再び天下に轟かせる戦いとなった。

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