表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/95

第六十八話 春川の奮戦

文禄元年十月。


江原道の山々は、秋の冷気をまといながら戦の影に覆われていた。


「江原道の助防将、元豪が兵を糾合したと!」


急報が祐兵すけたかの陣へ届いた。


数千の兵を集め、原州の朴渾と共に春川城を攻めているという。


春川には、島津豊久しまづ とよひさがわずか五百の兵で籠もっていた。


祐兵(すけたか)は険しい表情を浮かべ呟いた。


「若き豊久……試練は避けられぬか」


家臣の飯田祐安いいだ すけやすが口を開いた。


「殿、援軍を送りませぬか?」


河崎かわさき 祐長すけながの息子・権助と


祐兵(すけたか)の甥、伊東義賢いとう よしかたも同じ想いであった。


祐兵(すけたか)は首を振った。


「今は信じるほかあるまい。あの若武者は父・家久の志を継ぐ者。ここで踏ん張らねば、日向の名も泣こう」


秋風が吹き抜ける。


遠く春川の城には、決戦の太鼓が鳴り響いていた。




春川城。


敵の鬨の声が轟くなか、豊久は静かに兜を締め直した。


「兵は五百にすぎぬ。だが恐れるな。敵は数に頼り、心は脆い。ここで島津の胆力を示すのだ!」


兵たちの眼に火が灯る。


「おうっ!」


豊久は城門を指さし、声を張り上げた。


「開門せよ! 我らが先に打って出る!」


門が開かれ、島津勢が一斉に飛び出した。


予想外の攻勢に、数千の朝鮮軍は一瞬ひるんだ。


「押せ! 一気に乱せ!」


槍の穂先が閃き、刀が火花を散らす。


混乱に乗じて豊久は敵陣深く突き入り、敵将・朴渾を目にとらえた。


「名乗れ! 島津豊久、ここにあり!」


刹那、両軍の刃がぶつかり合った。




激闘の末、豊久の刃は朴渾の胸を突き破った。


「朴渾、討ち取った!」


その声が戦場に響くと、敵軍の士気は一気に崩れた。


「退け、退けぇ!」


将を失った朝鮮軍は雪崩を打って逃げ出す。


元豪も混乱に巻かれ、戦場を離脱していった。


豊久は血煙の中で大声を上げた。


「怯むな! 追撃せよ! 島津の名を刻み込め!」


五百の兵は数千を追い立て


やがて春川の地から敵影を払った。


戦の後、甲冑に血を浴びた豊久は天を仰ぎ、呟いた。


「父上……今日もまた島津の旗を守り抜きましたぞ」


その報は間もなく祐兵(すけたか)の耳にも届いた。


「見事なり。やはりこの若武者、ただ者ではない」


祐兵(すけたか)の眼差しには、同郷の将を讃える誇りが宿っていた。




やがて冬が訪れた十二月。


再び元豪が現れたとの報が届く。


だが今度は数百に過ぎず、相手取ったのは島津義弘しまづ よしひろ


その子・島津久保しまづ ひさやすであった。


「父上、拙者が先に斬り込みます!」


久保は勇躍して敵陣に切り込み、瞬く間に元豪を討ち取った。


首は高々と掲げられ、戦の行方は決した。


江原道は平穏を取り戻し、豊臣軍の旗は確固として北方に広がった。


祐兵(すけたか)は冬空を仰ぎながら思う。


「春川の戦は、豊久の勇名を轟かせた。されど、この異国の地で積み重なる血……果たして何を残すのか」


戦場に吹き荒れる寒風は、勝利の歓声を冷たくかき消した。


だが祐兵(すけたか)の胸中には


豊久(とよひさ)と共に歩む未来への確かな火が燃えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ