第四十九話 出陣前夜
天正十四年
春の訪れを告げる風が吹きすさぶ大坂城に、諸将が続々と集った。
豊臣秀吉は玉座に座し
これから始まる九州出兵について軍議を開いた。
居並ぶは弟・秀長、甥・秀次
黒田官兵衛ら軍略の才に長けた者たち。
祐兵も末席に控え、緊張の面持ちで耳を傾けた。
地図の上には九州の山々と海
そして島津の勢力範囲が色濃く描かれている。
秀吉の声が響いた
「島津は強し。だが、ここで九州を制せねば天下の統一は覚束ぬ。皆、智と力を尽くせ」
官兵衛が立ち上がり、杖を地に突いて言葉を紡ぐ。
「まずは豊前・豊後に橋頭堡を築き、兵糧の道を確保することが肝要。次いで薩摩に至るまで段階を踏み、敵の勢いを削ぐべし」
その言葉に諸将は頷き、秀長は冷静に記録を取っていた。
祐兵は拳を膝に置き
胸の鼓動を感じながら官兵衛の言葉を噛みしめた。
彼の故郷、日向こそ島津の牙城。
官兵衛がふと祐兵に目をやり、低く告げた。
「祐兵殿、いずれ貴殿の地も戦場となろう。その時こそ真価を示すのだ」
祐兵は深く頷き、唇を固く結んだ。
軍議はさらに進み、秀吉は声を張った。
「毛利輝元、小早川隆景も出陣に加わる。十万の兵、これをもって九州を押さえるのだ」
諸将の間にどよめきが走る。
その数の大きさと、遠征の困難さを思えば当然であった。
仙石秀久や長宗我部元親の軍も
豊後に進む手筈となっている。
祐兵は地図の中で「日向」の二文字を見つめた。
父・義祐が涙と共に捨てた土地。
その土地は今なお、島津に蹂躙されている。
祐兵の心は燃え上がり、己が役目を悟った。
「必ずや伊東の名を取り戻す」




