第四十七話 新しき秩序
四国平定の報が都に広まったのは、真夏の盛りの頃であった。
長宗我部元親がついに降伏し
土佐一国の安堵を許されたという知らせは
人々に秀吉の寛容さと強大さを同時に印象づけた。
京の町はざわめき、堺の港もまた新しい世の到来を感じさせる熱気に包まれていた。
伊東祐兵は屋敷にあって報せを聞き
胸の奥に熱いものを覚えた。
かつて日向を逐われた自分にとって
四国の変転は人の世の儚さと同時に
新たな可能性を示しているかのようであった。
「元親公も、一国を守る道を選ばれたか……」
祐兵は呟き、傍らの阿虎の方は静かに頷いた。
「殿もまた、己が家を守り続けておられます」
その言葉に祐兵は微笑みを返す。
黒田官兵衛からは書状が届き
『戦は終わったが、次なる舞台はすでに京の御所に移った』と記されていた。
秀吉は関白として朝廷を掌握しつつあり
天下の秩序は武士と公家の双方を巻き込んで
新たに形づくられようとしていた。
祐兵は、時代の潮流が大きなうねりとなって
自分の足元にも迫りつつあることを
ひしひしと感じていた。
やがて秀吉は諸大名に命じて領地の再配置を行い
各地に新しい支配体制を整え始めた。
毛利、小早川といった西国の雄たちも従い
次に狙うは紀伊、九州、そして奥州と噂される。
堺の港に立つ祐兵は、行き交う商人たちが
『天下人の世は安泰になるか』『いや、まだ北陸や関東に火種が残る』
と語り合うのを耳にした。
彼の胸には焦燥と希望が交錯する。
「日向再興の道……いずれ殿が九州に目を向けられた時、我らがその先駆けとなるべきだ」
祐兵の瞳は、波間のかなた
まだ見ぬ故郷を捉えて離さなかった。
秋風が吹く頃、祐兵は庭に立ち
落葉を踏みしめながら深く息を吐いた。
四国の戦いが一段落し、天下は新たな秩序に組み込まれつつある。
だが祐兵にとって、それは終わりではなく始まりであった。
「父上……我ら伊東の名は必ず蘇らせます」
亡き父への誓いは、胸の奥で燃え続ける灯火のように揺らめいた。
遠い日向の山々を想い、幼き日の記憶が脳裏に蘇る。
砂浜を駆けたあの日の笑顔。取り戻すべき故郷。
祐兵は刀の柄に手を添えた。時は近づいている。
四国に続き、次なる戦の舞台が必ずや九州に訪れると信じて——




