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第四十六話 四国の風雲

天正十三年、夏。


羽柴秀吉はしば ひでよしは弟の秀長ひでながを総大将に任じ


黒田勘兵衛くろだ かんべえを軍監として、十万の大軍を四国へと送り込んだ。


毛利輝元もうり てるもと小早川隆景こばやかわ たかかげら西国の大名も呼応し


海を越えて進軍するその様は、天下を動かす奔流そのものだった。


対する長宗我部元親ちょうそかべ もとちかは四国を統一した猛将であったが


寄せ来る大軍の前にはさすがに抗し難く


四国全土は戦火に包まれていった。


堺に留まる伊東祐兵いとう すけたかのもとにも


日々伝令が港に到着し、その報せに胸を熱くしていた。




「十万の大軍……これはもはや天下を覆す戦よな」


祐兵(すけたか)は独り言のように呟き、官兵衛から届いた書状を手にした。


そこには「祐兵(すけたか)殿、四国の地はもはや落ち着こう。元親も必ずや屈する」と書かれていた。


祐兵は文面に込められた確信に心を打たれる。


日向を追われ、流浪を重ねた自分と、四国全土をまとめ上げた元親。


その姿を重ねずにはいられなかった。


だが今、秀吉の旗の下で再び家名を立て直す道がある。


「元親公もまた、一国を託されよう。ならば我らも必ずや……」


祐兵(すけたか)は強く拳を握り、己の未来を信じる決意を新たにした。




やがて七月二十五日、長宗我部元親が降伏したとの報せが都へ届く。


土佐一国の安堵という寛大な処置は、秀吉の器量を世に知らしめるものとなった。


その同じ頃、京では関白の座を巡って朝廷が二つに割れていた。


二条昭実にじょう あきざね近衛信輔このえ のぶすけの争いである。


秀吉は巧みに介入し、近衛前久このえ さきひさの猶子となることで道を開いた。


七月十一日、ついに秀吉は関白の宣下を受ける。


武士が初めて朝廷の頂に立った瞬間であり


これは新たな天下の秩序の始まりを告げる出来事であった。




堺の屋敷に戻った祐兵(すけたか)


港に集う人々の口から「秀吉公、関白に任ぜられたぞ」との声を耳にした。


戦場を越え、朝廷までも掌握するその勢いに、祐兵は深く息をついた。


「天下は殿の手に収まろう。そしてその流れの中に、我ら伊東もまた歩むのだ」


夕陽に染まる海を眺めながら、祐兵(すけたか)は遠い日向の浜辺を思い出した。


幼き頃、無邪気に駆けた砂浜は、今や失われた故郷である。


しかし胸の奥に燃える炎は消えない。


四国平定、関白就任——秀吉のもとで歴史が大きく動く今こそ


伊東再興の希望が確かに息づいているのだった。

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