第四十三話 再会
天正十二年。
堺の町は諸国からの商人や職人で賑わい、異国の香りと人々の声が交錯していた。
伊東祐兵は父・義祐を失った悲しみを胸に抱きつつも
羽柴秀吉の与えた河内五百石の地を基盤に、家の再興を固く誓っていた。
その折、祐兵の屋敷を一人の武士が訪ねる。
名は飯田祐安。
日向伊東家の旧縁の士であり、幼き頃は清次と呼ばれ
かつて祐兵と共に飫肥の城下を駆け回った仲であった。
時の流れに隔たれても
その眼差しは少年の日の友情を思い起こさせるものであった。
再会の座敷で、祐安は深々と頭を下げた。
「祐兵様……いや、かつての“すけたか”殿。こうして再びお会いできる日が来ようとは」
祐兵は目を細め、懐かしげに頷いた。
「清次……お主もまた、日向を忘れずにおったか」
二人は往時を語り、幼き日に川辺で竹槍を振るった記憶や
義祐に叱られて駆け戻った日の笑い話に、束の間の安らぎを見出す。
だが祐安の顔はやがて真剣な影を帯びた。
「祐兵様、我らはまだ故郷を取り戻してはおりませぬ。されど……その時に備え、我が身なりに力となるべきものを用意いたしました」
祐安が取り出したのは、光を宿した太刀であった。
銘は「山伏国広」
刀工・田中国広が鍛えし一振りである。
「この太刀には“武運長久”の願いが込められております。国広もまた、伊東の没落を胸に刻み、日州の名を忘れず鍛え上げたと申します」
祐安の声は熱を帯びていた。
「この刀を祐兵様に献じとうございます。再び日向に伊東の旗を掲げる、その日まで」
祐兵は太刀を手に取り、その重みを確かめた。
鋼の冷たさの奥に、家を思う温かな念が脈打っているのを感じた。
祐兵は静かに立ち上がり、太刀を佩いた。
「清次……いや祐安。この一振り、我らの絆の証として受け取ろう。必ずや日向の地に返り咲き、この刀を振るう日が来る」
阿虎の方も傍らで涙ぐみながら微笑み、二人の誓いを見守った。
夕暮れの堺に鐘が鳴り、薄紅の光が座敷に差し込む。
祐兵と祐安は肩を並べ、黙して未来を見据えた。
滅びたはずの伊東の炎は、こうして再び燃え上がろうとしていたのである。




