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第四十一話 北ノ庄の炎

賤ヶ岳(しずがたけ)の激戦が


最高潮を迎えたその時、戦場に異変が走った。


茂山もやまに布陣していた柴田方の前田利家まえだ としいえ


突如として兵を退き始めたのである。数千の槍が静かに(ひるがえ)


戦列を離れていく様に、味方からはどよめきが上がった。


「利家殿が退いた?」


佐久間盛政さくま もりまさの兵たちは動揺を隠せず


後背の守りが崩れたことで全軍の士気は一気に下がる。


羽柴方では黒田官兵衛くろだ かんべえが戦況を見据え、低く言った。


「これで勝敗は決した。あとは殿が総仕上げをなさるのみ」


伊東祐兵いとう すけたかは槍を握り締め、戦場の渦に身を投じた。




利家の離脱によって対峙していた羽柴軍が一斉に柴田勢へ攻めかかる。


さらに不破勝光ふわ かつみつ金森長近かなもり ながちかの軍までもが退却を始めると、盛政隊は孤立した。


羽柴勢の猛攻により佐久間軍はついに撃ち破られ、勝家かついえの本隊に兵が殺到する。


祐兵(すけたか)もまた、必死に槍を振るい、敵兵を押し返した。


「ここで退けば、日向再興の夢は(つい)えるぞ!」


その声に日向伊東の兵たちが奮い立ち、戦列を支える。


だが大軍の奔流を前に、勝家の旗は次第に後退していく。


「皆のもの、北ノ庄へ退くぞ!」


勝家が叫び、軍をまとめて撤退の途についた。




越前(えちぜん)北ノ庄城(きたのしょうじょう)に落ち延びた勝家であったが


すでに羽柴軍の包囲は迫っていた。


天正十一年、四月二十三日


先鋒を務めたのはかつての盟友・前田利家。


その旗印を城壁から見やり、勝家は静かに覚悟を固めた。


「これもまた、武門の定めか……」


翌日、夫人・お市の方と共に自害。


炎が城を包み、柴田家の栄華はここに終焉を迎えた。


同じ頃、盛政は敗走を試みたが黒田勘兵衛くろだ かんべえの軍に捕縛される。


「盛政殿、これもまた天命」


勘兵衛はそう呟いた。


盛政は京に送られ斬首、その首は六条河原に晒された。




柴田の滅亡は、織田家中に残る抵抗勢力をも崩壊させた。


美濃の織田信孝おだ のぶたかは兄・信雄(のぶかつ)に岐阜城を囲まれ、ついに降伏。


四月二十九日、尾張・内海にて切腹を命じられ、その生涯を閉じた。


伊勢の滝川一益たきがわ かずますも一か月粘ったが、力尽きて開城。


剃髪(ていはつ)し出家の身となり、丹羽長秀(にわ ながひで)に預けられて越前大野に蟄居(ちっきょ)する。


祐兵は戦後の空に(なび)く羽柴の旗を仰ぎ見て思う。


(天下は殿のものとなった。しかし、我らの戦はこれからだ……)


官兵衛が隣で静かに告げる。


「伊東の再興も、この流れに乗せねばならぬぞ」


祐兵(すけたか)は深く頷いた。


愛用の槍にとまっていた蝶が、鈍色(にびいろ)の空へ舞っていった。

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