第三十話 激闘!山崎合戦
天王山を制した羽柴軍は、その優位を一気に戦場全体へと広げた。
宝積寺の本陣で秀吉が軍配を振り下ろす。
「総攻撃じゃ! 皆の者、押し出せ!」
陣太鼓が雷鳴のごとく響き、旧西国街道沿いに羽柴軍が雪崩れ込む。
右翼の池田恒興隊
中央の中川清秀・高山右近隊が押し上げ
天王山を下った黒田孝高・羽柴秀長隊が敵の左翼を穿つ。
祐兵・祐長ら伊東勢も、官兵衛の合図とともに前進。
泥を蹴り、槍先を煌めかせて明智勢の隙間に斬り込む。
「伊東勢、押せ! 押し通せ!」
祐兵の声が戦場に響き、血と汗の匂いがむせ返る。
一方の明智光秀は御坊塚の本陣から戦況を見ていたが
左右からの圧迫により防衛線が徐々に崩れ始める。
「持ちこたえよ!」
斎藤利三の叱咤も虚しく
沼地に退く兵は足を取られ、次々と槍に掛かる。
「利三殿、お下がりください。我が隊が盾となります」
御牧景重が利三に叫んだ。
「御牧三左衛門殿、かたじけない。お頼み申す」
利三は家臣たちと引き上げていく。
「皆のもの、ここが踏ん張り時じゃ。戦の流れを押し戻すぞ」
御牧景重が兵を鼓舞する。
「祐兵様、左手に敵の旗印!」
祐長の声に、祐兵の目が鋭く光る。
殿を務める隊の一角、ひときわ大きな采配を振るう武将が見えた。
「討ち取るぞ!」
祐兵は槍を突き出し、敵兵を払いのけながら一直線に突進した。
「貴様、何者ぞ」
御牧景重が太刀を抜いて応じる。
火花が散り、衝撃が腕に伝わる。
「日向伊東家、祐兵、参る!」
その一声と共に、祐兵は身を沈めて斜めに切り上げた。
鋭い槍先が景重の脇腹を貫き、その体を地に縫い留める。
「お、お見事……」
景重が声を上げた次の瞬間
祐兵は脇差にて首を刎ねた。
首級を高く掲げると、周囲の味方が鬨の声を上げる。
「祐兵様が敵将を討ち取ったぞ!」
血飛沫を浴びた祐長が笑みを浮かべる。
「これで日向の名も再び京に轟きますな!」
祐兵は息を整えながらも、槍を握る手に力を込めた。
(この首級、必ずや再興への糧とせねば)
戦いはなお続く。
天王山の斜面では黒田官兵衛が全軍を巧みに動かし、中央突破の機を狙っていた。
祐兵は再び槍を構え、血煙の中へと躍り出た——。
午後、羽柴軍は敵中突破を果たし、明智軍の中央を切り裂いた。
祐兵は槍を振るいながら、日向で奪われた故郷の土を思い出す。
——この勝利が、再興の道を開く。
必ずや掴み取るのだ。
やがて総崩れとなった明智軍は四散し、光秀自身もわずかな供回りと共に戦場を離脱する。
空はすでに茜色に染まり、戦場には無数の旗が倒れ、兵たちの呻きが響くだけだった。
「勝った……!」
祐長が息を切らせながら叫び、祐兵も深く頷いた。
背後から官兵衛が現れ、静かに言う。
「祐兵殿、これで秀吉公は織田家の主導権を握りましょうぞ。そして……日向再興の道も、さらに広がります」
祐兵は槍を地に突き、燃えるような夕陽を見上げた。
戦は終わった——だが彼にとって、本当の戦いはこれからであった。




