第二十四話 本能寺の雷鳴
天正十年(1582年)六月初旬──。
羽柴秀吉に仕官した伊東祐兵は
その陣中にて、才覚を少しずつ認められつつあった。
とはいえ、まだ重用には至らぬ身。
祐兵は、かつての領地・日向を取り戻す日を夢見ながら
地道に働き、礼節を欠かさず、人との縁を大切にしていた。
「よき時節が来るはず……信じて参るのみです」
阿虎の方の言葉に、祐兵は黙って頷いた。
六月二日、夜が明けきらぬ刻──。
「本能寺が……焼けておりまする! 信長公が……!」
本能寺のある京は大混乱となっていた。
備中にて毛利率いる中国攻めを行っていた
羽柴軍へ伝わるのに時間はかからなかった。
「何だと……信長公が……討たれたと申すか!」
羽柴の陣に激震が走る。
明智光秀の謀反──。
京にて、織田信長が本能寺にて急襲されたとの知らせが
急報として駆け巡ったのである。
秀吉の陣では、即座に軍議が開かれた。
「羽柴様、如何いたしましょう! 明智が都を押さえております!」
だが、秀吉の表情に、焦りはなかった。
「かの光秀、計略に長けたるものの、兵の動きは未だ鈍い。今こそ攻め時じゃ」
「されば……中国の毛利との講和は……?」
「それは任せておる。今より京へ動かす。まずは備中高松より急ぎ、光秀を討つ!」
祐兵は、秀吉のあまりの決断の早さと
周囲を動かす求心力に息を呑んだ。
この方の下に付いたのは、やはり間違いではなかった──。
「祐兵よ、お主には、秀吉様より仰せがあるぞ」
掃部助に呼ばれ、秀吉の前に進み出ると、秀吉はにやりと笑った。
「日向の伊東、これよりわしと共に都へ馳せよ。明智を討つ戦、わしの天下の第一歩よ」
祐兵は深く頭を下げた。
「この身、尽きるまで、秀吉様の御旗のために」
本能寺の変──それは一つの時代の終わりであり、
そしてまた、新たな時代の幕開けでもあった。
乱世に再起を賭けた男たちの物語が、再び動き出す。




