第二十二話 祈りの山伏、絆の邂逅
天正七年(1579年)──。
道後の空にも春の息吹が感じられるころ
三部快永は一人
播磨の地へと足を運んでいた。
「姫路城の普請が進んでおるらしい。世が移ろうと、人の手で築かれるものは変わらぬものよ……」
修験者の装束に身を包み、快永は城下の喧噪を眺めていた。
すると、ふいに声をかけられる。
「お主、どこぞの者か?」
振り向けば、武士風の男が一人
鋭い眼差しで快永を見つめていた。
「日向の者にございます。伊東家に仕えておりましたが、国を逐われ、今は伊予の河野家に身を寄せております」
男の目が鋭さを増す。
「ほう……伊東とは、伊藤か? それとも……」
「伊東、でございます」
すると男は頬を緩め、快永の肩を叩いた。
「それならば我ら、同族ではないか。拙者、伊東掃部助と申す」
思わぬ出会いに、快永は目を見開いた。
「これは、奇縁にございますな……」
城下の茶屋で酒を酌み交わしながら、二人は故郷の話を語り合った。
快永は祐兵や義祐らが
道後でいかに窮乏して暮らしているか
また河崎祐長が酒造りに励み
祐兵や阿虎の方がなおも再興の希望を捨てぬことを語った。
掃部助の目が静かに輝く。
「さればこそ、我が手で何か助けにならぬものか。今の世は義を貫く者が少ない……だが、伊東の名を絶やしてはならぬ」
快永は深く頭を下げた。
「この邂逅、祐兵様にもきっと伝えましょう。今こそ、伊東の名が新たな絆を結ぶ時にございます」
その夜、快永は宿に戻ると
伊東掃部助との出会いを手紙に書き留めた。
「ただの旅ではない……この道すがらにこそ、祈りは形を結び、名は力となる」
祐兵の元に届くであろう報告を想い、筆を置いた。
遠く離れた道後の地でも、祐兵はふと空を見上げていた。
「快永よ……我らが名を語るに足る者に、出会えたのだな」
彼の傍らには、阿虎の方が静かに座っていた。
「祐兵様、よき風が吹いております。これは、再び立ち上がる前触れにございます」
祐兵は頷く。
「名は消えぬ。心さえ、折れぬ限りはな──」




