4話 悲しみをを糧に
ミルンが泣いていた…灰を抱き抱えながら。
ミルンが泣いていた…灰を放り投げて。
ミルンが泣いていた…在りし日の思い出を胸に。
ミルンが泣いていた…俺はただそっと側から離れ。
ミルンが立ち上がった…俺は────
【4話 悲しみを糧に】
「お肉〜お肉〜久しぶりのお肉ー!」
ミルンのテンションが凄く可愛い。
尻尾を千切れるんじゃなからろうかと言わんばかりに振りながら、豚野郎(漢)が持っていた斧でミルンの手によって解体されていく元豚野郎(肉)。
其れを憂鬱な目で眺めている俺。
下手したら解体されていたのは俺か?
「流さん! 本当にモゴモゴ全部貰っても良いのですか!? オーク肉はモゴモゴお店にでないとかで、売ればそこそこのお値段になるって聞いた事あるん〜モゴモゴ」
切れ端の元豚野郎(肉)をモゴモゴと咀嚼しながらキラキラした目を向けて来るというか我慢出来ずに食べてるよミルさんや。
「あー俺は要らないから全部やるよ。というか生で食べても大丈夫なのか?」
「はい! 新鮮なので生でもいけます!」
斧を使って器用に元豚野郎(肉)の睾丸を笑顔で引き千切る姿を見て一瞬股下がヒュンッとなった。
「それ…食べるのか?」
元豚野郎(肉)の…睾丸。
「食べますよ? オークのお肉の中で一番滋養に良いと言われていますのでモゴモゴ」
あぁ…今食べるんだ…生睾丸。
「で、食べ切れるのかそれ全部?」
元豚野郎(肉)の各種部位、見た感じで百キロ以上あるし異世界と言えど腐るんじゃないか?
「そうなんです流さん。全部食べたいのですけどこのままだと腐ってしまうので…どうしたら」
返り血を浴びたまま耳と尻尾をピコピコ動かして考えている。
俺は元豚野郎(皮)の切れ端を指先で拾い、試しとばかりに空間収納スキルを使用。イメージとしては空間に穴が空いて、そこへこの元豚野郎(皮)を入れるように。
一瞬でミルンがモゴモゴと食べている元豚野郎(肉)の睾丸二個目以外の部位の全てが、目の前から消え去った。
「お肉が!?」
ミルンがモゴモゴしている元豚野郎(肉)の睾丸を落として慌てている。
「お肉! どこお肉!?」
ミルンが鼻をスンスンさせて慌てている。
「お肉────!?」
ミルンが森の中へ突撃して行った。
俺はそれを見届けてのんびりとボロ屋の中へ入り、ふぅと一息。
「よし、ちょっと確認」
ステータス、ステータスっと。
小々波 流 35歳
レベル 4→6UP(楽しい経験値効果)
能力
STA 11→13 INT 25
VIT 12→13 AGI 65→75
DEX 56→60
(村人男性平均100とした値)
スキル
・身体強化(これで貴方もマッスルバディに)
・楽しい経験値
・空間収納(大人の本の隠し場所として)
・基本魔法(一人暮らしのお供に)
・ー 判別不能 ー
称号
・逃げ惑うニート
・崖からダイブするニート
・ケモナー(仮免許)
・種を超えた奇跡(魔物特効)
目の前で見えているステータスの項目を指で触ってみる。
スキル
・身体強化(これで貴方もマッスルバディに)
レベルアップ時DEX能力プラス値補正
レベルアップ時AGI能力値プラス補正
レベルアップ時上記能力値以外の成長を妨害
・楽しい経験値
行動内容によりランダムにレベルアップ
レベルアップ時の効果音
レベルアップ時のリシュエルの楽しい一言
レベルアップ時の効果音
・空間収納(大人の本の隠し場所として)
容量制限無し
防腐効果 劣化軽減
効果範囲半径十メートル以内
手に持っている物は収納出来無い
己の物と認識している物のみ収納可
取り出す際は一覧を参照
(一覧)
ハイオークの肉 119キログラム
ハイオークの皮
ハイオークの魔石
ミルンの尻尾の毛
・基本魔法(一人暮らしのお供に)
小々波 流の固有魔法
全属性魔法中級まで使用可
使用回数制限無し
心の揺らぎにより範囲威力増減
INT 150より制御可
レベルアップ時INT成長を妨害
・ー 判別不能 ー
運---捻-----ー判別不能ー--
うんうん…悲しくなってきた。
俺って、絶対知力ステータス上がらないよね?
気を紛らわせる為、ミルンが帰って来るまで濡れパンをマシパンにしておこう。
リュックを持って外に出て川の近くにゴロゴロと落ちている石を拾い集め円形に並べて、雑草、木の枝を中心に詰め込み、その上に平たい丁度良い石を置けば焼き場完成。
「あとは火かぁ」
ステータスをチラッと見る。
・基本魔法(一人暮らしのお供に)
小々波 流の固有魔法
全属性魔法中級まで使用可
使用回数制限無し
心の揺らぎにより範囲威力増減
INT 150より制御可
レベルアップ時INT成長を妨害
固有魔法でありながら属性魔法使い放題というステキチートなんだけどなぁ、今一心の揺らぎってのが理解出来ないしINT 150より制御可って絶望しか無いんだけど。
「小さなぁー声でぇー火ょー」
遊び心で試してみた。
ポッ
「おっ、火種着いたじゃんいけるいける!」
火が消えない様に急いで草で覆い手で包み息を吹きかけ、火が強まったらそれを焼き場の枝と合体!
「暖かい〜はぁ〜」
石の上の濡れパンの焼き加減を見ながら暖をとる。
「流さーん!」
ようやくミルンが帰って来た。無駄骨だったとも知らずに。
「流さん! お肉! 探しても見つからないお肉!」
涙目になりながらまだ鼻をスンスンさせている。
濡れパンがマシパンになる過程で出る芳ばしい小麦粉の香りと砂糖が焼けていく香りが合わさりミルンの鼻を刺激する。
「流さん! パンですか!?」
一瞬で笑顔になったミルン可愛い。
乾いたマシパンの一つをミルンに渡しつつ俺も口へ運ぶうっめえええ。
「パンだよ。何か魔法の発動が上手くいってな、何とか火を着けれたんだ」
こんな風にと試してみる。
「小さなー声でー火よーみたいな?」
何も起きない?
ミルンがマシパンを食べながら首を傾げている。
何も起きないな?
ミルンが急にボロ屋上空を見上げた。
小さな火種が浮かんでいる。
「おっ、あそこで発動したのか、ちょっと火種取ってくる」
俺は火種の回収に向かうが一向に火種に辿り着かないし触れないぞ?
「流さん! 離れて!」
ミルンの声で俺は気付いた。
あぁ、凄い上空にあるのか、火種。
火種? 火の玉? アレッ?
後に聞いた話によると、その魔法は神話の中に出て来ると言われる属性魔法の最上位。範囲指定された場所へ浄化の光を降らせ対象を殲滅する────
────ファイヤオブジャッジメント────
──火の玉から集束された光がーボロ屋へと落ちた。
ミルンが泣いていた…灰を抱き抱えながら。
ミルンが泣いていた…灰を放り投げて。
ミルンが泣いていた…在りし日の思い出を胸に。
ミルンが泣いていた…俺はただそっと側から離れ。
ミルンが立ち上がった…俺は────
────リュックを背負い屈伸体操おいっちに、さんしっ! 川良し! 森良し! 俺良し!!
ミルンが振り返った、笑顔が張り付いている。
手には豚野郎(肉)の斧。
「世話になったな、ミルン」
ふっと笑みをつくり、ミルンに背をむけ──
「ながれぇええええええええ!!」
──俺は脱兎の如く森へ駆け出した。
犬耳幼女と35歳アラサーニートの生死を賭けた鬼ごっこが今、始まった!?