4話 ミルンと地獄の鬼ごっこ.1
「流さーん!」
ようやく、ミルンが肉探しから帰って来た。
無駄骨だったとも知らずに。
「流さん! お肉! 探しても見つからないお肉!」
涙目になりながら、まだ鼻をスンスンと、可愛いお鼻が動いているよ?
ほらほら。濡れパンがマシパンになって、この場所を漂っている、芳ばしい小麦粉の香りを、そのお鼻で受け止めるんだ。
「流さん! パンですか!?」
一瞬で笑顔になったな。
涎がエグい程出てるミルンのお口が、今にもパンを食そうと、モゴモゴ動いてるぞ。
素晴らしき可愛さ……食べるか!
乾いたマシパンの一つをミルンに渡しつつ、俺も口へ運ぶ……うっめえええぇ!?
「モゴモゴ……これがパンですか!?」
「パンだよ。魔法の発動が上手くいって、何とか火を着けれたんだ」
「もう使い慣れてる……モゴモゴ」
「ミルンの教えのお陰だな」
「このパン旨旨モゴモゴ。何の魔法使ったんですか?」
ミルンは魔法に興味深々だな。
パンを口いっぱいに頬張りながら、尻尾を振り振りと聞いて来たぞ。
仕方無いな、見せてやるか。
「見逃すなよ? 小さなー声でー火よーっと」
「……?」
「何も起きない?」
ミルンがマシパンを食べながら、可愛らしく首を傾げている。
「んーっ、何も起きないな。失敗か?」
いまいち発動条件が分からんぞ。さっき発動したのはマグレか?
そう思っていたら、ミルンが急に、ボロ小屋の屋根上を見た。
「っ────」
火種浮かんでんじゃん
「あそこで発動したのか? ちょっと火種取ってくるわ」
俺は火種の回収に向かった。
流石に屋根の上は手が届かないので、長めの枝を拾ってと。
「ん──っ、んんっ?」
ボロ小屋の上に木の枝を向けるが、一向に火種が、枝に火を移さない。
「流さん! 離れて!」
ミルンの声で俺は気付いた。
「あぁ、凄い上空にあるのか、火種……?」
あれ火種?
空に浮かんで……火の玉?
どゆこと?
後に聞いた話によると、その魔法は、神話の中に出て来ると言われる、属性魔法の最上位。
範囲指定された場所へ、浄化の光を降らせ、対象を尽く殲滅する。
『神級魔法・ファイヤオブジャッジメント』
火の玉に集束された光が、徐々に強烈な光を放ち────ミルンのボロ屋へと、光の柱を撃ち立てた。
「あ──っ、何これ?」
「ミルンのおいええええええ──っ!?」
土煙を巻き上げながら、天から落ちて来るその光の柱の前で、ミルンは膝を付き、耳と尻尾がペタンっとしながら、その破壊を、見ている事しか、出来なかった。
ミルンが泣いていた。灰を抱き抱えながら。
ミルンが泣いていた。灰を放り投げて。
ミルンが泣いていた。在りし日の思い出を胸に。
ミルンが泣いていた。俺はただそっと側から離れ。
ミルンが立ち上がった。
俺は、ミルンを刺激しないよう、音を立てない様に、準備を完了させる。
リュックを背負って、屈伸体操、おいっちにっと。さて、どっちに行くか。
川は深そうだから駄目。
山は豚野郎が居そうだから無理。
それじゃあ……森だな。
ミルンが、ゆっくりと、振り返った。
笑顔が張り付いている。
手に持つのは、豚野郎(肉)の斧。
「ふぅ……世話になったな、ミルン」
笑みをつくり、ミルンに背をむけ────『ミルンのおいえええええええ──っ!!』
俺は脱兎の如く、森へ駆け出した。
犬耳幼女と、35歳アラサーニートの、生死を賭けた鬼ごっこが今、始まった!!
「また走るのかよおおおおおお──っ!?」




