間話 ミユンの休暇.3
椅子に座って、のんびりと。
農耕都市で栽培されている、茶葉の香りを愉しみながら、目を閉じて、ほっと一息。
遠くからは、移住して来た子供達の、楽しげな声が聞こえ、心温まるとは、正にこの事。
「……こんなのギルドじゃ無いのっ!?」
「うわっ、急に声を上げて、どうしたんだい?」
冒険者ギルドになのに、人っこ一人居らず、何故かカウンターテーブルが置かれており、ここは閑散とした、ただの喫茶店なのっ。
「何でこんな作りにしたのっ! 冒険者は? 禿げ散らかしたムキムキは? 依頼書を貼る掲示板すら無いなんてっ、可笑しいのっ!」
「えっと、依頼書ならそこに……」
「何でお品書きの隣にあるのっ!?」
「いやぁ……見易いかなぁって」
「じゃ無くてっ、何でお品書きが有るのっ!?」
「家内とお店を開く事が、夢だったから、丁度良いかなぁって……ねっ?」
「……ねっ? じゃ無いのおっ!?」
公私混同の極みっ!?
しくじったのっ……このギルドの中に来たのは、初めてだけど、しっかりと確認する様、ミウに忠告すべきだった。
「だってねぇ、ここまで来る冒険者達って、そこそこ腕が立つからさ。ここの依頼じゃあ、お金にならないんだよ」
「そんな事無いのっ。この付近だと、変な虫さんとか、ゴブとか、魔物討伐の依頼なら、腐る程有る筈っ」
「そうなんだけどね。場所が悪いんだよ」
「場所が悪い?」
『そいつぁ、北の国境だからさねっ』
カウンターの奥から、野太い声が聞こえたと思ったら、ヘラクレス以上ある背丈の女性が、ドスッドスッと、足音を立てながら出て来た。
「副ギルド長は、相変わらず大きいのっ」
「ははっ! アタイはこれだけが、取り柄だからね。細かい作業は、旦那に任せっきりだし、楽をさせて貰ってるよ」
「何を言ってるんだい、マリーダ。こんな北の国境まで、着いて来てくれたんだから、君には感謝しかないよ。いつも有難うね」
「あっ、あんたは弱っちいんだからっ、何かあったら困るだろっ。それに、あんたの料理を食べれなくなるのは、アタイが困るからねっ」
「ははっ。それじゃあ今日の夕食は、君の好物のモッサルにしようか」
「っ……ありがと」
ミユンの胃が、もたれる程に甘々なの。
もしかしてだけど、ここのギルドに人が来ない理由って、コレを見せられるからでは……。
「ガリ細眼鏡とゴリマッチョの、愛の巣っ」
無視して依頼書を見るの。
「ふわふわパンケーキに、ゴブリンの討伐。激辛モッサルに、薬草採取。ほっとミルクと、ワイバーンの鱗採取……混乱するのおっ!」
ふわふわのパンケーキの横にっ、ゴブリンの討伐依頼を、載せないで欲しいのっ。
「どうしたんだい、ミユン様? あぁ、お茶のお代わりかな? 少しだけ待ってね」
「違うのっ! けど貰いますっ」
「旦那の淹れるお茶は、結構旨いからね。ついでにアタイのも、淹れとくれよ」
「いつもので良いかい?」
「任せるさね」
ギルド長は、洗練された動きで、手際良くお茶を淹れるんだけど、どう見てもただの、喫茶店の店長にしか見えないの。
ファンガーデンにある喫茶店よりも、こっちの方が静かだから、落ち着く……。
「落ち着いちゃ駄目な場所っ」
「こう言った冒険者ギルドが、一つぐらい有っても、良いんじゃ無いかい?」
「依頼をこなさなきゃ、土地代払えないよ?」
「それは大丈夫さね。アタイが適度に、依頼をこなしてるから、土地代程度払えるよ」
「副ギルド長なのに……現場に出るとかっ」
見た目からして、元冒険者っぽいんだけど、それで良いのか……冒険者ギルドっ。
「この状況、ミウは知ってるの?」
「勿論さ」
「寧ろ、この状況を見て、喜んでたさね」
確かに。ミウは元々、冒険者ギルドを設置するの、嫌がってたから、逆にこの状況は、ミウ的に嬉しい事なの。
ヘラクレス的には、アウトだけど。
「ミウが良いなら、もう何も言わないの。この薬草採取の依頼って、何の薬草を探してるの? 来たついでに、手伝いますっ」
「それは助かるよ。その依頼だと、スタタポサ草の採取だね。中々手に入らない薬草だけど、本当に受けるのかい?」
「問題無いの。ミユンが何の精霊か、忘れてなあい? 薬草採取なら、楽々出来るの」
スタタポサ草なんて、魔龍の川近くに行けば、山程生えてる雑草なの。
「そうだったね。それじゃあミユン様に、お願いしようかな。期限は無いから、ゆっくりして良いからね」
「直ぐに取ってくるの────」
ギルドを出て畑へ向かい、根っこを呼び出して、ファンガーデンに到着したら、領主館の裏手に回って、雑草を抜き抜き。
「────採取して来たのっ」
「!? 早く無いかい?」
「直ぐって言ったでしょ。はい、スタタポサ草」
「はあーっ、凄いねぇ、精霊様は」
「これぐらい楽勝ですっ。ついでに、色んな草を抜いて来たから、確認してくださいなっ」
ウサ鞄から、山程の雑草もとい、薬草を取り出して、ギルド長に見せてみる。
「ほぉーっ、これは凄い。これがあれば、依頼の幾つかを完了出来るねぇ」
「それは良かったの。討伐系は、日数が足りないから行けないけど、役に立ったでしょ?」
「勿論だとも。感謝するよ、ミユン様」
と言っても、討伐系が残ってるから、どうにかして依頼を達成しないと、この都市の印象が悪くなるの。
「討伐系の依頼も出来る様に、ヘラクレスと相談しておくの。お茶ご馳走様でしたっ」
「お願いするね。いつでも待ってるよ」
「領主様に、宜しく言っといてくれさ」
「分かったの。それじゃあねっ」
冒険者ギルドを出て、ヘラクレスの家へと向かう。もうそろそろ、アレが来るだろうから。
強制お見合いの、ご到着っ。
「ヘラクレスの、慌てふためく顔を眺めながら、どんな御令嬢が来るのかを、確認するの」
良いネタになりそうだったら、パパに教えて、ヘラクレスを弄り倒すっ。
「面白優先です」
次回は、4月12日、朝7時半更新予定っ。




