13話 天然混じりの恐怖のドジっ子.8
簡易小屋から、叫び声。
お茶を「ずずっ」と飲みながら、簡易小屋を見上げると、一人のおっさんが、黒姫に吊られる様にして、降りて来た。
「ほれっ、シャキッとせぬかやっ」
「先程は、叫んでしまい、申し訳御座いません。私は、ペヘッホ・トメン・ワジルと申します。どうぞペヘッホと、お呼び下さい」
茶髪をオールバックにして、薄ら禿げを隠さんとする、物腰柔らかなこの中年が、大国ノブストンの、雇われ大臣。
アッジスノード王国に、戦争を吹っかけて来るような、ヤバい国の要職に就いている者とすれば、驚くべき低姿勢だろう。
「無事だったんですねーっ、大臣っ」
「近付くなばけものおおおおおおっ! わたっ、私はまだ死にたくないんだっ!!」
「女帝に向かって、不敬ですよーっ」
「騎士達を振り切ってっ、勝手に外に出るなぞっ、許されて無いだろっ!!」
さっきの低姿勢はどこ行った?
自国の女帝に対して、黒姫を盾にしながら、ギャンギャンと言い合ってるけど。
「えっと、ペヘッホさんや。取り敢えず、あそこで寝ている騎士達を、どうにかしてくれ」
「っ……寝ている? 死んで無いのですかっ!」
「俺が全員気絶させたから、死んで無いぞ」
「失礼っ。貴方様のお名前を、お聞きしても?」
「流だ。立場的には、アッジスノード王国の同盟者で、この国に仕返しに来た」
「……えっ? 今、何と……?」
「この砦から向こうは、アッジスノード王国の領地だから、宜しくな」
ペヘッホ大臣が、固まった。と思ったら、直ぐに砦を見上げ、周囲を見渡し、気絶している騎士達を見て、また固まった。
「喉が渇きましたーっ。お手伝いのプランを、連れて来ますーっ」
空気を読まずに、女帝が席を立ち、首都へと帰って行った。が、その途中にまた転けて、気絶している騎士達を踏み付け、蹴飛ばし、川へ落としと、歩く災害と化していた。
「……なあ、ペヘッホ大臣」
「はっ! あっ、貴方は敵なのですかっ!」
「敵だけど、お前を治療したのは、俺だからな。じゃ無くて、早く騎士達を助けないと、死んじゃうぞ?」
「なっ!? あっ、あの女帝またっ! 話は後で聞きましょうっ! 待てや糞餓鬼いいいいいいいいいいっ!!」
ペヘッホ大臣も、行ってしまった。
女帝を糞餓鬼呼ばわりしてるし、頭のてっぺんが薄くなってたから、苦労してるんだなぁ。
「なあ黒姫」
「何ぢゃ?」
「この大陸の奴等……濃い奴多くね?」
「エイドノア大陸と、比べてかのぅ?」
「そうそう」
「似たり寄ったりぢゃろ」
そうだろうか……そうだな。
筋肉村長とか、リティナとか、ルシィとか、影さん達とか、アルテラとか、他にも沢山、変な奴が居るからなぁ。
「俺みたいにマトモなのって、少ないよなぁ」
「流やっ……御主、今の言葉は本気かや?」
「何が?」
「一番濃いのは、御主なのぢゃっ!!」
「えっ?」
「えっ?」
「「えっ!?」」
お互いを見つめ合う事、十数分。チャッフ国王と、デンバー副団長を連れたミルンが、帰って来たのだった。
「任務完了しましたっ!」
「お帰りミルン。ドールも、ありがとさん」
「了。容易い事です」
迅号のハッチから、今にも死にそうな兵達に紛れ、何やら笑顔のチャッフ国王と、震えているデンバー副団長が、降りて来る。
「なあミルン。兵達はふらふらなのに、何であの二人は、無事なんだ?」
「わかんないっ」
「それは私が、説明致します」
「ドールが? そんじゃあ頼む」
「座席四つはベルトがある為、揺れても問題無いですが、荷物置き場には、食料保護の安全装置しか御座いません」
「……成程、もう分かった。説明有難うよ」
ミルンの音速ブッパを体験して、体力をごっそりと、持って行かれたって事ね。
「やあやあ、凄いじゃないか、小々波君。こんな短時間に、ここまで作るだなんて」
「待ってたぞ、チャッフ国王。迅号の乗り心地はどうだった? 楽しめたか?」
「勿論、楽しめたとも。道中に、ノブストンの兵が居たけど、凄い高さまで飛んでいたよ」
凄い高さまでって、轢いてないよな?
ミルンをチラッと見ると、顔をプイっと逸らしたから、ワザとノブストンの兵達に向かって、突撃をかましたっぽい。
「来て早々悪いんだけど、もう少ししたら、ノブストンの女帝と、大臣が来るから、そこでどうするのかを、話し合ってくれ」
「へぇ、あの子が来るのかい」
「ああ。少し話をしたけど、チャッフ国王の言ってた通りの、ヤバい奴だったわ」
「そうだろう。あの子は、感情の一部が欠けている所為で、命を軽く見ているからね」
それは、聞いた称号にも有ったな。
正しく、欠落者。
自らの両親を亡くしても、大臣を亡くしても、ケロッとしている、あの精神状態。
「それにしても、良く話が出来たね。あの子の性格上、大人しく話が出来るなんて事は、早々無い筈なんだけど」
「処刑せず置いといた奴が、あの女帝の、お気に入りだった様でね」
「……ほぅ、連れて来てたのかい?」
チャッフ国王の穏やかな目に、若干の怒りが見て取れたので、念の為釘を刺しておく。
「円堂とペペルーノは、貴重な手札なんだ。言っておくが、俺の庇護下に有る内は、手を出す事を許さんからな」
「小々波君がそう言うなら、今は何もしないよ。兵達にも手は出さぬ様、指示しておこう」
「そうしてくれ」
少し離れた場所では、デンバー副団長と兵士達が、野営の為の天幕を作っており、ミルンはいつの間にか、簡易小屋へと走っていた。
「元気だなぁ……」
「ワンブルの子であれば、普通だろう?」
「そうかい。そんじゃあ、ここはデンバー副団長に任せて、会談の準備をしますかね」
次回は、四月七日朝七時半更新っ!




