間話 アッジスノードの迷宮.4
クルゥッポゥッと鳴く、魔物の臭いを辿り、少し広い空間へと、到着した。
「行き止まり? 臭いはするのに、姿が見えないのっ。あの魔物……どこ行った?」
「ふむ……隠し部屋でもあるのかのぅ。どれミルン、下ろしても良いかや?」
「そっとお願いしますっ。落し穴があったら、また埋まっちゃうっ」
「分かっておるのぢゃ」
地面に落し穴が無いかどうか、爪先でつついて確認してから、ゆっくり足を付ける。
「……問題無しっ」
「ふひぃっ、地味に疲れたのぢゃぁ」
「ミルンは軽いでしょっ」
「軽いぢゃと? そんな訳……ミルンは軽いっ、羽根の様に軽いのぢゃぁ」
重たいって言ったら、即座に埋めようと思ったのに、上手く誤魔化したの。
ミルンは重く無い。
お父さんだって、普通に肩車してくれるし、丸い黒姫よりかは、軽い筈っ。
「ほれミルンっ、あの魔物を探さねばのぅ」
「そうだったっ!」
「ほっ……」
あの魔物は、一体何処に消えたのか。ここの空間は、縦横五メートル程の広さで、隠れる場所なんて、見当たらないの。
「それに、ここには落し穴が無いの。なんで?」
「なんでぢゃろうの……上かや?」
「上?」
「ほれっ、あそこの小さい穴。あの大きさなら、先程の魔物であれば、通れるぢゃろうて」
確かに天井には、ミルンの頭程の大きさの、穴がある。あの大きさだと、ミルンや黒姫だと、通れない。
『ポホッ、クルゥッポウッ』
「聞こえたっ! 上から煽ってるっ!?」
「余程、知能が高い魔物ぢゃの。この様子ぢゃと、ここに誘導されたのやも、知れぬのぢゃ」
『クルゥッ、クルゥッ、ポホッ』
ミルン達が通れないと知って、安全圏から、煽りまくってくるのおおおおおおっ。
どうにかして捕まえないと、走り回ってスッキリする為に、わざわざ迷宮まで来たのに、苛々のまま帰る羽目になっちゃうっ。
「上に向かう為の、道を探すのっ!」
「待つのぢゃミルン」
「なあにっ!」
「上に向かったとて、また逃げられるのが、オチぢゃと思うかや。少し落ち着かぬか」
「上からずっと、『クルゥッポホッ』喧嘩を売られてるのにっ、落ち着け無いよっ!」
いっその事、魔法を天井に連発して、おっきな穴を……天井が崩れて、埋まっちゃうのっ。
「ミルンや、耳を貸すのぢゃ」
「なあにっ」
「ボソッ(ミルンはここで、待ち伏せておれ。我が行って、ここに追い込むのぢゃっ)」
「ボソッ(二手に分かれるっ。かしこまっ。通路に潜んで、あの魔物が出で来るのを待つのっ)」
そうなの。こっちは二人居るんだし、片方が追い込んで、もう片方が隙を見て、魔物に突撃すれば良いだけの、話だった。
冷静に、冷静になるの。
「ボソッ(ではミルンや、少し待っておれ)」
「ボソッ(アイアイサーっ)」
黒姫が行った……けど、ここで静かにしてたら、あの魔物に気取られちゃう。
「ここはっ、変身して注意を引くのっ!」
懐から、布で作られたマスクを取り出して、スポンっと被り、変身完了っ。シュバっとポーズを取り、名乗りを上げる。
「鶏鍋食べたい、ミルンレッドっ!」
シ──ンと静まり返る、迷宮内。
天井の小さな穴からも、残念なモノを見るかの様な雰囲気が、漂って来る。
「グリーンが居ないとっ、調子が出ないのおおおおおおおおおおおおっ!!」
爆発も無いから、面白味に欠けるし、コレをお父さんに見られたら、減点されちゃうっ。
『ポッ……ポーゥ』
「哀れみの声っ!?」
『ポホッ』
「また笑ったっ!?」
ぬぎぎぎっ、精々ミルンに、気を取られるが良いのっ。黒姫の声が聞こえたら、直ぐに姿を隠して、あの魔物が出て来たところをっ、確実に仕留めるっ。
「それまでっ、頑張るのおおおおおおっ!」
『クルゥッ……ポッ』
「馬鹿にされてる気がするうっ!」
その場でパンチやキック、宙返りや側転を繰り返し、魔物の視線を釘付けにする。
正直言うと、姿が見えないから、こっちを見ているのかが、分からないんだけど、止める訳にはいかないのっ。
「しゅっしゅっ、えいっ! たあっ!」
『クルゥクルゥ、ポホッ、ポホッ』
「むきいいいいいいっ! 馬鹿にしないでっ!」
ミルンの真似っ子してくるっ!
黒姫早くっ、早くするのおおおおおおっ!
『見付けたのぢゃあっ! 大人しくせいっ!』
『クルゥッ!?』
「今っ!」
黒姫の声が聞こえた瞬間、通路へと走り、いつでも飛び出せる様、身を低くして待ち伏せる。気配を消せる、獣族の狩り方なの。
『逃がさないのぢゃっ!』
『ポホッ』
『くっ、待つのぢゃああああああっ!』
ジッと、天井の穴を見詰める。
あの魔物が顔を出せば、魔法で天井まで突撃して、一発で仕留めるのっ。
「ボソッ(……静かになった?)」
「ポッポックルゥッポッ」
「っ……」
「ポーゥッ」
何で、ミルンの頭の上から、あの魔物の鳴き声が、聞こえるのだろうか……。
『ミルンやーっ! しくじったのぢゃーっ!』
「なんでっ!?」
「ポホッ」
捕まえようと、腕を振り上げたが、『ポーゥッポホッ』と、余裕で避けられ、そのまま天井の穴へと、逃げられてしまった。
「ぬぎぎぎっ、また頭にうんちしてえっ!?」
ミルンの頭はっ、おトイレじゃ無いのっ!




