9話 朕を探してヴォイド大陸.5
「おーい、嬢ちゃーん。引っ張んべーい」
「はーい」
「お前らも良いなーっ、せーのっ!」
「「「よいしょっ! よいしょっ! よいしょっ! よいしょっ! よいしょっ!」」」
「まだまだ行くぞーいっ! せーのっ!」
「「「よいしょっ! よいしょっ! よいしょっ! よいしょっ! よいしょっ!」」」
「あと少しだーっ! せーのっ!」
「「「よいしょっ! よいしょっ! よいしょっ! よいしょっ! よいしょーっ!」」」
マロンの様子を見に、砂浜まで来たが、むさっ苦しい男衆に混ざり、地引き網を引っ張っているのは、何故なのか。
しかもこの短時間で、妙に既に馴染んでいると言うか、男衆から頼られて無いか?
「ふぃーっ、助かったぜ嬢ちゃん」
「まったくだぁ。わけぇ者にしちゃぁ、力も強いし、俺らより働き者だ」
「んだば、こん魚好きなだけ持ってけ。嬢ちゃんが手伝ってくれんかったら、もっと時間かかったけんのぉ」
「んだんだ。あの丸い魚は、毒があるけぇ、それ以外なら大丈夫だぁ」
食料は有り難いが、これは……私も働かなければ、食べる訳にはいかないパターンか?
「それじゃあ、あの大きな魚と、細い魚を頂きます。アレス様に、ご馳走しないとっ」
「おおぅ、持ってけ持ってけ。そん大きな魚なら、煙で燻して食べると、旨いぞ」
「やってみますっ。有難う御座います」
「「「なーに、良いって事よぉーっ」」」
男衆がデレデレと、まるで孫と話をしている、お爺ちゃんの様では無いか。
持ち前の可愛さで、一瞬にして、この村の男衆を掌握するとは……やるな、マロン。
「あっ、アレス様っ」
ピチピチ跳ねる魚を、両手に持ち、小走りで来るマロンなぞ、初めて見たぞ。
「御夕飯を手に入れましたっ。このお魚を燻したモノが、美味しいそうです」
マロンは目を輝かせて、こっちを見て来る。
この仕草は、何度も見た。
「そうか、よくやったマロン。夕飯を楽しみに、待っているとしよう」
頭を撫でて、しっかり褒める。
「えへへっ」
今のマロンは、雲では無く、私の娘なのだから、褒めるべき所は、しっかりと褒めねば。
以前、同じ状況になった際、褒める事をしなかった所為で、一月無言のままだったから、旅が辛かったのだ。
影と言えども、アレは辛い旅だった。魔神様の気持ちが、少しは理解出来たな。
「アレス様、どうなさいましたか?」
「何でも無い。それじゃあ、村の端で焚き火をして、魚を燻すとしよう」
「はいっ」
家屋から少し離れ、地面に鉄の棒を三本刺して、その上を括り、三角の形にしたら、その下に木屑を広げ、火を付ける。
「マロン、魚の準備は出来たか?」
「はい。鱗と内臓は取りました」
「良し。手持ちの塩を塗り込んで、あとは吊るしてと……少し時間がかかるな」
「細い魚はどうしましょうか?」
「それも、鱗と内臓を取って、焼魚にすれば良いだろう。それとも、スープに入れてみるか」
「スープにしますっ」
皮袋から、小さな鍋を取り出して、鱗と内臓を取ったら、ブツ切りにして入れる。水、乾燥野菜、塩を入れたら、あとはじっくりと、煮込むだけ。
「あとは待つだけか……丁度良い。マロンはこのまま、ここで半年待つか、王都へ行ってみるか、どっちが良いと思う」
「何の話ですか?」
「先程、ワニロ村長から聞いた話だが────」
この国の現状、周辺国の事や、アッジスノード王都が、古代の遺跡である事等、マロンにも分かる様に、伝えてみた。
私個人としては、王都に行きたいのだが、ここはマロンの意見を聞くとしよう。
「────と言う事なのだが、どうだ?」
「それでしたら、魔神様に伝えずとも、そのまま他国に行けば、良いのではないでしょうか」
「魔神様に伝えないと?」
「はい。魔神様の進行方向に、王都があり、そこが古代遺跡ならば、ドールと言う者が、気付かない訳が無いかと」
「……私とした事が……マロンの言う通りだな。どうやら、考え過ぎていた様だ」
影として情け無い。
ドールは魔神様に同行しているのだ。古代の遺跡を見つけて、魔神様に教えない訳が無いだろうに……恥ずかしい。
「アレス様の、その様な顔……初めて見ました」
「あまり、見てくれるな。マロンの言う通り、明日の朝にでも、ここを去ろう」
「分かりました。どちらの国へ向かいますか?」
「そうだな……このまま西へと歩いて、ノブストンと言う国を目指すか」
「はいっ」
東の傭兵国ディヒケンだと、来た道を戻らねばならぬし、それなら西へと向かった方が、早く着くだろう。
「アレス様っ、スープが出来ました」
「明日からまた、体力を使うだろうから、しっかり食べて、早めに寝るぞ」
「分かりました。どうぞ、アレス様の分です」
「頂こう……旨いな」
こうして次の日の朝。ワニロ村長に礼を言って、そのまま海岸沿いを、西へと向かった。
目指すは大国、ノブストン。
サハロブ・アヒージャ・ノゾ・ルプマンティの手掛かりを求めて、二人の旅は、続いて行く。




