8話 セーフアース開拓事業.5
しくじったの。何をしくじったかと言うと、セーフアースの端っこに行くのに、歩いて一月以上かかることを、すっかり忘れていたの。
「行けども行けどもお花畑……マッスルホースを連れて来ないと、移動に時間を取られちゃう」
「イマサラデスネ」
「もう太陽が沈みそうだし、植林は明日にするの。今日は、ピュアの仕事を確認して、港の宿屋で一泊します」
「ドウヤッテモドルノデスカ? モウケッコウナキョリヲ、アルキマシタガ」
「戻るのは、簡単だよ?」
「アッ、マサカ────」
ズボンっと良い音を出しながら、モクメが地面に埋まったのを見届けて、ミユンも穴の中にズボンします。
世界樹の根っこの生えている場所に、戻るだけだから、とても楽ちんに使えるの。
「……キョウフトハ、イヤナモノデスネ」
「別に怖くないよ?」
「ソレハ、ミユンサマダカラデス」
ボコっと根っこ移動完了。
体に付いた土を、パッと払い落として、ピュアの居る山の方へと、歩いて行きます。
「明日朝一に、ファンガーデンに戻って、マッスルホースを手配します」
「ワカリマシタ。アスハワタシモ、ミナトノシゴトガアリマスカラ、チョウドイイデスネ」
「移住者達と一緒に、アルカディアス経由で、届けて貰うとするの」
移住者達は、ファンガーデンを出発したばかりだから、余裕で間に合う筈。
変態達とは言え、まさか馬車を使わずに、キングやエンペラーマッスルホースに跨って、単騎時短をするなんて事は、無いと思いたい。
「……まさかね」
「ナニカケネンデモ?」
「なんでも無いのっ」
モクメと雑談しながら、のんびりと山を登って、湖予定地となる、頂上まで到着。
「おおーっ、ちゃんと水が溜まってる。けど、ピュアの姿が見えない?」
「オラレマセンネ……ミナトニイッタノデハ?」
「港に?」
それだと、少し変なの。
ピュアは確かに、『この広さの穴に水を張るなら、まだまだかかるわよ。夕方ぐらいには、終わるかしら』って言ってたの。
今が、その夕方。
太陽がゆっくりと沈んで、お空が良い感じに、暗くなってきた時間。
「水の中には……気配を感じないの」
「ミユンサマ?」
「えっと、何処にいるかな……」
ピュアの居場所を探る為、地面に手を付け、存在を辿って行く。
「むぅ……地に足を付けてない。と言う事は、宿に入ってる可能性が有るの」
水溜めが夕方までかかるなんて、真っ赤な嘘……ミユンを謀るとはっ、ギルティっ!!
「許すまじピュア。ファンガーデンに連れて帰って、影の刑に処すのっ」
「ナマケグセガツイテマスネ」
「大丈夫っ。影達に、二日三日揉みくちゃにされれば、真人間ならぬ、真精霊になるの」
「セイレイサマハ、キホンジユウデハ……」
ファンガーデンに住まう者ならば、例え精霊と言えども、真面目にお仕事をして貰うの。
「ピュアを捕獲する為っ、宿へ突入しますっ!」
そう宣言して直ぐ、港側へと山を下り、宿へと突入。店主に、ピュアが居るであろう部屋番号を聞いて、鍵を預かり、そっと侵入した。
「ひゅるるるるるっ、ふごぉぉぉぉぉぁっ。ひゅるるるるるっ、ふごぉぉぉぉぉぉっ」
オークみたいなイビキをかきながら、へそ天丸出しという、何ともみっともない姿で、とても水の精霊とは思えない。
「ボソッ(標的発見っ。涎を垂らしながら、爆睡してるの。モクメはそっち持って)」
「ボソッ(ソトニハコブノデスネ)」
「ボソッ(そうなの)」
揺らさない様に、そっと外へと運んで、あとは簡単。根っこでズボンっと埋めて、ファンガーデンの湖に直送です。
「水の精霊だから、溺れる心配が無いのは、とても羨ましいの」
「ミユンサマモ、カエラレルノデスネ」
「うん。一泊しようかと思ったけど、ピュアの躾をしなきゃだから、ファンガーデンに帰る。ついでに、マッスルホースの手配もしておくの。また明日来ますっ」
「カシコマリマシタ。ワタシハミナトデ、ニンギョタチト、シゴトヲシテオリマスノデ」
「かしこまっ。それじゃあまた明日ね」
モクメに手を振り、根っこ移動で、ファンガーデンの湖まで移動。泳ぎながらピュアを探すと、ぷかぷかと水に浮いたまま、何事も無いかの様に、爆睡している。
「流石、水の精霊……水責めは意味が無いの。それじゃあ、今の内に」
ゆっくりと湖から引き上げ、ピュィ──っと口笛を吹けば、何処からともなく現れる、新設されたらしい、ピュア親衛隊。
「うへへっ。ピュア様、こんなにも無防備に、寝ていらっしゃいますねぇ」
「こら影。先ずはミユン様に、挨拶ですよ」
「まだ若い影ですので、仕方無いでしょう。ミユン御嬢様、持って行って宜しいですか?」
「三日後には、返してね」
「「「畏まりました」」」
そう言って影達は、いまだすやすやと寝ているピュアを、音も無く連れ去って行った。
「さらばピュアっ。貴女の事は、忘れない……」
開拓は始まったばっかりだから、色々とやる事だらけだけども、挫けずに頑張って、パパとミルンお姉ちゃんを、驚かすのっ。
「マッスルホースの手配をしなくちゃっ」
次回は、朕野郎を追い続け、ヴォイド大陸へと渡った、アレスとマロンのお話です。




