7話 笑顔でニコニコご挨拶.7
土鍋の小さい蒸気穴から、プシューっと白い湯気が出て来たので、蓋を取って、煮え具合を確認する。
「良い感じじゃん。ミルン、黒姫、水炊き出来上がったから、食べようぜ」
「熱々なの。頂きますっ!」
「どれどれ、頂くのぢゃぁ」
ミルンは肉、黒姫は大根、俺は白菜から、先ずは何も付けずに、口へと運ぶ。
「あふっ、あふっ、んまいわぁ」
「ふーっ、ふーっ、あむっ……あひゅいっ!」
「酒が欲しいのぢゃぁ」
こう言った鍋物だと、ミルンはゆっくり食べるから、消化に良いだろうな。いつものご飯は、噛んでいるのか不安になるくらい、食べるの早いから。
そんなミルンを眺めていると、ふと、視線の先に、ジュラ紀に居そうな鳥っぽい魔物が、ジッとこっちを見ている。
「匂いに釣られて、魔物が来てるぞ……アレが、影さんが主食にしてた奴か」
「我が居るにも関わらず、目視出来る範囲まで来るとはのぅ。まぁ、襲っては来ぬぢゃろうて、放置一択ぢゃな」
「ふーっ、ふーっ、狩る?」
「今ご飯中だから、狩りません。念の為、少し脅しておきますか……"威圧"?」
威圧をかまそうと、ソードファングに視線を向けたら、凄まじい勢いで、逃げて行った。
化物に遭遇したかの様な、見事な逃げだぞ。
ジュラ紀っぽいのに、脱兎の如く。
「……黒姫何かした?」
「何を言うておる。どう見てもあの魔物、流の瞳を恐れて、逃げたぢゃろうて」
「この瞳の所為かよ」
神殺しの発動キーって言っても、莫大な量の魔石が必要っぽいし、特定の魔物か妖精達と、コミュニケーション取れるだけ。そう思っていたけど、初めて役に立ったか。
「はふっ、白菜美味いわぁ。豆腐が有れば、尚良しなんだけど、作り方知らんしなぁ」
「とうふって、なあに?」
「何と聞かれても……白くてプルプルした、とてもヘルシーな、健康食だとしか言えん」
「ぷるぷる?」
「こればかりは、見てみないと分からないぞ」
豆腐の材料は、大豆、水、苦汁、以上。
豆っぽい穀物は有るんだけど、苦汁って何から作るのか、ど忘れしてんの。
「……苦汁」
「苦汁? その言葉、昔に哲也が言っとったのぅ。何ぢゃったか……残り汁?」
「何の残り汁だよ。そう言えば黒姫って、父さんと旅してたんだったな。ここにも来た事あるんだっけ?」
「あるのぢゃが……封印される前ぢゃし、短い間に、色々と様変わりしとるのぢゃ」
黒姫の封印期間、五百年ちょい。それを短い間にって、マジで黒姫何歳なんだろ。
「ふーっ、ふーっ……なあにあれ?」
「どうしたミルン? 何見て……えぇ、今?」
逃げて来た方角から、土煙りが迫って来てての、どう考えても追っ手だろう。
ここは気にせず、鍋をつつきましょう。
「流や。凄い血相変えて、迫って来ておるが、戦わなくて良いのかや?」
「この距離で良く見えるな。あんなの、無視しといても問題無いだろ。今は鍋中だ」
「ふーっ、あむっ! 美味しいーっ!」
「こらミルン、ちゃんとお野菜も食べなさい」
ミルンの小皿に、大根白菜をササっと乗せて、ミルンはそれを、鍋にササっと戻した。
「ミルン……」
「最後っ。お野菜は、最後に食べるっ」
「食べなかったら、毎日肉無しサラダだからな」
「肉無しは嫌っ! ちゃんと食べますっ!」
俺はそろそろ、柔らかお肉を頂きます。
「魚醤をちょいと付けて、どれどれ。んーっ、やっぱ鍋には、違う気がする」
美味しいんだけど、コレじゃ無い感が凄くする。お酢とみりんが有ればなぁ。
「んぐんぐ……追っ手は三人か。少ないな」
恐らくだが、副団長と、女顔。もう一人は、催眠が解けた、ペペルーノあたりだろう。他の騎士等は、町の中を探してるのかね。
「あのマッスルホース……大陸違うと、あんな色になるのか? グレーの馬って……」
「流や、何を言うておる。あのマッスルホースは、どう見てもゴーレムぢゃろうて」
「……アレがゴーレムっ!? 俺の中の、ゴーレムのイメージと、全く違うんだけど」
「ドールやドーツを、見ているであろうに。今更、驚く様な事でも無いのぢゃ」
あの二体はゴーレムと言うよりも、古代人が作り上げた、不思議ロボだろう。
見た目は人型ロボットで、中身はスライム。
そして、俺を揶揄う無駄機能。
「迅号……お前だけが頼りだよ」
しみじみと、そんな事を思っていたら、ヒュンッという風切り音が聞こえて直ぐ、俺の額に何かが当たり、弾かれて、くるくるポチャンと鍋の中。
「何に今のって……矢じゃん」
「お鍋っ!?」
「凄くばっちい矢ぢゃのぅ。ミルンや、もうこの鍋に、手を付けるで無いぞ?」
「おにぐぅっ、まだあったのに……」
何とも勿体無い事をするなぁ、アイツら。折角の鍋が、台無しになっただろ。
「仕方無い。この鍋は、アイツらに食べて貰って、俺等の分は、また作るか」
ドドドドッと、迫り来るマッスルホース型のゴーレムを見て、少しばかり格好良いなぁと思ってしまうのは、許して欲しい。
『デンバー副団長っ! 矢が弾かれましたっ!』
『狼狽えるなっ! 次は一斉に放つぞっ!』
『よくも私にあの様なっ、許しません事よっ!』
距離にして、凡そ五十メートル。
この距離になってようやく、どうやって矢を射ったのか、ハッキリと見えた。
「弓矢じゃ無くて、ボーガンか。しかもあの構え方、照準も付いてるっぽいな」
額、胸、腹と、完璧に当てて来る腕前に、少し驚きながらも、妙な"違和感"を覚えた。
相対距離十メートル。
デンバー副団長は、腰の剣を抜き、俺と交差する一瞬の間に、それを振り抜いた。
ガキィッと火花を散らし、デンバー副団長の剣が折れ、そのまま鍋の中にイン。
「学習しないねぇ……無駄だっての」
今回は、生身で受けて無いぞ。ちょっとした耐久テストで、破魔の盾で受けてみました。
「なっ、盾なぞ持っていなかった筈っ」
「ミルン、黒姫。女顔と、女騎士を任せても良いか? 俺はあのおっさんをやる」
「かしこまっ! 鍋の仇なのっ!」
「面倒臭いのぅ。ささっと終わらせるのぢゃ」
友好関係を結びたいから、殺す訳にはいかないけども、鍋の怨みだけは晴らさねば。
「オースターっ! スパンキンっ! その二人の子供を保護せよっ!」
「「ははっ!」」
違和感の正体が分かった。あのデンバー副団長、ミルンと黒姫に矢が当たらない様、矢の軌道を計算して射ってたんだ。
「子供には、武器は向けないか。まともじゃん」
でも、この二人には悪手だな。見た目に騙されて、即潰されるのがオチだ。
「ミルンは、あの男の玉潰すの」
「あの女子のぅ……何とも、張り合い甲斐の無さそうな、女子なのぢゃ」
「そんじゃ、戦闘開始と行きますかっ!」




