7話 笑顔でニコニコご挨拶.6
威圧で騎士達を失神させて直ぐ、全速力で、迅号が作った凹みまで向かい、後はひたすら真っ直ぐ進む。
穴の修繕をしているのか、作業着の様な服を着た人達が居たが、お構い無しに突っ込み、そのまま外へと脱出完了。
「楽な脱出お疲れさん、俺っ」
後はミルン達と、合流するだけだ。
迅号の荷物置き場には、数日分の備蓄も置いてるし、そこら辺は大丈夫だろう。
「問題が有るとするなら……"知覚"」
知覚の範囲内に、ミルン達が居ない事だ。
知覚の範囲は、半径十キロ圏内。
大砲の射程は、二十キロ。
「そりゃぁ、射程圏外へ逃げるわな」
迅号は浮いてるから、地面に痕跡は無く、どうしたものかと、頭を悩ませる。
この穴から、一直線に逃げたとは思うんだけど、万が一ミルンが『曲がるのおおおっ!』って遊んでたら、何処かで曲がる可能性も有る。
「いっその事、狼煙でもあげるか?」
そんな事を思っていたら、ガサガサっと近くの枯れ草の塊が動いて、近付いて来る。
「……えっと」
その枯れ草の上には、二本の黒いドリル角が生えており、その枯れ草の後ろには、モフッとした尻尾が、生えている。
「迅号置きっぱにして、ここ迄来たのか?」
枯れ草の塊が、ピタっと動きを止めて、何やらその中で、相談している様だ。
「ボソッ(お父さんを驚かせるつもりがっ、黒姫の所為で気付かれたっ)」
「ボソッ(我の所為ではないのぢゃっ。ミルンが早く歩き過ぎて、気付かれたのぢゃっ)」
どうやら、俺を助けに来たのでは無く、驚かせる為に、ずっと潜んでいた様だ。少しだけ、俺の心に傷が入ったぞ。
「二人共。穴の近くだと不味いから、少し離れて、今後の作戦を練るぞい」
ガサッと二人が、枯れ草の塊から顔を出したけど、そのままだと、新種の魔物扱いされちゃうから、枯れ草も取って欲しいわ。
「お父さん、痛い事されなかった?」
「痛くは無かったけど、刺されたり、叩かれたり、殴られたりはしたな」
「……変態の極みっ」
「変態じゃ無いからね?」
変態の極みって何? もしも防ステが仕事してなかったら、今頃俺、お亡くなりよ?
「流は本当に、硬くなりおったのぅ。今の我の本気でも、数発は耐えれそうぢゃ」
「黒姫。お前殴って来たら、マジ影さん送りにするからな」
「殴らぬわっ! 仮定の話で脅すとかっ、懐の狭い奴なのじゃっ」
黒姫の性格上、大丈夫だとは思うが、念の為釘を刺しておかないと、やりそうで怖い。
「っと、ボーッとしてたら不味いか。二人共、迅号の場所まで、案内してくれ」
「かしこまっ」
「こっちなのぢゃ」
ミルンと黒姫が、左右に進み、枯れ草が綺麗に二つに分かれて、何してんの?
「えっ、どっち?」
「あっちなの」
「違うのぢゃミルン。こっちなのぢゃ」
「んんっ!?」
ミルンは右を指差し、黒姫は左を指差す。
今から流さんは、二体に分かれまーすっ! んな訳あるかーいっ!
「ミルンや。この穴を飛び出して、左に曲がったであろう。忘れたのかや?」
「違うの黒姫。ミルンが操縦してたんだから、間違える訳が無いの。右っ!」
「左なのぢゃっ!」
「右なのっ!」
枯れ草を、纏う少女の、口喧嘩。ほっこり風景、眠気を誘う。流、心の川柳。
「良しっ、真っ直ぐ進もう」
「「えっ!?」」
二人を置いて、真っ直ぐ歩くと、後ろから焦った様子で、追いかけて来る。
二択では無く、その間を取る。無駄な争いを避ける為の、最善の手段だ。
「お父さん正気っ!? 大砲来るのっ!」
「流やっ! 変な物でも食べたのかやっ!」
「正気だし、変な物は食べて無いぞ。ドールの事だから、この事予測して、しれっとこの先に、居そうな気がするだけだ」
「ドールには、動かないでって言ったのっ」
「そうなのぢゃっ。彼奴はこの先に居らぬっ」
残念だが、二人は勘違いをしている。
ドールの仮の管理者は、ミルンでも、黒姫でも無く、俺なのだ。と言う事は、ミルンの命令に従う必要は無いし、黒姫の命令は論外。
「一番の理由はあのドール……人を揶揄う機能を搭載してるから、裏を読まないとな」
「揶揄われてるのは、お父さんだけ」
「そうなのぢゃ。流だけなのぢゃ」
「それなら尚更だな。大砲来ない内に、さっさと射程圏内から、離脱するぞ」
そうしてひたすら一直線。背後の大砲に気を配りながら、二時間程、ひたすら走る。が、迅号の姿が、全く見えない。
「……読み違えたかなぁ」
「お父さん、お腹空いた」
「うむぅ、我もなのぢゃ。流が捕まっておったこの四日間、毎日干し肉ぢゃったからのう」
「仕方無い。大砲の射程距離は抜けた筈だし、ここでこのまま、お昼にするか」
「ご飯っ! お肉が良いのっ!」
「我も今日は肉ぢゃな。薄味で頼むのぢゃ」
干し肉は塩分が凄いからな。腹が減って、肉は食べたいが、濃い味は嫌か。
「それなら、水炊きにしよう」
空間収納から、土鍋とコンロを取り出し、鍋底に昆布っぽいモノを敷いて、水を入れ、コンロの魔石に触れて着火。弱火でじっくり、出汁を取っている間に、肉の準備だ。
「水炊きには、やっぱり鶏肉だよな」
コカトリスの胸肉、白菜、大根、キノコを、鍋の中に並べる様に投入。後は蓋をして、ジッと出来上がりを待つ。
「ぐつぐつまあだ?」
「今入れたばかりだから、まだだぞ」
「流や、味付けは無いのかや? 何やら、変なモノを敷いておったが……薄味過ぎぬかや?」
「鍋底に敷いたのは、昆布みたいな海藻な。薄味過ぎるのなら、魚醤を小皿に入れて、つけて食べれば良いぞ」
「成程の、そうするのぢゃ」
醤油とお酢、みりんと唐辛子が揃えば、水炊きに合うタレも作れるのだが、今だに揃わぬさしすせそ。
「ぐつぐつ、ぐつぐつ、良い匂いっ!」
昆布の香りで、ミルンの尻尾がローリングしてるけど、砂埃が舞うから止めないとだ。
そう思い、櫛を取り出し、尻尾を押さえて、さっとひと撫でもふもふタイム。
「ぐつぐつ、ぐつぐつ」
「もふもふ、もふもふ」
「ぐつぐつ、ぐつぐつ」
「もふもふ、もふもふはーっ」
「流や。我は……ツッコミはせぬぞ?」




