7話 笑顔でニコニコご挨拶.1
三月二十二日、午前九時を、丈夫な縄で、逆様に吊られながら、お知らせします。
うん、吊られてるの。
しかもね、照り付ける太陽の下、まるで干物を作るかの様に、吊られてるの。
えっ? そんなモノ、空間収納を使えば、あっと言う間に外せるだろって?
周りを見てくれよ。縄を外そうモノなら、即串刺しにしますと言わんばかりの雰囲気で、槍武装かました奴等が、俺を取り囲んでるんだぜ。
走る前に囲まれたら、どうにもならんわ。
「それが四日間とか、普通なら死んでるっての」
防ステのお陰か、魔神ステのお陰かは分からんが、今のところは大丈夫。だからこそ、吊られてから何度目かになる、状況確認を、しっかりしよう。
縄は外せるが、完璧に囲まれてる為、逃げたくとも逃げれない。
魔法でこんがりは、"良心"が痛む。
ミルン達は、ここには居ない。
何? 可笑しいところがあった?
お前に良心は、無いだろうって?
「……俺にだって、良心はあるんだよ」
そう、良心はあるんだ。
しかも、ヴォイド大陸初の、人類との遭遇。
なるべくなら、敵対したく無い。
視線の先に見えるのは、この場所を囲んでいる、コンクリートの様な、巨大な壁。
「アレがなけりゃなぁ……助け、まだ来ないとか、何してんだろ」
その巨大な壁の下部分には、これまたポッカリと開いた、巨大な穴。
今回は、俺のやらかしじゃ無い。
俺じゃ無いんだ。
そこん所を、しっかりと説明しよう。
三月十八日、朝八時。
迅号に乗り込み、楽しく爆速中。
「やっぱ迅号は速いな。ドール。位置情報は合ってるか? 研究所は、もう過ぎた?」
「はい。先程通過致しました」
「気付かんかったわ……」
黒姫の休暇が終わって直ぐ、一度ファンガーデンに戻り、ドゥシャさんとシャルネに挨拶をして、ヴォイド大陸へと渡った。
んで直ぐに、アレスとマロンは、そのまま崖沿いに歩いて行き、俺達はこうして、ひたすら真っ直ぐ爆速中、と言う事だ。
「ぬぅ……これっ。また勝ったっ!」
「また負けたのぢゃぁぁぁっ。偶には我にも、勝たせるのぢゃ。ミルンは酷いのぢゃっ」
「黒姫が弱いだけなの。もう一回する?」
「やるのぢゃっ!」
ミルンと黒姫は、荷物置場に陣取って、神経衰弱やババ抜きを、延々としている。
飽きないのだろうか。
そんな事を考えていたら、ドンッと迅号に、衝撃が走るが、誰も気にしない。
「また轢いたか……行けば行く程、魔物の数とか、増えて来て無いか?」
「肯定。ですが、迅号の敵では御座いません」
「そりゃそうだろうよ」
時速六百キロ超えの、良く分からん材質で作られた、意味不明な機体に突撃されたら、魔物なんて、一瞬でミンチだ。
自動挽肉機、迅号。
「恐竜っぼい魔物の巣が、近いのかね」
このヴォイド大陸で、影さんの主食となっていた魔物、ソードファング。
命名、発見者の影さん。
「防具を破壊するレベルの、牙と爪から、防御貫通持ちと仮定されてるけど……」
「了。迅号相手では、無意味かと」
「だよねぇ。聞く限りだと、俺の天敵なのに」
影さん並みにすばしっこくて、防御貫通かまして来る魔物なんて、相手にしたく無い。
それに加えて、毒爪とか……厄介だろ。
「また負けたのぢゃあああっ!?」
「むふふっ。黒姫は弱々っ」
「くっ、これも空腹の所為なのぢゃっ。流や。そろそろ、朝御飯の時間なのぢゃ」
「お腹空いたっ!」
朝早くに出発して、ずっと迅号ぶっ飛ばしてるから、朝御飯食べて無かったわ。
「りょーかい。一旦停めて、ご飯にするか」
「お肉を要求しますっ」
「我は魚が良いのぢゃ」
「はいよ。そんじゃ、レバーをほいっと」
機内だから、エンジン音聞こえないし、速度計も無いから、停めんの結構難しいのよ。
「流。あと五秒後に、停止します」
「うしっ…………どうだ?」
「了。停止致しました」
ドールが居なきゃ、マジで無理。
「それじゃ黒姫。先に降りて、周囲の魔物とかを、散らしておいてくれ」
「うむ、任せるのぢゃ」
「ミルンは降りちゃ駄目だぞ」
「分かってるの。安全第一っ」
そう言いながら、今降りようとしてたよね。
「……ミルン。約束は守ろうな?」
「守りますっ」
「それなら、昇降口から離れなさい」
俺の知覚範囲内に居る、全ての魔物の反応が無くなれば、降りてご飯の準備だ。
ミルンには、オークの柔らか角煮で、黒姫には、魚の煮付けを作ろうか。
『おーい、もう良いのぢゃーっ』
「降りるのっ!」
「はいよ。ドール、周囲の警戒を頼むわ」
「了。十五分後に、燃料の充填をお願いします」
何その細かい指示。
料理している合間にでも、ドールの顔を掴んで、燃料とやらを充填するか。
そう思いながら、昇降口をおりると、ミルンと黒姫がしゃがみ込み、地面を見ていた。
蟻でも見てんのか?
「お父さん。これなあに?」
「んっ? 何か見つけたのか?」
「不思議な窪みなのぢゃ。マッスルホースかや」
どれどれと、俺も見てみるが、確かにこの足跡は、あの筋肉馬に違い無い。
しかもこの足跡、大きさから見て、通常の筋肉馬では無く、進化済みと見た。
「野良のマッスルホースでも、居るのかねぇ」
「お肉?」
「野生だったら、そうなるわな……」
こうしてのんびりと、荒地を迅号で突き進み、新たな発見は無いものの、順調な旅だった。
本当に、順調だった。
試しにミルンに、運転をさせるまでは。




