間話 斥候部隊隊長六番.2
そうして、あっと言う間に、東の国境。
いやぁ、お盛んですねぇ。国境の壁の向こうに、居るわ居るわ。どこの国か分からない敵兵達が、わんさかと。
「んで、何で大将まで、来てんですか?」
「愚問だな。私はこの地を、陛下より任されておるのだ。砦に籠って傍観など、有り得ぬよ」
「へぇ……魔神様が、気に入る訳ですね」
あの緊急招集の後、即座に物資を馬車へ載せ、二月以上かかる道のりを、一月半に短縮して、こうして、東の国境まで来た。
交代で御者を行い、マッスルホールが悲鳴を上げた時のみ、その場で休むという、強行軍。
「にしても、よく付いて来れましたね。少し寝た方が、良いんじゃ無いですか?」
「六番殿が寝ておらぬのに、私が寝れようものか。と言うよりも、節々が痛くて、寝たくとも寝れぬわ」
「そりゃそうだ。それじゃあ、確認ですよ」
アズヴォルド閣下への、確認内容。
斥候部隊は、以下の内容を遵守した上で、独自の裁量で、動く事を許可する。
一、出来うる限り、敵指揮官の捕縛を目的とし、無理であるならば、始末する事。
二、無抵抗の者は、捕虜とする事。
三、敵備蓄等を発見した際は、それを確保、又は処分する事。
「本当に、指揮権要らないんですか?」
「要らぬ。ファンガーデン軍の、北の地での戦いは、私も聞いておる。私も含め、他の貴族の命令を、聞く必要は無い。好きにしたまえ」
「自分に責任が来るじゃん……嫌だなぁ」
「ミルン嬢の命令通り、国境に迫る馬鹿共を、殲滅してくれれば良いのだ」
「百人ぽっちの部隊で?」
向こうさんはどう見ても、万は居ますよ?
「……やるしか無いか。そんじゃ、自分達は夜に動きますんで、準備しておきますね」
「うむ。是非とも、頼んだぞ」
向こうさんは、人種の軍。獣族が見当たらないから、こっちとしても、やりたい放題出来そうだ。
アズヴォルド閣下から離れ、ファンガーデン製の天幕へと入り、隊長格の前に座る。
自分、七番、八番、九番、十番。
「この中隊を、五つに分ける。七番、八番、九番、十番に、各二十名。交代要員として、二十名を後方に置く」
ぶっちゃけ自分は、単独行動派だから、部下なんて、管理したく無い。
と言うか、コイツらは管理出来無い。
「んで、この指示書に、書かれている事さえ守れば、あとは好きにしてくれ。以上っ!」
「いや六番よ……お前が指揮官だろ。好きにしてくれって、それで良いのか?」
「良いも何も、七番。いや、お前らか。お前ら絶対、俺の指示になんて、従わないだろ?」
「「「従う訳無いだろ?」」」
ほら、全員従う気無しじゃん。犬人族が、リーダー以外の言う事なんて、聞く耳を持つ訳が無いんだ。
特に、隊長格共よ。
十一番から下は、それこそ格下だから、普通に従うけど、コイツらは違う。
自分の事、ずっと舐めてますからね。
「だからこそ、自由にやれ。但し……指示書の内容だけは守れ。守らなかったら、自分が直接、罰を下す。その意味は……分かるな?」
「六番のガチは、おっかないからな。了解だ」
「それだけには、従おう」
「はいはい。分かりましたよ」
「急に真面目な面すんなよ……了解了解」
本当に分かったのか、怪しいもんだ。
月明かりの中、ドゥシャ様直伝の歩行法を使って、只今敵さんの陣の中を、彷徨き中。
コイツら……馬鹿なのか?
松明の灯りで、ここで休んでますって丸分かりだし、誰も自分に気付かない。
「ボソッ(獣族が居ないからだろうけど……それにしたって、気を抜き過ぎでしょ)」
他の隊も、各所の陣に向かってる様だし、これなら簡単に、殲滅出来るかもね。
んで、指揮官の天幕は……あそこか。
中央に構えて、これも丸分かり。
ここの陣の人数は、ざっと五百程度。
この近くにも、同じ様な陣が有り、国境の壁の上から見た限りだと、ざっと五十ヶ所。
「ボソッ(大軍だねぇ……まっ、関係無いけど)」
見張りを避けて、指揮官の天幕の裏まで回り、中の様子を探ってみる。
『ふんっ。中々国境を、越えられぬな』
『時間の問題でしょう。本来ならば、我等だけでも可能でしたでしょうが、和州の残党と、レベチガイの者も居るのです』
『でしょうな。何としても国境を越え、悪き者共より、精霊様を取り戻さねば』
この人種達は、何を言ってるのか。
精霊様を取り戻す?
精霊……コイツらが、ルノサイア国の者か。
ミユン御嬢様に御執心の、脅迫じみた事を抜かす、馬鹿共の集まり。
『明日こそは、全軍でもって、あの国境を越えるぞ。ジアストールの様な小国なぞ、我等の力で、滅ぼしてしまえ』
『はははっ、簡単な事ですな』
『まったくもって、その通り』
もしかしてコイツら……ファンガーデンに住んでる精霊様が、ミユン御嬢様だけだと、思っているのだろうか?
ファンガーデンに着きましたーっ!
攻めましたーっ!
精霊達総出で、滅ぼされましたーっ!
はい終了。
あの地には、風の精霊様や、水の精霊様だけで無く、大精霊様達も、住んでいると言う噂。
「ボソッ(コイツら放っておいても、勝手に滅ぶんじゃ……それは駄目か)」
ミルン御嬢様の、特命だからな。
この天幕の中には、指揮官クラス三名。
初日と考えれば、上々だろう。
「おじゃましまーす」
天幕をめくり、裏から侵入。
「なっ、誰だ貴様っ!」
「我が軍の者では無いなっ!」
「見張りは何をやっているのだっ!」
騒がれる前に、ちゃちゃっと片付けよ。
「うーん、取り敢えず────っと、お前だけ連れて行くわ」
「……えっ? ゼジリム殿? ハウハ殿?」
「騒いだら、同じ目に遭わせるぞ」
瞬きの間に、二人の首を落とした。
血の付いたナイフを拭い、ゆっくりと、腰に付けた鞘に仕舞う。
ドゥシャ様直伝の速技は、伊達じゃ無い。
「この調子だと、もう一ヶ所行けるか」




