間話 斥候部隊隊長六番.1
それは、ファンガーデン祝日の、最終日。皆んながわいわいと、祭りを楽しむ最中、世界樹を眺めながら、少しお高い酒を、一人寂しくちびちびと、呑んでいた時だった。
ピィィィ────と、遠くから聴こえる、笛の音のが、方々に鳴り響く。
「えぇ……緊急招集? 折角の休みなのに?」
空を見ると、複数の羽人が、とある場所に棒を向けており、そこに向えと言う指示だろう。
「ミルン御嬢様かなぁ……」
間違い無く、そうだろう。犬人族のリーダーにして、魔神様の娘である、ミルン御嬢様の招集には、誰も逆らう事は出来無い。
「逆らったら……うぅっ、震えがっ……」
前の戦の時なんて、危うく玉を潰されて、雄として、死ぬところだったからなぁ。
「行きたく無いけど、行くしか無いかぁ」
そっと、裏道に入り、斥候部隊員の証でも有る、黒い頭布を目深に被り、口元も隠す。
頭布に縫われた、六の数字。
それが自分の、部隊での名前。
その場所から、建物の壁を垂直に登り、屋根を足場にそのまま真っ直ぐ、領主館へ走った。
「よっ、六番。まだ生きてたのか」
背後から誰かが、近付いて来た。
「んっ? 二十番じゃん。そんな心配しなくても、お前よりは長生きするぞ」
「上から六番目だからって、気を抜いてると、俺に追い抜かれるぞ?」
「先ずは十九番になれよ……」
二人して、のんびりと話をしている様に、見えるけど、これでも結構急いでます。
「あそこだな。先行くぞ、二十番」
「ちょっ、一緒に行こ────」
二十番は足が遅い。仲良く一緒に走ってたら、遅れて痛い目を見るから、ここは置いて行く。
「ほっ、とっ、ほっ、到着っと」
屋根から飛び降り、緊急招集の集合場所であろう、領主館の庭に、到着した。
「あれっ? 自分が一番?」
自分より速い筈の、一番から五番が居ない。
いつもなら、自分よりも先に着いて、何やかんやと、嫌味を言ってくる筈なのに。
「なーんか、嫌な予感が……」
犬人族の、本能だろうか。
今直ぐこの場を離れて、身を隠さないと、やばい事になりそうな、予感がする。
「おっ、弄られ隊員の六番じゃん」
「流石、足だけの隊員。着くのが速いな」
七番と九番が来ちゃったよ。
逃げようとした瞬間に、コレだ。
「足だけで悪かったな。お前らは、今回のこの招集の事って、何か知ってるか?」
「六番が知らないのに、俺らが知ってる訳無いだろ。んな事、一番に聞けよな」
「その一番が居ないんだよ。こんな事、有り得ないでしょ?」
次々に、ファンガーデン中から集まる、斥候部隊員達を見て、不安が増して来る。ミルン御嬢様は、一体何を考えているのか。
『総員っ、整列っ!!』
不安にお腹を撫でていたら、何処からか、ミルン御嬢様の声が、聞こえて来た。
体が自然と、動いてしまう。
自分が中心となって、他の隊員達の基準となり、ものの数秒で、ばらばらだった隊員達は、整列した。
「ミルンの部隊、凄いでしょ?」
「うっ、うむ……」
「アズヴォルド閣下の兵は、出来無いの?」
「ここまで迅速には、正直言って出来ぬ」
ゆっくりと歩いて来るのは、ミルン御嬢様と、どこかの貴族様だろうか。
やっぱり、嫌な予感が的中したなぁ。
「ボソッ(貴族関係の何かなんて、碌でも無い事に違い無いじゃんっ。嫌だなぁ……)」
ミルン御嬢様と、その貴族の動きを目で追っていると、何故か自分に、近付いて来る。
「それで、ミルン嬢。ミユン嬢が言っておった者は、誰なのかね。確か……六番であったか」
「それなら、中央最前列の、この者なの」
自分の目の前で止まり、ミルン御嬢様の指が、何故か自分に、向けられている。
「六番っ! アズヴォルド閣下に御挨拶っ!」
「ははっ! ファンガーデン斥候部隊所属っ、六番でありますっ!」
「宜しいっ! 休めっ!」
何故自分は、挨拶をさせられたのか。
この貴族様を、ミルン御嬢様が"閣下"と呼ぶと言う事は、結構な身分の貴族様だ。
「顔は見せぬのだな……」
「それはそうなの。お父さんですら、この部隊員達の顔を知らないのだから、アズヴォルド閣下の命でも、絶対に見せないの」
「ふむ、徹底しておるか。素晴らしい」
そんなご身分の貴族様に、ファンガーデン斥候部隊員として、挨拶させられて。その理由を考えるのならば……。
「と言う事で、六番に特命なの」
「はっ! 何で有りましょう!」
「このアズヴォルド閣下領地の、東の国境を、敵国から護り、出来るならば、その敵国の軍を、殲滅して来て下さいな」
「……やっぱり、戦ですよねぇ」
「返事は?」
嫌ですと言えば、許してくれるのだろうか。
無理だろう。
だってミルン御嬢様の目が、嫌と言わせないかの様に、自分を見て来るんだもん。
「返事の前に、一つ宜しいでしょうか」
「なあに?」
「その……誰が部隊の指揮を?」
「勿論、六番なの。出来るよね?」
あぁ……ミルン御嬢様、そりゃキツいわぁ。
「でっっっきまっ、すっ!!」
出来ませんっ!と、言いたかった。
そんなん言えないって。
言ったら自分、終わるもん。
「そう言う事だから、アズヴォルド閣下。六番以下、斥候部隊百名を、預けるの」
「感謝する、ミルン嬢。それと、これから宜しく頼むぞ、六番殿」
「はっ、ははっ……了解致しましたぁ……」
今日って、祝日だよね? 自分今から、東へ行くの?
「……厄日だなぁ」




