5話 ミユンと一緒にぐるぐると.5
チッチッチッコーン。只今の時刻、午後、三時となりました。そんなお菓子のお時間に、ルシィは酷く憔悴し切っており、見ていて不思議と、笑える光景です。
「つんつん。女王が動かないの」
「だろうな。さっきの施設で、嫌って程、現実を味わったんだろ」
「ウザ子どこ行った?」
「また隠れたんだろうさ。一応アレで、ルシィの護衛なんだろうし」
施設の慰問が終わり、ニコニコ笑顔のパナトーナに見送られ、現在は領主館の一室。それからルシィは、ずっと俯いたまま、テーブルの上のお茶菓子を、ジッと眺めている。
「なあルシィ。いつまでも下向いて無いで、シャキッとしろよ。もう少ししたら、王都に帰る時間なんだろ?」
「……うん」
「重症だな。もしかしてルシィ、女王だから、皆んなに好かれてるとでも、思ってたのか?」
「……思ってない」
儂言葉が無くなってるな。随分前に見た、素のルシィになってんじゃん。
「パパ。女王は何で、しょんぼりしてる?」
「何でだろうな? 大方、施設の人達に、恨み辛みを吐かれまくって、女王としての今までが、否定されたんだろ」
「ボソッ(兄様なら)」
「んっ? 何て言った?」
「……兄様だったら、もっと上手く……出来たのかしら。私は……どうすれば良いの?」
顔を上げたルシィの鼻から、鼻水全開。
うん、ガチ泣きじゃん。
気持ち悪い程に、ガチ泣きじゃん。
目を開けたまま、ポロポロ泣いてるし、鼻水がドバッと、垂れて来てるって。
「ルシィの兄様は、墓の中だ。たられば何て言葉を、女王が吐くな」
「……ぅぅっ」
「仕方無い女王なの。鼻水汚いっ!」
ズボッ────『ふがっ!?』
ミユンさんや……ルシィの鼻に、指を突っ込むのは、汚く無いのかな? ルシィが豚鼻で、泣いているぞ?
「女王は、ブヒブヒ泣くオーク?」
「ひがぅっ、おーふひゃっ、ひゃいっ」
「それなら、鼻水を拭いて、紅茶を飲むの。次鼻水出したら、尻から肥料を引っこ抜いて、女王の肥溜めとして、皆んなに広めますっ」
「っ、そんなのは嫌じゃっ!?」
うわぁ……ミユンの可愛い御手手が、ルシィの体液塗れになってるよ。
「秒で泣き止ませるとか。ミユンさんや。手がばっちいから、コレで拭きなさいな」
「滑っとしてるの。拭き拭きっ」
「儂はばっちく無いわっ! 乙女が涙を流しておるのにっ、何じゃその態度は!?」
「乙女? どこに乙女が?」
「そんなの、この部屋には居ないの」
上を見ても居ない。
下を見ても居ない。
左右を確認しても、居るのはミユンとルシィだけで、乙女なんて、どこにも居ない。
俺はそっと、ルシィの肩に手を置いて、優しく、優しく、答えてあげた。
「ルシィ。乙女なんて、どこにも居ない」
「目の前に居るじゃろうがっ!!」
「目の前に居るのは、ルシィだけじゃん。確かに、真っ赤な目は綺麗で、そこそこ御山も大きくて、脚もすらっと触り心地抜群だけど……」
近付いて、太ももを撫で撫で。
あれっ? なーんかルシィの奴、顔真っ赤にして、可笑しいな……色っぽく見えるぞ?
「パパ。浮気はドゥシャに、報告なの」
「はっ!? 俺はっ、一体何を……」
すかさずルシィから離れて、息を整えます。
「っ、儂は帰るっ! こんな所に居てっ、襲われては堪らんのじゃっ!」
ルシィにしては珍しく、大股では無く小走りで、部屋から飛び出して行った。
危うく、事案発生だわぁ。
「ミユンが居てくれて、助かったな……」
「後少しで、パパの玉が危なかったの」
「何で、俺の玉?」
「あっちの壁の、覗き穴っ」
この部屋に覗き穴?
ミユンが指差す方の壁には、置き時計が設置されており、近付いて確認してみる。
「何個か穴っぽいのは有るけど、この穴が何だって言うんだ……うひっ!?」
『浮気したら、玉潰すのぉぉぉっ』
爛々と、怪しい光を放つ、ミルンの金色の瞳が、壁の向こうから、コッチを凝視している。
あっぶねええええええ────っ!?
「ねえミルンさん。今のは違うからね?」
『浮気したら、玉潰すのぉぉぉっ』
「リピート再生かな? 違うからね?」
『浮気する前に、玉潰すのぉぉぉっ』
駄目だ、リピート再生だ。
置き時計から、ゆっくりと離れ、ミルンのお目々と、さようならをします。
だって、怖いんだよっ!?
「あっ……アズヴォルド卿の事、忘れてた」
「パパに挨拶来てないから、まだ帰ってないの」
「そりゃ良かったわ。ミルンにお願いして、斥候部隊を呼んで貰うか」
「それは良いけど……」
分かってるよミユン。
今のミルンに近付けば、真っ先に玉を潰しに来るだろう事は、分かってるんだ。
「そんな時は、コレだな」
空間収納から取り出したるは、ぶよぶよとした、とある物体の丸焼き。俺の身代わりとなる、オークの睾丸焼きだ。
「良しっ! 隣の部屋に行くぞっ!」
「足がぷるぷるしてる」
「ははっ、当たり前だろ?」
睾丸の丸焼きで、許してくれなきゃ、その次は俺の玉なんだから。防ステ高くても、怖いモノは怖いんだ。
そんなこんなで、無事、何事も無く、楽しい楽しい祝日が、終わりを告げたのである。
ミルンに追われて、館内を爆速?
そんな事は、していない。
していないったら、していない。




