5話 ミユンと一緒にぐるぐると.3
喫茶店で小腹を満たし、丁度良い時間になったので、ルシィを連れて、施設へと移動。
その施設とは、婚約御披露目パーティーの準備と、並行して作った、とある研究所。
「これが……その義肢とやらの資料か」
「機密文書だから、盗むなよルシィ」
「誰が盗むかっ!?」
ヴォイド大陸で見つけた資料を解析。
先ずは、木材で型を組み上げ、確認を行い、その後、鍛冶職人達に、"部品毎"に製造を依頼して、組み上げる。
「ふむ……まさか目の見えぬ物を、この様に雇うとはの。驚きじゃわい」
「だろ? ああ言う人達は、聴覚や手の感覚が優れているから、部品毎に触って貰って、組み方を覚えれば、結構な戦力なんだ」
「耳の聞こえぬ者も、居る様じゃが、どの様にして、意思疎通をしておるのじゃ?」
「そこは共通して、コレを使って貰ってるぞ」
「何じゃそれは……小さな凹凸があるの」
「それは"あ"だな」
異世界版、初期型点字板。
これを、共通のコミュニケーションツールとして、一人一人に支給している。
勿論、目が見えない人には、簡単な手話を覚えて貰い、両者共に支え合って、この研究所を回している。
「これら全てを、御主が考えたのか?」
「俺では無いな」
「では、誰がこの様な物を、考えたのじゃ」
「この資料の山を見りゃ、分かるだろ?」
「……古代人か」
と言う事にしておかないと、ルシィの質問攻めが、回避出来無いからな。
点字や手話は、俺の知ってる範囲でだから、まだまだ改善しなくちゃならん。
「リティナが居れば、無くなった腕も生えるけど、長期で放置してたら、治せないだろ?」
「その為にこの施設を、作ったと申すか」
「あくまで、理由の一つだ」
「他の理由は何じゃ?」
そんなの、口に出す訳無いだろうに。
日本だと、こう言った人達は、苦しいながらも、それでもなんとか、生活出来ていた。
しかし、異世界は違う。
目が見えないイコール、死。
耳が聞こえないイコール、死。
腕や脚が無いイコール、死。
魔物が来たら、即終了。
理不尽にも程がある。
「他の理由は、内緒だ……」
「流は本当に、良う分からぬ奴じゃ」
ギィッギィッ────「パパ、連れて来た!」
「ミユン、あんがとさん」
車椅子の車輪は、改良が必要だな。
ミユンが押すたびに音が鳴るし、手で回すにしても、相当な腕力がいるか。
「ルシィ、紹介しよう。この施設の管理をして貰っている、パナトーナさんだ。見ての通り、足が不自由だから、不敬だとか抜かすなよ」
「御主、儂を何だと思っておるのじゃ」
「泣き虫女王様」
「それをここで言うなっ!」
「ふっ、ふぷっ」
パナトーナさんに、ウケた様だな。
「陛下。ここの所長を任されております、パナトーナと申しますぅふふっ」
「なっ!? 笑うで無いわっ!?」
「ゴホンッ、失礼致しました。ぷふっ」
「ええいっ! パナトーナとやらっ! 儂に対してっ、不敬で有るぞっ!」
ちゃんと注意したのに、言うお馬鹿。
この施設に居る人達は、障害の所為で、住まう場所を追い出され、必死の思いで、この地に辿り着いた人達だ。
要は、捨てられた人達。
多少なりとも、国を恨んでいる人達だ。
女王に払う、敬意なんてモノは、無い。
「不敬で斬首ですか? 私死にたくなーい。と言う事で、流様。実験しても良いですか?」
「止めろパナトーナ。ルシィ、今の言葉を取り消せ。さも無いと、標的になるぞ」
「何じゃっ、何の話をしておるっ!」
「ミユン、パナトーナの車椅子から、絶対に手を離すなよ。地面に固定だ」
「りょっ」
床から根っこを生やして、車椅子を固定。
これならば、パナトーナは動けない。
「ミユン様。コレ……解いてくれませんか?」
「大人しくしててっ」
「殺られる前に殺らないと、不敬で斬首は嫌ですよ? だからねっ? ねっ?」
「ミユン怒るよ……」
流石はミユン、良い仕事だ。
俺は取り敢えず、ルシィを一旦外へと連れ出して、簡単な事情を、説明タイムです。
「なぁルシィ。俺、ちゃんと言ったよね? 不敬だとか抜かすなよって」
「彼奴っ、儂に対して、一体何をしようとしたのじゃっ! 説明せいっ!」
「落ち着けっての。ただでさえお前は、この施設の人達からしたら、"憎むべき対象"なんだから、少しは自重しろって」
「何故儂がっ、憎むべき対象なのじゃっ!?」
どうやらこの女王、相当頭が悪い様だ。
今さっき、この施設で働いている人達を、しっかりと見たと言うのに、マジかーい。
「ルシィ。お前は今まで、あんな人達に対して、何かしてあげた事はあるか?」
「そんな事っ……」
「女王として、何か政策を考え、実行して、各貴族達に波及させたか?」
「……っ」
「スラムの状況を見る限り、無いだろうな」
必死に生きようとする人達に、貴族は何もせず、町や村から追い出され、その行き着く先には、光なんて無い。
希望が持てない。
その思いの矛先は、何処に向くのか。
「パナトーナさんは、王都のスラムから来た」
「っ、それはっ……」
「魔物に怯えながらも、必死に杖を付いて、ここ迄来たんだってさ。俺が見付けて無けりゃ、どうなってたか……」
下手したら、スラム化しちゃって、手が付けれない状況にまで、なったかも知れない。
「それとな。ここで研究してんのは、義肢だけじゃ無い。あのままだったら、ルシィの立派な腹肉に、穴が開くところだったぞ」
「はっ? 儂のっ、腹肉って言うなっ!?」
「疑問か突っ込みか、どっちかにしろよ」
この、魔物蔓延る異世界で、普通の車椅子なんて、作る訳が無いだろうに。
「少し頭を冷やしたら、中に戻るぞ。パナトーナさんに、しっかり謝れよな」
「ぐっ……分かったわ」
本当に分かってるのかね、この女王は。




