3話 祭りをのんびり楽しむデー.6
時刻は既に、十二時十五分。
本来であれば、貴族会議とやらに出ないと、不味い時間なんだけど、御免ねドゥシャさん。
俺はいつでも、ミルン優先です。
「ミルン。折角のお祭りなんだから、さっきの事は忘れて、楽しもうぜ」
お茶屋を出てからと言うもの、ミルンはずっと、お皿の破片が入った袋を眺め、尻尾がへにゃっと可愛いまんまです。
「むぅぅぅっ」
「頬っぺた膨らませても、割れた物は、どうにもならないだろ?」
「そうだけど……ドールなら、直せる?」
「ドール? どうだろうなぁ。壊れた皿を直す事は出来ても、流石に、毒無効の効果は、狙って付与出来ないだろ」
ドールの付与がランダムなのは、貴族に渡したお土産の、ネックレスを見れば分かる。
頭に付けると、腰痛改善効果。
腕に巻くと、血行促進効果。
耳に付けると、痒み軽減効果。
中には、ガチで有用な効果付きも有ったが、大半は、ネタ効果付きの物だった。
「世の中そう、甘くは無いの」
「それが分かっただけでも、収穫だな。お皿なら、持ち出しを許可するから、次は割らない様に、対策をしっかりしなさい」
「いいの?」
「俺が許可するんだ、問題無いだろ」
「むふふっ、有難うお父さんっ!」
ミルンの尻尾が、ピンっと復活っ!
持っていた袋を腰に付け、よじよじと背中を登り、俺の頭をロック完了っ!!
「みっ、ミルンっ……締め付け過ぎっ」
「むふふっ、幸せのギュっなのっ」
「今の状況的には、メギュっだろ。そいで、何処か行きたい所はあるか?」
今館に帰っても、会議には間に合わないだろうから、ミルンと楽しく遊びます。
「お肉を買って、あの場所に行くっ」
「あの場所……あぁ、分かった。そんじゃ、あのお酒も持って行くか」
「お酒っ。喜ぶと思うのっ!」
そうして、祭りの喧騒の中、俺とミルンは、色々と買い込んで、とある場所へと、向かって行った。
領主館の裏手に流れる、魔龍の川。
気分転換で、良く釣りをする場所だけど、今日の目的は、釣りでは無いので、そこからもう少し奥の、山の中だな。
「お父さんっ、もう少し力を込めてっ」
「全力なんですよっと」
「しっかり拭かないとっ、苔が生えるの!」
何をやってるのかって?
見りゃ分かるだろ、お墓掃除だよ。
ミルンの大切な、パパとママが眠る、ファンガーデンで最も、神聖な場所。
ファンガーデン管理の、巨大墓地。
館を改修した際に、ミルンに了承を貰って、二人の遺骨を、この場所に埋葬した。
地盤もしっかりした斜面で、ここからでも世界樹が見える、見晴らしの良い場所だ。
「うしっ、どうだミルンっ! ここまで擦ればっ、綺麗になっただろっ!」
「お父さんの貧弱さが憎いっ」
「泣きたくなるから、貧弱って、言わないで?」
祭りの喧騒も聞こえない、とても静かなこの場所で、何でお墓掃除をしているのか。
答えは簡単。
お墓参りついでに、お祭りのアレやコレやをお供えして、パパやママにも、楽しんで貰いたいんだとさ。
「でもね、ミルン。お花の代わりに、串焼きの束を立てるのは、どうかと思うぞ……」
「んしょっ、ママなら喜ぶのっ」
「パパなら?」
「ママに従うのっ」
やっぱり、尻に敷かれてたのかな。
そう言えば父さんも……母さんに逆らった事なんて、一度も無かったわ。
「……家庭円満の秘訣か。それじゃあ、ミルンのパパさんには、この酒を進呈しよう」
アズヴォルド卿から貰った、祝い品の中に有った、お高そうなボトルだ。
キュポンッと開けて、毒無効の杯に注ぎ、そっとお墓の前へ置いて、俺も一杯。
「ママの分は?」
「んっ? ミルンのママも、酒飲むのか?」
「飲んでたの」
おかしいな……母さんは下戸で、酒なんて一滴も、飲めなかった筈だけど。
「なんかね、飲んでも吐かない体は、サイコーって、ガブガブ飲んでたの」
「あぁ、そりゃそうか。流石ケモ耳母さんだわ」
杯をもう一つ、『空間収納』から出して、酒を注いで、プレゼントフォーユー。
転生して、丈夫過ぎる胃腸になったのなら、酒もガブガブ飲めるわな。
「そんじゃ、乾杯……ふぅ、旨い」
「むふふっ。美味しいお酒が飲めて、パパとママも、きっと喜んでる」
「ははっ、そうだろうな」
神様の居る異世界だし、若しかしたら、今ここに、二人は居るのだろうかね。
「……にしてもこの場所、妖精多いなぁ」
ミルンのパパと、ママの姿は見えないが、この共同墓地に居着いてるのか、妖精達があっちにそっちにと、うじゃうじゃ居ます。
「皆んな、楽しそう?」
「ミルンは気配だけなら、分かるんだったな。妖精達は皆んな、楽しそうにしてるぞ」
「ふーん。どんな姿の妖精さん?」
「んっと、大半が小人っぽいぞ。ミルンの頭の上に居るのも、小人の妖精だな」
「どうりで、頭が重たいっ」
妖精なんて、そこ迄の重量、無いだろうに。
気配がするから、気になるのかね。
「妖精さんや、ミルンの頭から下りてくれ」
妖精と目を合わせて、優しくお願いだ。
「あっ、頭が軽くなったのっ!」
その妖精、ミルンの頭から下りたのは良いが、次は尻尾の中に埋もれて、遊んでいる。
「お父さん。ミルンに付いてた妖精、取れた?」
「もう居ないぞ。取れた取れた」
「なんか、尻尾が重いのっ」
ミルンは尻尾を、ブンブンと振り回すが、妖精はそれが、楽しいのだろう。ミルンの尻尾を掴んで離さず、尻尾の動きに合わせて、ぐるんぐるん回ってます。
「まだ重たいのっ!」
ミルンは気付いていない。
妖精達が、ミルンの尻尾に集まり始め、アトラクションの順番待ちの如く、長蛇の列が、出来ている事に。
「見ていて、和む光景だよなぁ」
「左様に御座いますね」
「っ……」
一人言の筈が、良く見知った声が、背後から聞こえてきました。
「流様。今の時刻を、教えて下さいませ」
「えぇっと……十五時……です」
「会議の開始時刻は、何時に御座いましょう?」
「はぃ……十二時半……ですっ」
ねぇ、父さん。
ミルンの、パパさん。
尻に敷かれるのって、どんな感じだろうか。
「時間を遅らせましたので、参りましょう」
「……はい」




